それで結局「グノーシア」って何?(ネタバレ解説)
一人用人狼ゲームとしても、ループ物作品としても完成度の高いグノーシアですが、最高のラストを迎え暫く思いを馳せた時にふと浮かぶ疑問があります。それは「”グノーシア”って結局どういう存在なの?」といった疑問です。
主人公とセツは謎を解いてループから抜け出しますが、グノーシア汚染を宇宙から完全に無くしたり、グノーシア汚染の元凶であるグノースを倒したりするわけではありません。この物語はどこまでも一隻の船で起きた主人公とセツの物語で、世界を救う物語ではないからです。そのため、物語の背景事情に過ぎないグノーシアの詳細に焦点が当たることはありません。
しかし、グノーシアがどういった存在なのかについては、作中でいくらか情報が散りばめられています。この記事では、それらの情報をもとにグノーシアについて考えていきます。
1.グノーシアとは何か?
「グノーシアとは何か?」という疑問に最も直接的に答えているのが、夕里子の話です。
「グノーシアは人間を消す。それは何故だと思いますか?」
”この宇宙から人間を救い出して、別の世界――グノースの世界に送り出すためだ、と答えた”
「良く知っていますね。まるで、グノーシアだった事があるかのように。
グノースに『触れられた』者は、ヴィジョンを得ます。それは強烈な、脳を変質させる程の......ふ、『神の声を聞く』とでも言うべきか。
そう、グノーシアとは殉教者なのです。グノースより天啓を得て、人間を救うために自らの命を捧げる者共」
夕里子の話をもう少し簡潔にまとめるならば
・グノースに触れられた人間は天啓を得たような感覚を受け、グノーシアになる
・グノースから得る天啓とは、「グノーシアに消された人間はグノースの世界に送り出され、救われる」といった物である
・グノースから植え付けられた「人間を消すこと=人間を救うこと」という思想に基づき、グノーシアは人を消す
となります。グノーシアが、グノースによって「人を消すことは人を救うことだ」と思い込まされているらしいとは、汚染された他の乗員の話からも確認できます。
グノースに「触れられる」とグノーシアに汚染されると夕里子の話では言われていますが、「触れられる」というのが具体的にどういった方法なのかは本編で明らかになっていません。しかし、夕里子の「脳を変質させる程の」といった表現や、ドクターとしてグノーシアを検査した際にステラが言う「○○様の連合皮質(恐らく脳の一部の名称)に変異を確認いたしました。……グノーシア汚染の中期症状です」といった言葉から見て、グノーシア汚染は脳に何らかの変異を起こさせる物であるようです。
それでは、何故グノースは「人間を消せばその人は救われる」などといった思想を植え付け、グノーシアに人間を消させるのでしょうか? それを知るには、グノースの正体を知る必要があります。
2.グノースとは何か?
グノースの正体について明かされるのは、やはり夕里子との会話です。
「グノースの正体は、電脳化された人間です。
電脳化によって、蓋然計算領域に保存された無数の人格。それらが繋がり合うことで、ひとつの意志――欲望を持った。
つまり、己自身の更なる肥大。より多くの人格と繋がることを、グノースは望んでいます。それ故にグノーシアを作り出した。己の元に、更なる人格を大量に送るために」
一つ前の項目で出てきた情報と合わせて夕里子の話をまとめると、
・グノースは、電脳化した人間の人格が集合した物である
・グノースは、更に沢山の人格を自分のもとに送り込むためグノーシアを作り出した
・グノーシアに消された人間の人格は、蓋然計算領域(恐らく電子情報を保存できる巨大なネットワークのような物)に送られてグノースの一部になる
となります。以上のことから、グノーシアが人間を消している問題の原因は、人間が電脳化しているせいだと分かります。電脳化とは何なのか? 何故この世界の人たちは危険な行為である電脳化を行っているのか? それらを次の項目で見ていきます。
3.電脳化とは何か?
