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がんと『ファイトケミカル(フィトケミカル)』

『ファイトケミカル(フィトケミカル, phytochemical)』というものをご存知でしょうか?
植物に含まれる化学物質で、phyto=植物、chemical=化学成分という、そのままの名前が付けられています。
「phyto」を「ファイト」と読むか「フィト」と読むか、どちらもあるようですが、僕は『ファイト』が出るような気がするので『ファイト』が好きですね(個人的な意見です)。
『ファイトケミカル』は、人間に必要な栄養素というわけではなく、植物の色だったり、香りだったり、辛味やにがみを起こす物質です。
トマトの赤い色の成分である「リコピン」
ニンジンのオレンジ色の「βカロチン」
唐辛子の辛み成分である「カプサイシン」
植物にはどんな作用をしているかよくわかっていないような物質がたくさん含まれているのでしょうが、その中でも、色々と研究が進み、人体に何らかの有益な影響があるだろうという物質を『ファイトケミカル』と称していると考えています。
僕の大学院時代の研究テーマが『ファイトケミカル』とがんに関するもので、一応それで論文も書いておりますので、ファイトケミカルの専門家と言えなくもない?((笑))
とはいえ、ファイトケミカル全般というよりは、ウコンに含まれるクルクミンという物質をメインに研究していましたので、どちらかというとウコンの専門家なのでしょうか(そんな専門家はいない?(笑))
ハウス食品の「ウコンの力」にはクルクミンが30㎎含まれており、研究している時期にはよく飲んでいましたね(今は飲んでおりませんが・・)。

『ファイトケミカル』の効果としてよく謳われているのは「抗酸化作用」のようです。
「抗酸化作用」というのがどういいのか?
体内に取り込まれた酸素の一部は、「活性酸素」や「フリーラジカル」と呼ばれる状態になってしまうことが知られています。
この「活性酸素」や「フリーラジカル」は、タンパク質や脂質などと反応したり、遺伝子に傷をつけたりして、生活習慣病や動脈硬化を促進したり、老化やがんの原因になるとされている物質です。
「活性酸素」や「フリーラジカル」による悪い作用(酸化作用)を打ち消すように働く作用が「抗酸化作用」です。
『ファイトケミカル』の多くには、抗酸化作用があることがわかっており、さまざまな病気のリスクを低下させるのではないかと期待されています。
とはいえ、「活性酸素」や「フリーラジカル」は体内で常時発生していますから、長い人生のうちの一時期のみ積極的に摂取したからいいというわけではなさそうです。
最近は、「リコピン」や「βカロチン」などファイトケミカル単独でサプリメントとして販売されていたりしますが、そのようなファイトケミカルを単独で摂取して、野菜そのものを食べるのと同じような効果があるのかは一度ちゃんと考えてみたほうがいいかと思います。

「野菜を1日350g摂取しましょう!」というのはどこかで聞いたことがあるかと思いますし、この1日350gを基準にして、野菜ジュースなどは「1日に必要な野菜の半分がこれ1本で摂取できます」とか宣伝していますよね。
野菜や果物を毎日350g摂取すると、食道がんや胃癌になるリスクが低下することはほぼ確からしいとされていますが、
そのがんのリスクを下げている野菜の主要な成分だけを取り出せれば、350gも食べずに錠剤何個分かですむのか?というのは疑問です。
野菜や果物にはたくさんの栄養素とファイトケミカルのような物質がたくさん含まれていますし、食物繊維なども何か良い作用をしていると思われます。
野菜を全体として考えて、色々といいものが含まれていて、それが総合して良い作用を起こしていると考えたほうがいいんだろうなって思っています。
また、野菜や果物を1日350gも摂れる人は、時間なりお金なり気持ちなりに余裕がある人が多いのではないかと思います。
さらに、野菜や果物をそれだけ摂取しながら、お肉をたくさん食べるということもなさそうであり、運動も平均よりはしてそうな気がします。
なので、「野菜を1日350g」ということの中には、ただ単に野菜350gに含まれる成分を摂取すればよいというのではなく、そこから派生する色々な良いことすべてをひっくるめて、その効果が発揮される可能性はきちんと考えておいた方がよいということです。

特に「βカロチン」は、肺がんの人がサプリメントとして摂取すると、肺がんの経過に悪影響を及ぼす可能性が指摘されていたりしますので、実験系では有益そうだからといって、本当に有効かどうかはやはりきちんと検証していく必要がありそうです。

ウコン(クルクミン)に話を戻します。
クルクミンにも抗酸化作用がありますが、実験室内で培養したがん細胞にクルクミンをかける(培養液に溶かす)とがん細胞が死にます。
成長するとかならず腸にがんができるように遺伝子が変異したマウスのえさにクルクミンを混ぜて食べさせていると、できるがんの数が減ります。
クルクミンががんに効果があるのはほぼ間違いありません。
NF-κBという物質を抑制することでがん細胞の死(アポトーシス)を誘導することまでわかっています。
では、人間ではどうかというと、1日クルクミンを9g(ウコンの力300本分)飲んでもらうという研究がなされました(海外のデータです)。その結果、下痢をしたり、吐き気がしたりしますが、身体の内部のがんには効果がありませんでした。
クルクミンを9g飲んでも、ほとんど体内に吸収されなかったらしいです。ですので、内部のがんには効果が出なかったという結果でした。
なかなか難しいですね。
このように、実験系では有望でも、本当に効果があるのかはやってみないとわからないんだなぁ~って、研究時代に痛感しました。

まとめます。
●サプリメントは、あくまでも補助であり、野菜(果物)の代わりにはならない可能性が高いので、野菜をしっかりとりましょう!
●実験でどれだけ効果があっても、人体で効果があるとは限らないし、反対の効果になる場合があることは知っておいてください。

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