コーチング脳で『がん医療』を考える 12
今回は、コミュニケーションの際に忘れられがちだけど、とっても重要なことの一つである「マインドフル」でいることに関するお話しです。
「マインドフル」と「がん診療」、実はとっても結びつきが強いし、行えると良いことがとってもたくさんあります。
是非この機会に、一緒に「マインドフル」について考えて行きましょう!
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▼マインドフルネスとは
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そもそも「マインドフルネス」とはどんな状態でしょうか?
Wikipediaには、「今この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに捕らわれのない状態で、ただ観ること」と解説されています。
端的に、「今、ここ」というように言われることもありますね。
仏教の瞑想に端を発するもののようですが、近年のマインドフルネスは、医療の分野で開発されたものです。
1979年にジョン・カバット・ジン(マサチューセッツ大学医学大学院教授)が、マインドフルネスストレス緩和プログラム(マインドフルネスストレス低減法)として開発し、このプログラムを8週間実践することで、ストレスが軽減されたり、ストレスに対処する能力が向上したりするというエビデンスがあります。
がん患者さんでのエビデンスもたくさんあります。
疲労や不安を軽減
気分面や機能面のQoL改善
より活発になれる
主観的ウェルビーイング(幸福度、健康度)向上
などなど、薬剤(クスリ)では改善が難しい諸問題の改善効果が期待されています。
さらに、ストレスホルモンであるコルチゾールや炎症性サイトカインの代表とされるIL-6(インターロイキン6)を減少させる効果もあるようで、がん治療への好影響も期待されています。
このように、近年のマインドフルネスは、医療の分野で開発されたものですが、かのGoogleが社員研修に取り入れたことなどから、一般的に実践されるようになり、急速に認知されるようになっています。
がん患者さんにとっても、基本的には良いことばかりで、特に副作用はないので、是非日常生活に取り入れてもらいたいなぁ~って個人的には考えています。
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▼マインドフルネスとコミュニケーション
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このマインドフルネスとコミュニケーションはどのように関連するのでしょうか?
マインドフルでいるということは、目の前のことに集中しているということと僕は理解しています。
逆に言うと、マインドフルネスではない状態でコミュニケーションをしているということは、相手の話を上の空で聞いている状態となります。
「この人、さっきと同じことを繰り返しているなぁ~」
「話長いなぁ~、いつ終わるのかなぁ~」
「お腹がすいてきたなぁ~、今日の夕飯何食べようかなぁ~」
なんて考えながら相手の話を聞いていると、時に
「ねえ!私の話ちゃんと聞いてるの!?」なんて怒られてしまったりしますね。
診察室でも同じことが良く起こっています。
医師は電子カルテの入力に忙しくて、パソコン画面ばかり見て、患者さんの顔をほとんど見ないという「嘆き」は、インターネット上の至る処で目にします。
実際に、「相手の話をマインドフルに聴くぞ!」と考えてトライしてみるとわかりますが、30秒もすると別の思考が浮かんできてしまい、相手の話への集中が途切れることに気がつきます。
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▼五感を使って意識を向ける
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マインドフルな状態でコミュニケーションができるようになると、とてもたくさんのことがわかるようになります。
腫瘍内科外来での診察場面で日々繰り返されている下のような会話があります。
ドクター:「前回の抗がん剤点滴の副作用はどうでしたか?」
患者さん:「大丈夫でした」
ドクター:「血液検査も問題ないので、今日も抗がん剤点滴を受けていってください」
この「大丈夫」がくせ者です。
どのようにくせ者かというと、大丈夫イコール
・副作用は全くなかった(副作用グレード0)
・少し副作用はでたけど、ほぼ普段通り過ごせた(グレード1)
・途中副作用はそれなりにあったが、大きく体調を崩すことなく過ごせた(グレード2)
・数日間はかなり大変な副作用があったけど、今日までに回復した(グレード3)
副作用の強さをグレードで評価した場合、同じ「大丈夫」でも、0から3まで含まれる可能性があります(グレード4は基本的に入院治療が必要なのでおそらく大丈夫とは言わない?)。
そして、グレード2なら何らかの対応策をとった方がよいかもだし、グレード3なら抗がん剤の減量が必要になる場合が多いので、患者さんが「大丈夫」と言っているからといって、そのまま抗がん剤を投与して良いかはわからないと言うことです。
※ではどうしたらいいのか?
目の前の相手に意識を向けることが必要なんだと思います。
耳で聞くだけではなく、目で見たり、肌で感じたり、五感をフル活用して、今この診察室で起こっていることに意識を向け続ける必要があるのだと思います。
患者さんに意識がしっかり向いていれば、患者さんの内側で起こっていることなどに直感が働くようになります。
そうできれば、同じ「大丈夫」という言葉であっても、副作用グレード0の「大丈夫」なのか、グレード3の「大丈夫」なのか、わかるようになってくると思います。
細かくグレードまでわからなくても、「グレード0の『大丈夫』ではなさそうだ」ということさえわかれば、何も「大丈夫」だけで推理しなくても、実際どうだったかを質問してみればいいだけですし、聞いてみたらやっぱりグレード0だったとしても、「それは良かったね」で済む話です。
こちらが集中して、見て聞いて、患者さんを理解しようと思うから、患者さんもそれに応えようと、「そういえば、こういうこともありました」と思い出してくれたりし、それが重篤な副作用の早期発見につながったりするのではないかと考えています。
逆に患者さんはマインドフルにドクターのことを観察していますよね。
「今日は機嫌悪そうだった」「疲れているようだった」とかは大抵当たっています。
診察室に入ってきた時点で、「今日は悪い話なんだろうなって覚悟しています」などという方もいらっしゃいます。
こちら(医療者)もマインドフルにコミュニケーションに望まないと、不用意な発言で患者さんをいたずらに傷つけてしまうことが充分あり得ますので、コミュニケーションにとってマインドフルネスはとっても大切ですというお話しでした。
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▼まとめ
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「マインドフルネス」と、言葉で言うのは簡単ですが、実際に行おうとするとやっぱり難しいわけです。
忙しく焦っている時や疲れている時に「マインドフル」になろうと思ってもできません。
つまり、朝から晩まで外来診察中「マインドフル」でいようと思ったら、日頃からかなり自分の体調に気を遣う必要があるわけです。
心身共に健康かな?って気がつけるのも、マインドフルでいるからだと思うので、瞑想などを通して、マインドフルを身につけていけると良いですよね。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
“コーチング脳で『がん医療』を考える”シリーズ12はいかがでしたでしょうか?
何か参考になることがありましたら嬉しいです。
次回以降もどうぞよろしくお願いいたします。
この文章は、宮越大樹さんの著書『人生を変える!「コーチング脳」のつくり方』(ぱる出版)(を教科書として、『がん医療』にコーチングを応用する方法について考えておりますので、まだ本書をお読みでない方は是非とも読んでみてくださいませ。