電脳化について最も詳しく話されている会話は、しげみちとステラとの会話になります。
「グノーシアがどうとか、正直しんどいわ。こんなんなるなら、あん時に電脳化しときゃよかったかもな」
”電脳化とは何のことなのか、聞いてみた”
「......ん? (主人公名)、知らんの電脳化? オマエ、いまどき珍しい奴だな......。そうな、電脳化つーのはアレよ。人間をまるごとドーンとネットに移す、みたいな。仙人になるようなモンだって、ネット仙人」
「少し補足いたしますと、電脳処理を受けた方は、計算領域上に人格が半永久的に保存されます。代償として、ご自身の肉体は失われますが」
「そうそう。だから電脳化したら、永遠にゲームできるんだぜ? 体感系のはムリだけどな」
「......え? 失礼ながら......しげみち様、少々誤解なさっていらっしゃいますよ。
電脳処理のみでは、保存されただけですから。再計算を行ってネットワーク上に人格を再構成しない限り、その方が意識的に行動することはできません。そして再計算には、時間あたりにかなりの額を協会に支払わなければなりませんので......。永遠にゲームをなさるには、莫大な資産が必要かと」
「マジか、世知辛ぇな......」
「ですが、そもそも電脳処理資格を得るためには、非常に厳しい条件が課されるはずですから......。しげみち様は条件をクリアなさっただけでもご立派ですよ」
この会話から分かったことをまとめると
・電脳化とは、人間が肉体を捨て、人格を蓋然計算領域に半永久的に保存することである
・電脳化した人間が意識的に行動するには人格を再計算する必要があり、再計算には多額の費用がかかる
・電脳化の資格を得るには厳しい条件をクリアしなければならない
となります。電脳化とは何かと尋ねる主人公に、しげみちが「電脳化を知らないなんていまどき珍しい」と返していることから、電脳化は世間一般的に広く知られている技術なのだと分かります。更に、電脳化の資格を得ることについてステラが「電脳処理を受けるための条件をクリアしただけでも立派だ」と話していることから、電脳化することは特別かつ凄いことだと捉えられているようです。
会話の中で「仙人」「半永久的な人格の保存」「永遠にゲームできる」と話されているのを見るに、電脳化は恐らく永遠に生き続けることと同一視されています。「永遠の命が欲しい」とは、フィクション作品で普遍的に取り上げられる欲望の一つです。実際に、永遠の命を欲しがっている人物は作中にも登場します。それ故に、永遠に生き続けられる手段の一つである電脳化は、素晴らしい技術として人々に受け入れられているのでしょう。
しかし、電脳化の実態は先に説明した通りです。電脳化によってグノースが生まれ、グノーシアを作り出し、人々の安全は脅かされています。グノーシアに汚染されているレムナンの話を見ても、グノーシアに消されること≒電脳化することと考えて差し支えないようです(画像で表記は出ていませんが、このイベントのレムナンは確定でグノーシア汚染者です)。
それなのに、どうして人間は電脳化をやめないのでしょうか?
