Official悲劇男dism② -伝票がヘラジカのカフェランチ編-
・13:30 ランチ
molly(名古屋市中区大須2-11-18)
──ビル端の細くて長い階段を上った先にあるカフェは美味い。
私の格言である。からんからん。ドアのベルは夜明けの鐘。ここからはじまる物語。店内をぐるりと見渡す。カップルがたくさん。活気に溢れた空間がそこにはあった。
「いらっしゃいませ!少々お待ちください」
ハキハキと声の通った店員さん。ホールと厨房、4人全員と目が合う。その眼光からそんじゃそこらのアルバイトではないことはすぐにわかった。
「あんたは客という有象無象の1人じゃない。おまえという一人の人間に特別な体験をさせてやる」
ハッキリとそう聞こえた。mollyには「接客のプロ」がいる。果たして俺はmollyにふさわしい客になれているだろうか。ひょっとすると"足りない"んじゃないか。そんな不安も案内されたソファに座るとぶっとんだ。
や、柔らかい…!
こんな椅子に座ってしまったら二度と立てる気がしない。ついつい長居したくなってしまう。うたた寝してしまうかもしれない。客一人あたりの滞在時間をきちんと想定しているのだろうか、マスターは回転率を知っているのか、などと心配していたが、のちに俺は後悔することになる。
そんなこんなでオムライスがやってきた。
んもう、激うま!!!!!!きっちりと炒めたケチャップライスが最高のひとこと。とろっとろの卵で身も心もとろっとろ。基本に忠実かつ可能性を極限まで突き詰めた想像通りで想像以上の素直でパーフェクトなオムライス。間違いなく名古屋でいちばんウマい。
ニンニクは嫌いである。だがガーリックトーストだけは別。ニンニクとバターの香りが絶妙にマッチしていて最高のひとこと。
ジンジャーレモネードも爽やかでオシャレでうまい。もう最高のひとこと。
もうマジで全部ウマい。
もうずっとここに居たい。居心地が良すぎる。なんだこれ。ウマいし接客プロだし、住み込みで働きてェ……
帰りたくない。その一心でもう1品。回転率とかドヤ顔で言ってたさっきまでの俺を殴りたい。座れば座るだけ腹が減る。ソファの柔さは歴代の挑戦者たちのカロリーだったのだ。ちくしょう…カレーも超絶うめェ……
伝票の代わりにヘラジカが置かれる。
俺は独りじゃない。