国税不服審判所の裁決(令和6年4月〜6月)の紹介

0. はじめに

令和6年4月〜6月の国税不服審判所の裁決要旨が公表されたので、気になった裁決を3つご紹介します。

1. 寄附金課税(債権放棄)に関する裁決

一つ目は、関係会社をM&Aで譲渡した後にその会社に対してした債権放棄が法人税法上の寄附金に該当すると判断された事案の裁決です(棄却)。

国税不服審判所令和6年4月22日裁決

業績不振の子会社を譲渡する場合のその子会社に対する債権放棄は、事実関係によるものの、子会社等支援損として損金算入される可能性が相応にあるというのが一般的な理解かと思いますが、本件では、債権放棄が譲渡と同時ではなく、譲渡の約1年10ヶ月後であったこともあって、譲渡と債権放棄が一体の取引とは認定されず、寄附金と判断されたようです。

なお余談ですが、100%子会社の場合は、むしろ寄附金に該当する方が、該当しないよりも有利な取扱いを受けることができます。

2. 特定口座に係る譲渡所得の計算に関する裁決

二つ目は、個人の譲渡所得に関するもので、特定口座内で譲渡した上場株式等の取得費として概算取得費(譲渡価額の5%)を用いることができるかが争われた事案の裁決です(棄却)。

国税不服審判所令和6年4月22日裁決

裁決の内容は↓から確認できます。

裁決は「法は、源泉徴収選択口座に係る特定口座内保管上場株式等の譲渡による譲渡所得の金額を申告するに当たり、居住者において同所得の金額の計算上取得費に算入する金額の計算をすることを予定していないものと解するのが相当である。」と述べて、概算取得費の適用を求める納税者の主張を排斥しています。

しかし、そもそも株式に関して概算取得費を認める法令の規定は存在しません。したがって、端的に特定口座に関して概算取得費の使用を認める通達が存在しないことを指摘すれば足りたはずであり、上記のような法の趣旨に基づいた大上段の議論をする必要があったのか疑問です。

3. 信販会社の立替払いに係る手数料の消費税法上の取扱いに関する裁決

三つめは、加盟店が信販会社に対して支払った手数料が課税仕入れに該当するかが争われた事案の裁決です(棄却)。信販会社のサービス内容は明確ではありませんが、クレジットカード取引のアクワイヤラ―(信販会社が加盟店に対してカード会員の代金を立て替えるサービス)ではないかと推測されます。

国税不服審判所令和6年5月20日裁決

クレジットカード取引の主な法律構成は、「債権譲渡構成」と「立替払い構成」であり、前者の債権譲渡構成については、以下の質疑応答事例で非課税取引であることが明らかとなっていますが、後者の立替払い構成については非課税取引であることを明言したものはこれまでなかったかと思いますので、ここでご紹介するものです。

4. 終わりに

今回のご紹介は以上です。お読みいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!