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種類株式の税法上の時価

1. はじめに

会社法により発行が認められている種類株式は、スタートアップ企業の資金調達などで広く活用されていますが、その税法上の時価はどのように算定すればよいのでしょうか?

よく分かりません」がこの記事の結論です。申し訳ありません。でも、世の中なんてそんなもんです。確かなことなんてほとんどありません。

しかし、これまでの議論の状況を知っていれば、実際の事案で時価が問題になったときに、問題を解決に導くことができるかもしれません。この記事がその一助になればと思います。

なお、以下では説明をシンプルにするため、「税法上の時価」のことを単に「時価」と表記しています。

2. 種類株式の時価が問題になる場面は?

種類株式の時価が問題となるのは、典型的には、種類株式を第三者に譲渡したり、発行会社に買い取ってもらう場面です。
(ほかに相続の場面でも問題になりますが、ここでは省略します。)

なぜ問題となるかというと、それは、税法が、実際の取引価格ではなく、時価に基づいて所得計算をすることがあるからです。

特に、法人が資産を譲渡する場合は、法人税法の定めにより、実際の取引価格に関わらず、時価で譲渡を行ったものとみなして所得計算をする必要があります

取引価格が時価と一致していれば何の問題もないのですが、両者がずれている場合(とりわけ時価>取引価格の「低額譲渡」の場合)、差額について面倒な課税問題が発生し、想定外の課税処分を受ける可能性があります。

そこで、時価がいくらであるのか、取引価格が時価と一致しているといえるかを検討する必要があるのです。

(なお、個人が譲渡する場合も、場面は限定的ですが、取引価格と時価に差がある場合には差額について課税問題が発生することがあります。)

3. 議論の状況

(1) 2022年4月時点まで

種類株式の時価に関する議論は、すべて、2022年4月に発行した事務所のニュースレターに盛り込みました。
したがいまして、まずはそちらをご覧いただければと思います。

このニュースレターは、わが国で種類株式の時価が争われた最初の事件(※)である「サザビーリーグ創業者事件」について、私を含む森・濱田松本法律事務所の税務チームが、同事件の納税者を代理した経験に基づいて執筆したものです。
※ 2024/6/11時点で同種論点が争われた事案は他にありません。

なお、同事件は幸いにも国税不服審判所の裁決により課税処分が取り消され、他事務所の先生にも顛末を取り上げていただきました。

(2) その後の進展

その後、議論の状況について大きな進展はありません。したがって、(1)でご紹介したニュースレターの内容が、いまもなお妥当すると考えています。

一点だけ動きがあったのが、国税庁が、「買戻条件の付された種類株式」の時価の算定について、日本公認会計士協会からの事前照会に対し、以下の文書回答を公表したことです。


しかし、正直に言って、この回答は肩透かしの内容でした。

この回答で確認されたことを誤解を恐れずに言うと、発行会社が種類株式を買い取る時は、バリュエーションを算定業者に依頼して価格を決めたらいいかもしれませんというだけです。

それはそうでしょうが、そもそもそんな設計になっている種類株式は見たことがありません。
私が知る限り、買取金額などの買取条件は、株式の発行時に既に決まっており、買取時に改めて条件交渉ができるような投資契約は見たことがありません。

そのような理由で、私はこの照会内容は実務でほとんど役に立たないのではないかと考えています。

4. 終わりに

お読みいただきありがとうございました。議論の進展があればまた取り上げたいと思います。

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