16区のル・コルビュジエ
パリ13日目。2008年パリに初めて来た際、近代建築の巨匠ル・コルビュジエが設計した16区のラ・ロッシュ邸、14区のパリ国際大学都市、パリ近郊ポワシーのサヴォア邸を回った。ラ・ロッシュ邸にはその後もまた訪れている。今回ふとまた建築の美に触れたくなって、ラ・ロッシュ邸を訪れることにした。
15区のアパートから16区のラ・ロッシュ邸までバスで20分程のはずなのに、バスがなかなか来ない。20分以上待っても来ないので仕方なくタクシーに乗る。話好きのハイチ人運転手が色々話しかけてくる。日本から来たと告げると「日本はテクノロジーがすごい」などと言っていたが、降り際同僚との電話で「シノア(中国人)」がどうとか言っていたので、日本人と中国人の違いをちゃんと理解しているかは疑問だ。
16区の高級住宅地に門で囲われた私道を下ると、ラ・ロッシュ=ジャンヌレ邸が見えた。白いモダニズムの建築に心躍る。
ドアを開けると玄関ホールは吹き抜けになっていて、サロンやダイニングがあるより「公的」な左側と寝室やキッチンがある「プライベート」な右側に分かれている。
キッチンも天井が異様に高く、天窓がある。テラスも左と右側に各一つずつ。ラ・ロッシュ氏が絵画コレクションを飾っていたリビングルームにはスロープがあって上の階の書斎に繋がっている。書斎にはまた天窓があり、その更に上をいくと、辺りを見渡せる広々とした屋上庭園。
階段を上ったり下りたり、いろいろな部屋を覗き、建物の中をぐるぐる回っているだけで、気持ちがワクワクしてくる。そして心が沈静化し、浄化されている。建物と空間の美しさに、心が満たされ、こちらも凛とした気持ちになる。思わず背筋を伸ばしてしまう。
この家には建築好きな人が世界中から集まっており、私と同じく一眼レフで写真を撮りまくっている人達がいる。すれ違い様に、同じル・コルビュジエ信奉者としての絆みたいなものを感じる。
ル・コルビュジエがこの家を建てたのは1923−25年。彼が36歳の時であった。こんな風に自分の住まいにも、生き方にもこだわって美を追求していけたら、と願いラ・ロッシュ邸を後にする。
次に向かったのはエッフェル塔。以前から熱望していた、エッフェル塔の下の公園、シャン・ド・マルス公園でピクニックするためだ。行きたがらない娘をお菓子で釣り、なんとか辿り着く。
その娘がエッフェル塔の近くにいくと「登りたい」と言い出す。これは意外な展開だ。既に夜の7時だから、登り終われば夜中になってしまう。でも娘はどうしても登りたい、と譲らない。こんなに娘が関心を見せることもなかなかないかも、と思い挑戦してみることにする。
2階の展望台まで階段で上がり、そこから頂上まではエレベーターで行くコースを選んだ。階段を登るのは身体に堪えるが、周りの景色を見ながら自分のペースで行けるので中々楽しい。
ちょうど夕暮れ時でパリはオレンジ色に染まっていた。塔に来る直前、水がなかったので私も娘もカフェラテを飲んだが、そのせいか娘は異常に元気だ。私もカフェインのお蔭でまだまだ行けると思った。
夜8時半ごろライトが点灯され、エッフェル塔はオレンジ色になった。頂上からの絶景をしばし楽しんだ後、明るく照らし出された階段を降りて下の公園に着いたのは午後9時過ぎ。
ライトアップされたエッフェル塔を間近で見ながら芝生で遅い夕食(スーパーのサンドイッチ)を食べる。金曜の夜なので辺りは人でいっぱい。マイクを持って大音量で弾き語りをしている人もいた。
遅くなったので公園を急いで出ると、路上で人々がこぞってエッフェル塔の写真を撮っている。振り返って見ると、エッフェル塔がキラキラ光っていた。時間はちょうど午後10時。夜毎時0分から5分間、「シャンパンフラッシュ」と言ってキラキラ光るらしい。
それを見て一層目が冴える。今夜は長い夜になりそうだ。