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がんと『統合医療』

皆さんは、『統合医療』という言葉をご存知でしょうか?
あまり聞きなじみのある言葉ではないことは確かだと思います。
医療者の中でも、何となくいかがわしい匂いのするタイプの医療分野ととらえている方も多いのではないかと考えています。
そもそも僕自身が、あまりよく調べもせず「統合医療って、ちょっと怪しいやつでしょ!」って思っていました。
どうしてそのように考えてしまったのでしょうか?

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▼補完・代替療法
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『補完・代替療法』と呼ばれるものはご存知でしょうか?
英語でComplementary and Alternative Medicineといい、頭文字をとってCAM(カム)と呼ばれることもあります。
いわゆる『民間医療』と呼ばれるものとほぼ同義であり、病院では提供されることがないものです。
例えば、アガリクスやサメ軟骨、プロポリス、各種ハーブやビタミン類などの「健康食品」と呼ばれるものや、漢方(東洋伝統医学)、ヨガ・瞑想、気功・太極拳、霊気、アロマセラピー、音楽療法などなどが含まれます。
『補完・代替療法』には、結構しっかりとしたエビデンス(有効性の証明)があるものがある一方、「それって本当に効果あるの?」というものまで幅広い手法・手段が含まれています。
というか、どちらかというと、効果が証明されていないものの方が圧倒的多数であるため、担当医によっては「そんなの意味ないよ!」とバッサリ切り捨ててしまう人も多く、患者さんも担当医に隠れて実施せざるを得ない状況になっている場合が多いです。
『補完・代替療法』とひとまとめにされることが多いですが、『補完療法』と『代替医療』に別れ、『補完療法』はがんの標準療法を受けながらそれを補うような形で実施されるものであり、『代替医療』はがんの標準療法に取って代わって実施されるものとなります。
そして特に注意しなければならないのは、『代替医療』を選択したがん患者さんの死亡率は、標準治療を選択した患者さんよりも最大で5倍高くなるという研究結果があるということです(米エール大学医学大学院、Skyler Johnson氏の研究チーム発表)。
こういう側面もあるため、がん治療医は『補完・代替療法』を信用していないのかもしれません。
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▼統合医療
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『統合医療』に話を戻します。
『統合医療』とは、「近代西洋医学」と「補完・代替療法」を組み合わせて行う療法のことです。
日本統合医療学会によると、「統合医療とは、医療の受け手である『人』を中心とした医療システムである。近代西洋医学に基づいた従来の医療の枠を超えて、『人』の生老病死に関わり、種々の相補(補完)・代替医療を加味し、生きていくために不可欠な『衣・食・住』を基盤として、さらには自然環境や経済社会をも包含する医療システムである。」と説明されています。
壮大すぎて逆にわかりにくくなってしまっているかもしれません。
日本統合医療学会ホームページhttp://imj.or.jp/)のトップ画面には「統合医療は“人”がより健康で幸せに生きることを目的にした医療です」と表示されており、僕的にはこのような理念はとても好きです。
米国国立補完統合衛生センター(National Center for Complementary and Integrative Health、略称: NCCIH)では、「従来の医学と、安全性と有効性について質の高いエビデンスが得られている相補(補完)・代替療法とを統合した療法」と定義しています。
『補完・代替医療』の中でもエビデンスを重視して、取り入れていきましょうという立場のようです。
そして、厚生労働省の『「統合医療」のあり方に関する検討会』においては、「近代西洋医学を前提として、これに相補(補完)・代替療法や伝統医学等を組み合わせて更に生活の質(QoL)を向上させる医療であり、医師主導で行うものであって、場合により多職種が協働して行うもの」としています。
厚労省における統合医療の在り方は、あくまでも「医師主導」、というか厚労省的には「『医療』は医師が行うもの」という根強い考えがあるのでしょうね。

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▼統合医療とエビデンス
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まとめると、『統合医療』とは、もともとエビデンス重視の「近代西洋医学」と「補完・代替療法」の中でもエビデンスがあるものであれば、一緒に実施したらより効果的な医療になるのではないかな?っていう考えをベースにして、
「近代西洋医学」も万能じゃないし、「補完・代替療法」の中には「近代西洋医学」が苦手な分野を補うような効果が実証されているものもあるから、仲良くやっていきましょうという感じかなと僕は理解しています。
そしてここで問題になるのが、エビデンスです。
(エビデンスに関しての僕の記事も参考にしてください:がんと『エビデンス』
「補完・代替療法」でエビデンスを出そうとした場合、例えばAという治療方法をやった群とやらなかった群にわけて、それぞれの効果を比べます。
Aをやった群の方がやらなかった群に比べて統計学的に効果が高ければ、Aの効果(エビデンス)が証明されるわけです。逆に統計学的に差がでなければ、効果(エビデンス)はないと判断されます。
エビデンスはあくまでも確率です。
効果がないと判断された場合でも、A治療を行って、効果があった人もいます。
つまり効果がないイコール全員効果がなかったというわけではないということです。
また何故かわからないけど、行わない人にも効果が出る人がおり、確率的にはA治療はやってもやらなくても効果が出る人には出て、出ない人にはでないというのがエビデンス的に効果がないという状態です。
そして、効果があるという結論になったとしても、次にその研究のやり方が本当に正しいのか?(エビデンスの質)という点が問題となり
最終的に「近代西洋医学」ほど確固としたエビデンスをもっている「補完・代替療法」はほぼなく、
多くの医療者が「やっても無駄!」「意味ないよ!」と考えてしまうのかなって思います。
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▼統合医療まとめ
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『標準治療』を差し置いて、『代替医療』を受けることはお勧めできませんが、『標準治療』を受けながら、プラスα、何か自分でできることはないだろうか?という考え方には僕は賛成です。
難しいのは、本当にプラスαになっているのか?の評価です。
もしかしたらマイナスになってしまっている場合も「無きにしも非ず」ですから、注意が必要です。
また、となりの誰かさんには効果があっても、自分には効果がない可能性も高いです。
「となりの誰かさんを信じて行う」とか「値段が高いから効くかも?」というよりは、自分の身体(肌?感覚?)にあうのか、あわないのかが重要なのかなって思いました。

今回も最後までお読みいただきありがとうございます。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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