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がんと『糖尿病』

糖尿病』という病気は、テレビの健康番組などでもたくさん取り上げられたりしていますので、『がん』より有名な病気かと思います。
『糖尿病』の原因としては、高脂肪/高カロリーなどの食生活の乱れ以外にも、運動不足、ストレス、睡眠不足、タバコ(喫煙)なども関与しています。
どの原因も、『がん』になりやすいとされるものと重複していますね。
実際、日本で行われた調査の結果、糖尿病の方は、「がん」にかかるリスクが、男性では1.27倍、女性では1.21倍になることが判明しています。
特に、肝臓がん、膵がん、大腸がんのリスクが増えるようです(他のがん種も増える傾向にあるものが多いようです)。

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▼なぜ、糖尿病だとがんになりやすい?
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原因①:インスリン
糖尿病とは、血糖値が上昇する病気であることはご存知の方が多いかと思います。
血糖値を下げるホルモンである『インスリン』というものも聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?
(糖尿病の治療としてインスリンを注射したりすることもあります。)
この「インスリン」が少なくなる(需要をまかないきれない)のも血糖値が上昇する原因になりますが、特に肥満症の方は、「インスリン」は十分に作られていてもうまく働けない状況にあるとされています。
これを「インスリン抵抗性」といいます。
この場合、「インスリン」自体は血液中にたくさんある状態で、インスリンがたくさんあると細胞は増殖しやすくなりますし、本来は古くなったりして無くなるはずの細胞(アポトーシスと言います)が生き残りやすくなってしまったりします。
「がん」細胞のような、遺伝子のエラーが起こった細胞は、本来アポトーシスを起こして無くなるのですが、その反応が起こりにくくなり、しかも増殖しやすくなってしまうという結果、「がん」になりやすくなると考えられています。

原因②:高血糖
さらに、血糖値が高い状況は、体内で「酸化ストレス」が亢進し、この「酸化ストレス」はDNAにダメージを起こしたりして、「がん細胞」のもとになる遺伝子のエラーが起こりやすくなってしまいます。

原因③:慢性炎症
肥満の状態においては、脂肪組織で炎症が起こるといわれています。
高血糖や酸化ストレスの亢進は、この炎症をさらに悪化させてしまうとされており、炎症は慢性化していきます。
炎症が持続している場では、細胞が壊れたり再生したりが通常よりも早いサイクルで行われ、遺伝子のエラーも発生しやすくなります。つまり「がん細胞」の種ができやすくなるわけです。また慢性炎症の場では、さまざまなサイトカインと呼ばれる物質が飛び交っており、「がん細胞の種」が育ちやすい環境になってしまっているとされています。

これら3つの原因以外にも様々な仮説が立てられており、「糖尿病」と「がん」は切っても切れない密接な関係になってしまうわけです。
その結果、糖尿病患者さんの死亡原因の第一位は「がん」になっているようです(糖尿病でなくても死因の第一位はがんなのでしょうけど)。

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▼糖尿病とがん治療
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糖尿病があると、がん治療を行う場合に様々な影響がでてきてしまいます。
○手術に際して:
例えば、がんの手術を受ける場合、通常の方と比較して傷口の「感染」を起こしやすくなることが知られています。
また、糖尿病の方は腎臓や心臓といった臓器の機能が低下していることが多く、手術によるダメージが加わることで、それらの臓器への負担が倍増し、負担に耐えられず機能不全に陥ってしまう方もいらっしゃいます。
つまり、手術による合併症が起こる可能性が増加し、その結果として入院期間の長期化や術後死亡リスクが上昇する事がわかっています。

○抗がん剤治療に際して:
「抗がん剤治療」の場合にもかなり影響がでることがわかっています。
糖尿病患者さんは一般の方よりも「感染症」のリスクが元々高いのですが、そこに抗がん剤が加わると、抗がん剤によって白血球が減ったりした結果、さらに感染症を起こす可能性が高まります。また重症化しやすく、治りにくい可能性もあり、「抗がん剤治療」の遂行に大きな影響が出てしまう方も少なくありません。
吐き気・食欲不振といった副作用がでると、食事量が不安定になってしまい、余り食べられていない時に、普段と同じように「インスリン」を注射したり、血糖値を下げるクスリを飲んだりすると、「低血糖」(血糖値が下がりすぎてしまう)を起こしてしまうかも知れません。
逆に、吐き気止めとして使用する「ステロイド」には、血糖値を上昇させる副作用がありますので、血糖のコントロールが乱れやすくなってしまいます。また、それまで糖尿病ではなかった方もステロイドによって糖尿病になってしまう場合もあったりします(ステロイド糖尿病という名前がついています)。
さらに、糖尿病によって腎機能が低下していると、そもそも抗がん剤の投与が難しかったり、副作用が出やすくなってしまったりします。
「透析」を受けられている方の抗がん剤治療はとても難しく、抗がん剤治療に習熟している腫瘍内科医であっても抗がん剤の選定や投与量、副作用マネージメントなどに難渋する例も少なくありません。

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▼糖尿病とがん まとめ
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糖尿病の治療薬も増えてきて、クスリさえ飲んでいれば糖尿病は大丈夫という風に過信し、大切な食事や運動を怠っていると、「がん」になるリスクが高まったり、いざ「がん」になってしまったりした時にとても苦労してしまいます。
普段から食事や運動に気をつけ、「健康的」に過ごすことの大切さを改めて実感しましたというお話しでした。

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