主人公とセツはループ中に夕里子から話を聞き真実を知りますが、世間的にはグノーシアやグノースの正体は明らかになっていません。そのことはループ序盤の乗員たちの会話からも見てとれます。
これらの反応を見ても、電脳化=グノーシア発生の原因だと知っている人間はごく僅かで、その真実は徹底的に隠されているらしいと分かります。人々が電脳化をやめないのは、それがグノースの一部になる行為であり、グノーシアを発生させている元凶だと知らないからでしょう。
ステラの話から、どうやら電脳化周りの事業を仕切っている「協会」が存在していると分かります。また、母親が電脳化したジナは、電脳化の受付をしている組織のことを「星の家」と呼んでいます。宗教に深く根ざした組織なのかそうでないのかは分かりませんが、何らかの団体が電脳化に関与しているのは確かです。
これらの団体に関しては、二つの可能性が考えられます。まず一つは、電脳化を取り仕切っている団体がグノースについて何も知らない可能性です。
夕里子は表立って電脳化を引き受けている「星の家」と呼ばれる組織を、情報を転送するだけのただの受付係に過ぎないと話しています。実際に電脳化を行っているのは夕里子たちのような巫女であるため、蓋然計算領域にグノースが生まれている実情を知らない可能性があります。電脳化によってグノーシアが生まれていると知らないから電脳化をやめないというのは十分考えられる推測です。
もう一つは、電脳化を取り仕切っている団体がグノースやグノーシアについて知っていながら電脳化を推し進めている可能性です。
先述したように、電脳化には厳しい条件が課せられておりかなり特別な資格として扱われています。そういった特別性を利用した詐欺まで横行しています。
また、電脳処理しただけでは電脳化はほとんど意味をなさず、意識的に行動するための人格の再計算に多額の費用がかかるなど、電脳化によって協会が大量の資金を得ているのは想像に難くありません。元々どういった目的で電脳化というシステムが始まったのかは分かりませんが、非常に膨大なお金が電脳化によって動いているのは確かです。もしも仮に協会や星の家が電脳化によってグノーシアが生まれていると知っていたとしても、金儲けのため、またグノーシアを発生させてしまったことへの責任追及を免れるために真実を隠したまま電脳化を推し進めている可能性は高いです。
5.グノーシア汚染者の特徴
これまでにまとめた通り、グノースが人間をグノーシアに作り変える時に行っているのは脳を変質させて「人を消すこと=人を救うこと」と思い込ませることのみです。それでは、何故グノーシアに汚染された乗員たちはただ人間を消すのみならず凶暴になったり豹変したりするのでしょう。
これについては、グノーシアの夕里子に敗北した際に発生する特殊イベントで語られています。
「グノーシアとは何か、想像したことはありますか?
それならば喜ぶがいい。お前は今、グノーシアを目にしているのだから。
ふ、拍子抜けですか? 確かにこの身はただの女でしかない。
グノーシアなどと大仰に呼ぶものの、人間とさして変わりません。中には抑制を失い、タガの外れる者もいるようですが。
ただ――人間を消したいと、常に希うようになる。それだけです」
この話から分かったことをまとめると
・グノーシアと人間の違いは「人間を消したい」と思うようになるかどうかのみである
・グノーシアに汚染されると抑制を失う者もいる
となります。つまり、グノーシアに汚染されて豹変する人間は、汚染されたから凶暴になったのではなく、凶暴になる素質が元から本人の中にあったということになります。気弱に見えてノーマルエンドではレジスタンスの仲間からも恐れられているレムナン、端末に過ぎない自分が人間のような感情を持っていることに複雑な思いを抱いており感情の発露として”恋愛”が大きな割合を占めているステラなど、豹変する乗員たちの顔ぶれを見ていると彼らに元々そういった気質があるとは何となく納得できるのではないでしょうか。
同じように豹変する乗員でも「人間になりたい」という願いを抱いているオトメは、グノーシアに汚染されると人間を消したり加虐性を示したりといった傾向にはならず、「グノーシアに汚染されるのは人間だけのはずだから、グノーシアに汚染された自分は人間なんだ」という意識が非常に強くなります。このように、グノーシアに汚染された乗員の言動からは彼らの理性を引き剥がした時の本能的な願い、欲望、本質が垣間見えます。
また、人間を消したいという欲望はグノースによって強制的に植え付けられたものであるため、それに抵抗を示す汚染者も当然います。乗員たちの中で分かりやすい例として挙げられるのは、ジナ、シピ、沙明などです。このように、グノースから流し込まれた本能に身を任せ理性のタガが外れるか、流し込まれた本能に抵抗しようとするかによって、汚染された時どういった行動をとるかが異なります。
6.AC主義者とは何か?
