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【上座部仏教】五位七十五法 心所法

世親の『倶舎論』における五位七十五法、今回は心所法に入っていきたと思います。心所とは心作用の意味です。パーリ上座部のアビダルマでは心の中身とも表現されます。有部においては心の善悪を決める重要な法体です。

○五位七十五法

▽五位七十五法の有為法(心所法)
心法と心所法は必ず同時に生起・消滅し、対象を共有します。相互に因であり、果である関係にあります。

①大地法(10種):
全ての善心、悪心、無記心のいずれとも必ず相伴います。
●触:刺激。各識・各感官・各対象の合する作用。
●受:感覚と一次感情。{苦・楽・不苦不楽・喜・憂}
●想:情報を印付けする記銘作用。
●思:有部の教説では三業の意表に該当し、心理的活動。
 ※原始仏教やパーリ上座部では思と意業を別々に想定します。
●作意:注意。
●欲:意欲。
●勝解:確認。
●念:正念(憶念)・失念
●定:正念(瞑想)・散乱(動揺)
●慧:有漏の智慧・悪見{有身見・辺執見・邪見・見取見・戒禁取見}

②大善地法(10種):
全ての善心と相伴います。
●信:信心。清らかで、明るいこと。
●勤:精進。努め励むこと。
●捨:平静。
●慚:悪行を恥じること。
●愧:悪行を畏れること。
●無貪:貪らないこと。
●無瞋:怒らないこと。
●不害:害わないこと。
●軽安:心身が軽やかなこと。平安。
●不放逸:自制的であること。

③大煩悩地法(6種):
全ての悪心と有覆無記心と相伴います。
●無明:無知蒙昧。癡。
●放逸:勝手気ままなこと。我儘。
●懈怠:怠惰。
●不信:心が清らかでなく、暗いこと。
●惛沈:憂鬱。心が沈むこと。
●掉拳:興奮。心が昂ること。

④大不善地法(2種):
全ての悪心と相伴います。
●無慚:悪行を恥じないこと。
●無愧:悪行を畏れないこと。

⑤小煩悩地法(10種):
ある種(第六意識)の悪心や有覆無記心と相伴います。
●忿:憤り。
●覆:罪の隠蔽。
●慳:物惜しみ、吝嗇。
●嫉:嫉妬。
●悩:頑迷。
●害:害心、害意。
●恨:恨み。
●誑:欺くこと。
●諂:媚び諂うこと。
●憍:傲り。

⑥不定地法(8種):
ある時は善心、ある時は悪心、ある時は無記心と相伴います。
●悪作:後悔。反省とは異なる後悔。
●睡眠:睡魔。
●尋:言葉による思考。
●伺:言葉によらない思考。
 ※原始仏教では尋伺を語表を引き起こす一要因とします。
 ※有部では語表と身表を引き起こす一要因としています。
●貪:貪欲。貪ること。
●瞋:瞋恚。怒ること。
●慢:自他を比較する慢心。
●疑:真理に対する疑い。

心の善、悪、無記(善でも悪でもない中性)を決めるのは心所法であり、以下のように定義されます。

▽善法:
無貪・無瞋・無癡・慚・愧と、それらと相伴うものと、それらから起こるものと、択滅無為は善。
▽悪法:
貪・瞋・癡・無慚・無愧と、それらと相伴うものと、それらから起こるものとは不善。
▽無記法:
それ以外は無記、語表・身表は善と伴えば善、悪と伴えば悪、それ以外は無記。

心法についても以下のことが言えます。また、中性の心である無記心にも正しい智慧(正智・正慧)の生起を妨げるか否かで、分類されます。

▽善心法:
無貪・無瞋・無癡・慚・愧の心所と相伴う心法。
▽悪心法:
貪・瞋・癡・無慚・無愧の心所と相伴う心法。
▽無覆無記心:
善でも悪でも無い中性の心法。
▽有覆無記心:
中性の心法ではあるが、正しい智慧の生起を妨げる心法。

▽善色法:
善と伴う語表と身表(自性として、善・悪・無記が色法に具わっているとは理解せず、身語表を等起させる心に従って、その三性が決定される。)
▽悪色法:
悪と伴う語表と身表(自性として、善・悪・無記が色法に具わっているとは理解せず、身語表を等起させる心に従って、その三性が決定される。)
▽無記色法:
上記以外の全て。

心所は以上になります。大地法の念・定・慧が善法に含まれていない理由は、念には正念と邪念、定には正定と邪定、慧には正慧と邪慧(悪見)と正法と邪法が混ざっているためです。また、有部にとっての無漏の智慧は択滅無為なので、正慧は有漏の智慧と考えるほうが妥当でしょう。