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【上座部仏教】五位七十五法 心不相応行法

世親の『倶舎論』における五位七十五法、今回は心不相応行法に入っていきたと思います。必ずしも、心法と相伴うわけではない法体です。

得・非得・衆同分・命根・無想・無想定・滅尽定・生・住・異・滅・名身・句身・文身の十三種類が説かれています。中でも、「得・非得」、四相である「生・住・異・滅」は非常に難しい(ややこしい)ので、順番は前後しますが、先にそれ以外を説明し、後でまとめて説明したいと思います。

○五位七十五法

▽五位七十五法 有為法(心不相応行法)

③衆同分:
現在とは異なる境遇に生まれることは、有部的に言えば、個体を構成する存在要素の流れが他の「衆同分」を得ることになります。つまり、「衆同分」とは多くの生命ある存在を互いに相似させる要素であり、欲界・色界・無色界の差別、天人・人間・地獄などの境遇の差別やその他、身分・性・修習の階位等の差別に応じてそれぞれの「衆同分」があることになります。悪業の結果として畜生界に生まれるということは存在要素の流れが畜生の「衆同分」に結合することを意味しています。ヴァイシェーシカ学派の「普遍」に類似する法体です。
④命根:
寿命(生命力)。
⑤無想:
無想有情処。
⑥無想定:
無想有情処に至る瞑想であり、『ヨーガ・スートラ』の無想三昧と同一と考えられます。
⑦滅尽定:
想受滅定に至る瞑想であり、『ヨーガ・スートラ』の無種子三昧と同一と考えられます。原始仏教では輪廻の種子全てを滅した境地ですが、有部では煩悩が一つ心身から離脱する度に都度涅槃があるとしますので、最後の煩悩が尽きる段階(無学道)に至るための瞑想でしょう、おそらく。
⑫名身:
言語的存在。思惟対象である概念・名称を実体視した法体です。
⑬句身:
言語的存在。思惟対象である命題・文章を実体視した法体です。
⑭文身:
言語的存在。思惟対象である音素・字母を実体視した法体です。

ここから先がかなり複雑になっていきます。

▽五位七十五法 有為法(心不相応行法)「四相・四随相」

【四相】それぞれ自身を除く八法に作用します。四相の対象となる法体を「本法」と表記します。本法には有為法全てが当てはまります。
⑧生(生起):
自身を除く、{本法・住・異・滅・四随相}の八法の生起を司ります。
⑨住(持続):
自身を除く、{本法・生・異・滅・四随相}の八法の持続を司ります。
⑩異(変化):
自身を除く、{本法・生・住・滅・四随相}の八法の変化を司ります。
⑪滅(消滅):
自身を除く、{本法・生・住・異・四随相}の八法の消滅を司ります。

【四随相】各四相に更に四相があり、その四相に更に・・・という無間遡及を避けるために後から設定された法体です。
 ●生生:{生}だけの生起を司ります。
 ●住住:{住}だけの持続を司ります。
 ●異異:{異}だけの変化を司ります。
 ●滅滅:{滅}だけの消滅を司ります。

有為法体の状態変化である四相自体までも法体として設定したのは不思議ですね。それはこれから説明する得と非得についても同様ですが。

▽五位七十五法 有為法(心不相応行法)「得と非得」

 【本得(大得)】
①得と②非得:
有情の身心(心法と身体を構成する色法)に様々な法体を結び付ける・結び付いた状態の法体を「得」といいます。一方、引き離す・引き離された状態の法体を「非得」といいます。有部はアートマン(霊魂)やリンガ(霊体)など、主観的な個体の本体を否定しいます。よって、有部にとっての個体の根本とは、その生涯の次元・世界における{心法+身体を構成する色法}の集合体ということになります。以降、{心法+身体を構成する色法}の集合体を「有情」と表現します。そして、「得」によって「有情」に結び付けられる・既に結び付けられている法体を「所得法」と表現します。

この有情と所得法という言葉を用いて、改めて説明し直します。

択滅無為法、非択滅無為法、あるいは自相続の心所法や心不相応行法などを「有情」に結び付けて、具有させる法体が「得」であり、「得」には「獲」や「成就」の二つの機能があります。「獲」とは「有情」が未だかつて得たことのなかった法体、あるいは既に失った法体を獲得する機能を指し、「成就」とは既に得た法体を失わせずに「有情」へ繋ぎとめておく機能を指します。逆に、この「成就」を断つ機能、つまり「断」「不成就」を「非得」と呼ぶのです。ヴァイシェーシカ学派の「内属」に類似する法体です。

【随得(小得)】
「所得法」を「有情」に結合させる「得」を実体視すれば、その「得」を更に「有情」に結合させる「得」が必要なり、更に・・・とまたしても無間遡及に陥ります。有部はこれを避けるために、「所得法」は「得」によって成就され、「得」は「随得」によって成就され、「随得」は「得」によって成就されるとし、第三以降の「得」は必要にならないとしました。また、過去・未来の「得」も成就します。

それでは、得・随得を四相・四随相を含めてまとめてみます。得と随得は三本の手を持っていると考えると分かりやすいかもしれません。

本得(大得)
 ●一本目:「有情」
 ●二本目:「所得法」とその「四相」・「四随相」を成就
 ●三本目:「随得」とその「四相」・「四随相」を成就
随得(小得)
 ●一本目:「有情」
 ●二本目:「本得」とその「四相」・「四随相」を成就
 ●三本目:過去・未来の「本得」とその「四相」・「四随相」を成就

「所得法」を獲得し、「有情」に繋ぎ留めておくのが「本得」であり、その「本得」自体を「有情」に繋ぎ留めておくのが「随得」です。「随得」は過去・未来の「本得」をも成就するため、刹那ごとに「本得」と「随得」は膨大な量に増加しますが、それらが機能する対象は決まっているため、増え方にも限りはあります。そのため、無間遡及の過失には該当しないと有部は主張します。