冬のなくしもの
大昔に買って使わずに行方不明になってしまった
100均のスマホ用マクロレンズが発見されました。
久々に使ってみたのですが良い感じです!
以来どこへ行くにもとりあえずカバンに忍ばせています。
作例が貯まったら紹介しますね。
こんにちは、昼杉です。
「なくしもの」といえばこんな話を。
・・・
むかし、むかし……
12月。
虫が皆無な季節、虫に飢えた時節。
ある男は外出中に小さな蛾と出会いました。
「おやおや、虫がこんなところに」
男はにっこりと笑いカバンを漁りました。
しかし、カメラは入っていません。
スマホ用マクロレンズがあれば良かったものの
行方不明中なので撮影する術がなかったのです。
「こりゃ、持って帰るしかねぇな」
男は緊急用のビニール袋を取り出し
優しく蛾を包み、お家に持ち帰りました。
真冬の12月。
家のなかも凍えるほど寒く、蛾も動きません。
逃げないだろう。
この油断が命取りでした。
部屋で袋を開けた途端、蛾は飛びたってしまったのです。
「あぁっ…待ってくれぇ!」
男の悲痛な叫びに応えるわけもなく、蛾は散らかった部屋の隅、闇の中へ消えてしまいました。
探せど探せど蛾は見つかりません。
"神隠し"
──人間がある日、なんの前触れもなく忽然と消え失せる現象。
古来より神の仕業として捉えられ、神域に消えたと考えられている。
「そうだ、きっと神隠しにあったに違いねぇ…」
男はそう自分を納得させました。
それからしばらく。
かれこれ6,7日経ったある冬の日。
空に燃えるほど美しい夕焼けがかかった晩のことです。
男は一日の疲れからか白い壁をただただ見つめていました。
「わ、わぁ・・・!」
すぅっと視界に現れたそれに男は腰を抜かしました。
そこには白い壁に張り付く彼女の姿があったのです。
「お、お前はあのときの…」
彼女の返事はありません。
「お、オラには分かる!
あのときのアオアツバに違いねぇ…生きとったんか……!!」
ツンとした顔立ち。細く長い6本の脚。
東雲色に染められた衣。
それはそれは美しいアオアツバです。
「青くないのにアオアツバ…?はて、、」
そう呟くと頭の中に声が聞こえてきました。
───角度を付けてご覧なさい。
なんと首元が藤色に彩られていたのです。
「これは美しい…」
呆気に取られているとまた声が聞こえてきました。
───私はもう行かなくてはなりません。
男は彼女を優しく手で包み、澄んだ夜空へ放すと
アオアツバは舞うように空へと飛んでいきました。
どこまでも どこまでも 飛んでいきました。
・あとがき
翅にある寝ぐせみたいなところ可愛いです。