【原始仏教】煩悩
今回は煩悩について、お話していきたいと思います。釈尊は苦しみをもたらす心的要素である煩悩を総称して、貪(貪欲)・瞋(瞋恚)・癡(愚癡)の三毒にまとめました。この三つは全てが並列ではなく、輪廻のメカニズムの根源に無明である癡が置かれ、そこから生じる欲望を貪欲(求める欲望)と瞋恚(避ける欲望)とで代表させました。その貪欲と瞋恚から悪業(悪行)が生じ、輪廻の苦へと繋がります。三毒以外にも様々な呼び方、まとめ方があります。
○五蓋:瞑想の精神統一を妨げる顕在煩悩
貪欲:過度な貪り。好ましいものを必要以上に求める欲望。
瞋恚:過度な怒り。好ましくないものを必要以上に避ける欲望。
惛沈・睡眠:心が沈んだ状態。過度の疲労による眠気。
掉拳・後悔:心が昂った状態。過度の興奮、反省に含まれない後悔。
疑惑:猜疑心。善法や真理の教えを疑うこと。
○五著:執着を起こさせるもと
貪欲、瞋恚、無明、慢心、邪見(悪見)
※この五つに疑惑を加えて、六煩悩とすることがあります。
○五下分結:衆生(生命)を欲界に繋ぎ止める潜在煩悩
欲貪:欲界における心に叶う対象に対する強い欲望。
瞋恚:心に叶わない対象に対する強い嫌悪。
有身見:心身を「我」や「我が物」であるとする見解。
戒禁取見:正しくない戒律、規制や信仰等を優れた真理とする見解。
疑惑:猜疑心。善法や真理の教えを疑うこと。
○五上分結:衆生(生命)を色界・無色界に繋ぎ止める潜在煩悩
色貪:色界における心に叶う対象に対する強い欲望。
無色貪:無色界における心に叶う対象に対する強い欲望。
慢心:我を想定し、我と他者を比較することで抱く優越感や劣等感。
掉拳:過度に心が昂った状態。
無明:愚癡や迷妄と同義。真の自己に対する無知。
○束縛
欲貪、有貪(生存への貪り)、無明、慢心、疑惑、嫉妬、慳貪(吝嗇)
○漏
欲貪、有貪、無明、邪見
○四取
欲取:心に叶う対象への執着。
見取:誤った見解への執着。
戒禁取:正しくない戒律、規制や信仰等への執着。
我語取:自身の信条への執着。
○七随眠:潜在煩悩(有部)
欲貪:欲界における心に叶う対象に対する強い欲望。
有貪:色界・無色界における心に叶う対象に対する強い欲望(生存欲)。
瞋恚:心に叶わない対象に対する強い嫌悪。
無明:愚癡や迷妄と同義。真の自己に対する無知。
悪見:誤った見解。
・有身見:心身を「我」や「我が物」であるとする見解。
・辺執見:永久に存在するという常見と滅びて無くなるという断見。
・邪見:因・果の道理などを認めない誤った見解。
・見取見:誤った見解を優れた真実の見解とすること。
・戒禁取見:正しくない戒律、規制や信仰等を正しいとする見解。
慢心:自と他を比較することで生じる優越感や自尊心。
・高慢:自身より劣る者に対して、自分は優れているとする優越感。あるいは自身と同等の者に対して同等であるとする自尊心。
・過慢:自身と同等の者に対して、自分の方が優れているとする優越感。あるいは自身より優れた者に対して、自身と同等であるとする自尊心。
・慢過慢:自身より優れた人に対して、自分の方が優れていると侮る心。
・我慢:心身のいずれかを「我」や「我が物」であるとし、それが実体であるとする慢心。
・増上慢:優れた証得を未だ体得していないにも関わらず、私は体得したと思う慢心。
・卑慢:自身より明らかに優れた人に対して、自分は僅かにしか劣っていないとする自尊心。誤った劣等感。
・邪慢:不徳であるにも関わらず、私には優れた徳があると思う慢心。
疑惑:猜疑心。善法や真理の教えを疑うこと。
○十纏綿:顕在的な潜在煩悩(有部)
掉拳・後悔:心が昂った状態。興奮、反省でない後悔。
惛沈・睡眠:心が沈んだ状態。疲労による眠気。
無慚:悪行を恥じないこと。
無愧:悪行を畏れないこと。
嫉:強い嫉妬。自分にないものが他人にあるという状態に対する怒り。
慳:強い物惜しみ。自分のものを分け与えるのは嫌だという貪りと怒り。
忿:憤り。
覆:罪の隠蔽。
○六垢:顕在煩悩
悩:頑迷。
害:害意、攻撃心。害うこと。 傷つけること。
恨:恨み。
誑:欺くこと。
諂:媚び諂うこと。
憍:傲ること。
○神通を妨げる煩悩
懈怠、掉拳、惛沈・睡眠、五妙欲に惹かれることでの散乱
七随眠は原始仏教ではあまり重要視されませんが、釈尊入滅後に誕生した『説一切有部』では重要視されます。有部によると、潜在煩悩としての七随眠において、貪欲が15個、瞋恚が5個、愚癡が15個、慢心が15個、疑惑が12個、有身見が3個、辺執見が3個、邪見が12個、見取見が12個、戒禁取見が6個で合計98個、それに顕在煩悩的である十纏綿の煩悩10個を足し合わせて108個の煩悩とします。原始仏教のお話が終わった後に説一切有部のお話をしますので、その時に詳細を解説します。