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下照姫と高照姫。ヒルコお姉さんに見るフェミニン&マスキュリン#1

叡智の結晶のような和歌を詠み、添うさりげなさ。
奏でる六弦琴も心地よく、その外連味無き様。
溶けゆくように、そよ風に、その音は。

才色兼備を絵にしたような方。稚日女ヒルコさん。
初代下照姫にして、初代高照姫。
アマテル・ウヒルギ・ワカヒト神、
気吹の宮・ツキヨミ・モチキネさん
氷川神・ソサノウ・ハナキネさんの姉として知られます。

遠くで不自然なかまびすしい鳴き声。二度、三度。
それまで支配していた穏やかな流れ。
淀みが掛かると、胸騒ぎの風が起こります。

騒がしくなる宮中。何かに急ぐ近衛兵。
今し方まで、学芸を優しく写していたヒルコさんの瞳。
卒然に緊張が走ります。

手にした筆を置き、整頓すると足早に奥の間へ。
先程までの才媛が、背筋を正し颯爽と、踵を返すや
鎧、甲の出で立ちで現れます。

真一文字に閉じられた口許。宮の頂で弓を構えます。
弦が張り詰め、限界とばかりに音を立てます。
キュリン キュリン キュリーンッ

ワシや! ワシや!

ヒルコさん、
目許まで深く被った甲の奥から、眼光鋭く声の主を睨め付けます。
幾本の結いそびれた髪。勇ましく吹き付ける風。

漆黒の長い髪が錣(しころ)に翻ります。
矢を握る手。力の限り見る見る白くなる指先。

お姉ちゃん、オレや! 

ヒルコさんの指先に戻る肌の色。弦が弛み、音を立てるのを止めます。
戦意を持たない弟を知ると、矢を仕舞います。
無言で、続けなさい、と促します。

お姉ちゃんにひと目会って、あいさつしたかったんや。
いろいろあったけど、心根までは穢れてない。お姉ちゃんならそれを判ってくれてるはずや。

けじめはつけなさい。弟を諭すヒルコさん。
ソサノウさんを包囲し、ジリジリと近づく近衛兵に目で
待ちなさい、と伝えます。

京都、宮津の朝日宮で見かけた女性、ハヤスフ姫に運命を感じたソサノウさん。思いは募るばかり。猛アタックを重ね、求婚するも願いは届かず。

次第に心は乱れ、いつしか淫蕩生活に。
身内も手を焼くほどの荒れようで、数多の罪を犯してしまいます。

裁判の末、千座の罪で死刑の判決も
アマテル神内宮セオリツ姫ホノコさんの嘆願により、減刑が決まります。

皇籍剥奪、中央政府からの追放が言い渡されます。
追放の身を引きずりながら、別れの挨拶をと、愛しのお姉ちゃんを訪ねたソサノウさん。

すべてを知るヒルコさん。そんな弟にいい顔はできません。
生死の危険すら感じていた身内。目に浮かぶ弟夫婦の困惑顔。
次は私の番かと身構えたほどですから。

半ば辟易するヒルコさん。
姉の表情にそれを窺い知ったソサノウさん、切り出します。

わしの心、魂の潔白をここ、天の安川で証明したいんや。
よしッ、うけいや、誓約をしよう!

わしもいずれ結婚する身。わしの心が穢れておれば、生まれ来るは女の子であろう。
わしの心が清らかなれば男の子が生まれるであろう。
(女性の方々、上文を目に気を悪くされたらごめんなさい。現代ではアウトです。承知します。極めて信頼性ある古伝三書、秀真伝/ほつまつたえ、三笠文/みかさふみ、橘御機/かぐみはた、に沿うものです)

誓いを終え、宮を後にするソサノウさん。
鎧、甲の重さも忘れ、弟を見送るヒルコさん。
つづく

追記
時の権力者が自陣の都合のいいように伝記を書き換える。
そんな紋切り型コメントを耳にするのも少なくないですね。
近世に近づくにつれ、多くなるのかもしれません。

ソサノウさんが田畑に火をつけてまわった。のは森を守るため。
粗相をしてまわった。のは肥やしを蒔くため。

バイアスのかかったことを仰る神道家もいらっしゃったりします。
表現の自由でございます。

この古伝、ホツマツタヱの編纂者は、
ソサノウさんを祖に持つ第五代大物主クシミカタマ・ワニヒコさんと
こちらもソサノウさんを祖に持つ三輪の臣オオタタネコ・スエトシさんといいます。

前編ワニヒコさん、景行天皇の命で後編スエトシさんが編纂にあたっておられます。
どちらもソサノウさんの血統をもつ方ですが、一方に、祖先にバイアスを掛けた編纂は見られないように思います。
景行天皇は他にも、大鹿島・クニナツさんを「三笠文」の編者に。
御自身、自らも「橘御機」を編纂しておられるそうです。

そもそもバイアスをかけるような器の方への編纂作業のオファーはなかろうと感じます。何といっても泣く子も黙る五代大物主神と三輪の臣ですから、目先の優位性より遠く日本の未来を見据えての編纂を心掛けておられたように感じます。
内容信憑性高く、腑に落ちるとはこれをいう感覚を覚えます。


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