見出し画像

がんと『標準治療』その1

『標準治療』という言葉を聞いたことがありますか?
当然知っていると言う方も多いと思いますが、まだまだ誤解されている可能性が高い言葉でもあると思いますので
今更ながら『標準治療』とはなんぞや?
というお話をさせていただきたいと思っています。

―――――――――――――――――――――――――
▼そもそも『標準治療』とは?
―――――――――――――――――――――――――
がん情報サービスの用語集を見てみると、『標準治療』は下のように記載されています。
https://ganjoho.jp/public/qa_links/dictionary/dic01/modal/hyojunchiryo.html
「標準治療とは、科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療をいいます。
一方、推奨される治療という意味ではなく、一般的に広く行われている治療という意味で「標準治療」という言葉が使われることもあるので、どちらの意味で使われているか注意する必要があります。なお、医療において、「最先端の治療」が最も優れているとは限りません。最先端の治療は、開発中の試験的な治療として、その効果や副作用などを調べる臨床試験で評価され、それまでの標準治療より優れていることが証明され推奨されれば、その治療が新たな「標準治療」となります。」
―――――――――――――――――――――――――
▼申し訳ないけど、わかりにくいです・・・
―――――――――――――――――――――――――
ちょっとわかりにくいですよね。
なぜわかりにくいかというと、沢山のことが一度に書いてあるからだと思いますので、少しずつ分解してみましょう。

①『標準治療』は現在の最良の治療である
②一部の患者さんには推奨できない
③別の意味で『標準治療』という言葉が使われることがある
④『最先端の治療』というとても誘惑的な言葉がある
⑤『最先端の治療』は開発中、試験的な治療でまだ効果などが不明
⑥『最先端の治療』の効果が実証されれば、『標準治療』になることがある

こんな所でしょうか?
それぞれにさらに解説を加えます。
―――――――――――――――――――――――――
▼①『標準治療』は現在の最良の治療である
―――――――――――――――――――――――――
よくいわれることですが、『標準』という言葉のイメージの問題が大きいです。
普通『標準』と聞けば、上・中・下の「中」。松・竹・梅でいえば、「竹」。
お寿司屋さんのメニュー(お品書き)とすると、特上・上・並の「並」くらいを想像してしまうことでしょう。
だれも「特上」を『標準』というなんて思いません。良くて「上にぎり」くらいのイメージです。
メニュー表に『標準』と書いてあって、それが一番高額だとしたら、何かだまされた感じがするし、多くの方は注文することはないと思います。
なので、我々が「標準治療をオススメします」と言っても、
「お金ならいくらでも出しますので、最高の治療をしてください!!」
「この病院でできないのであれば、もっと良い病院を紹介してください!!」
とか言われてしまうわけです。
―――――――――――――――――――――――――
▼②一部の患者さんには推奨できない
―――――――――――――――――――――――――
『標準治療』が、現時点での最良の治療であることは沢山の臨床試験の結果が示していますので、疑いようがありません。
とはいえ、臨床試験に参加するにはかなり厳しい条件(適格基準と除外基準)がありますので、それらをクリアした方のみが参加しています。
その条件とは、年齢であったり、血液検査の数値であったり、合併症の有無であったりと様々ですが、1項目でも満たしていないと参加することができませんので、臨床試験に参加することは「狭き門」と言えます。
僕の感覚でいえば、臨床試験への参加条件をクリアできる方は、半分以下、3-4人に1人くらいではないでしょうか?
一般的な臨床の現場において、臨床試験並みの基準で治療をするしないを決めてしまうと、『標準治療』を受けられる人がとても少なくなってしまうため、実際には基準を緩めて適応している状況です。
とはいえ、大幅に基準から外れている方には、特に安全性の面が心配になりますので、『標準治療』がオススメできない場合があります。
―――――――――――――――――――――――――
▼③別の意味で『標準治療』という言葉が使われることがある
―――――――――――――――――――――――――
『標準治療』が現時点での最良の治療であるという認識は、ある程度臨床試験というものを熟知していたり、エビデンスを基にした治療を心がけているドクターやナースにおいては、ある意味常識ですが、そのようなことに関心がない医療者もいらっしゃいます。
関心がなければ、ものの考え方は一般の人と同様ですから、『標準治療』イコール『並の治療』『一般的な治療』という風な意味で使用してしまう方がいるため、「『標準治療』ってなんなのや??」って誤解がさらに拡大してしまうのかもしれません。
また、あえて『標準治療』を『一般的な治療』という意味で使用している方々が存在します。
少なくとも現時点ではエビデンスが乏しい(将来的にもエビデンスが出るかは怪しい)治療を、『標準治療』では効果が得られなくなった患者さんに向けて誘導するような際に良く見受けられます。
さも『標準治療』より勝っている、すぐれているような印象に操作するような物言いには気をつけた方が良いかと考えます。

―――――――――――――――――――――――――
▼中間まとめ
―――――――――――――――――――――――――
まだ半分ですが長くなってしまったので、後半は次回にさせてください。
『標準治療』、『先進医療』、『治験(臨床試験)』など、そもそも呼び名が小難しく、イメージが想起しにくいのが一番の問題かもしれません。
その様な状況において、『標準治療』よりも上をいくようなイメージが惹起されるような名称をつけることは、戦略としては正しいかもしれませんが、ある意味「人の命をもてあそぶ」ことにつながりかねませんので、注意が必要です。
『最先端治療』、『第●の治療』、『希望のがん治療』、『新たな選択肢』などなど
イメージがエビデンスを上回ってしまう状況は「どげんかせんといかん」のでしょうけどね。

今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
また次回もどうぞよろしくお願いいたします。

いいなと思ったら応援しよう!