少し話は逸れますが、AC主義者についても触れておきましょう。AC主義者の説明は、この役職が初めて登場するループで話されます。
「AC主義者? 何ソレ」
「やれやれ、物を知らないね......。アンチ・コズミック――略してAC主義者だよ。異星体グノースを崇めるイカれた連中のことさ」
「この宇宙は、狂っている。だけどグノーシアに消滅させてもらえば真実の世界に行ける......物理原則の否定、人間存在の否定、そしてグノース崇拝――それがAC主義者の大筋だよ。近ごろは急激に支持者が増えているらしい」
ゲーム内では人狼ゲームにおける「狂人」の役職を担っているAC主義者ですが、ざっくり言えば巷で流行っているカルト宗教の信者に近しいのではないかと思います。当然ですが、「グノーシアに消滅させてもらえば真実の世界に行ける」なんてことはあり得ません。現実にもカルト宗教に嵌る人間がいるように、現状に生きづらさを感じている人、何かしらの理由でこの世から消えてしまいたいと思っている人などの受け皿として機能しているのがAC主義者という枠組みだと思われます。グノーシアが人を消すような、特別な能力は勿論ありません。得体の知れない宗教を信仰しているカルト集団、といった理解で差し支え無いでしょう。
7.グノーシアとバグの関係は?
ゲーム内では共に人外の陣営として取り扱われることと、二つとも物語の根幹に関わっている存在であることから、グノーシアとバグには何か関係があるんじゃないかと混乱しがちです。この辺りについては、ラキオが説明をしています。
「グノーシアについては、まだ良いンだよ。元々この宇宙で実在が確認されているからね。だが、バグは違う。
ただそこに居るだけで、宇宙を崩壊させる。ハッ、お笑い草だよ。そんな代物が何故必要なんだ?
――それはね。恐らく、君がいるからだよ。消えたはずの君が、ここに存在する。それは摂理を犯す行為。修正すべき歪みだ。
だから――宇宙ごと、無かったことにする。その為に生まれたのが、バグという存在なンだろうね」
この説明の通り、グノーシアは元々セツたちが生きてる宇宙に存在している社会問題です。それに対し、バグは主人公(=プレイヤー)というイレギュラーがセツたちの生きている宇宙に介在したことで発生した異物です。グノーシアとバグは、それぞれプレイヤーというイレギュラーが存在している矛盾を解消するために作用している物ではありますが、相互に関係はありません。
8.まとめ
以上の話をまとめます。
①「永遠の命が欲しい」といった人間の欲望を叶える電脳化という技術が生まれ、人々は電脳化を始める。
②電脳化をどんどん続けた結果、電脳化した人格が繋がり合って大きな意思を持つ(=異星体グノースの誕生)。
③グノースは更に沢山の人格と繋がりたいと考え、自分のもとに大量の人格を送り出すための端末を作り出す(=グノーシアの誕生)。
④グノーシアは、グノースに「人を消すことが救済になる」という思想を植え付けられ人間を消し続ける。
⑤電脳化によってグノースが生まれたのを知らないのか、それとも知っていながら見て見ぬ振りをしているのかは定かではないが、電脳化を取り仕切る組織はグノースの正体について明かしていない。
⑥グノースが生まれた後も電脳化は変わらず推し進められており、当然グノーシア汚染者も増え続けている。
⑦更にグノーシアを崇拝するカルト信者(=AC主義者)も急増している。
以上がグノーシアの誕生や今現在の状況のまとめになります。こうして一連の流れを見ていると、人間の「永遠の命が欲しい」という欲望がグノーシアを生み出し、そのグノーシアが人間を消して回っており、人間はグノーシアを排除しようと必死になっているということになりそうです。そりゃ船に閉じ込められて人間を電脳化し続けてきた夕里子なら尚更人間が嫌にもなるよ......。
このように、作中の情報を見ていくとグノーシアや異星体グノースはなかなかに救いようの無い社会問題なのだと分かります。電脳化がグノーシア発生の根本的な原因だと公に知られなければグノーシア汚染者を宇宙から無くすというのは難しそうですが、真エンドではセツがグノーシア汚染者を人間に戻す方法を発見しています。
この発見が、セツたちの生きている宇宙を取り巻く問題の打開に繋がることを願うばかりです。
以上でグノーシアとは何なのか考える記事を終わります。解説と銘打ちながらいくらか推測も入っている至らない記事ですが、少しでも参考になれば幸いです。