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「義と利が対立した時は義を取り、義と義が対立した時は大義を取る」 〜グランドデザイン思考の基礎的態度
✔︎ イノベーションは既存の価値観と対立するからこそ成り立つ
✔︎ 利よりも義、それよりも大義を貫くことで長期的な成功の礎ができる
✔︎ 大義を軸としたリーダーシップがチームをエンパワーする
イノベーションとは、大義を貫くこと
イノベーションにおいては、既存の体制や既得権益、また顧客の当たり前となった価値観や習慣などと対立することは避けられない。対立するからこそ、イノベーションともいえる。それが社内新規事業においては、組織の中で顕著に現れる。組織の価値観や利害が対立する場面に遭遇することは避けられないのだ。
そのとき、常にイノベーターは「判断基準」を明確にもっているどうかが、事業の成否、イノベーションの成否をわける。「義と利が対立したときは義を取り、義と義が対立したときは大義を取る」という態度こそがイノベーターには求められるのだ。「義」の捉え方こそが、個人や組織が進むべき方向性を決めるための重要な軸となる。
義と利が対立した時、義を貫くからこそ、社会はより良くできる
ビジネスの現場では、短期的な利益に目が行きがちだ。特にスタートアップにとってのVCや企業内新規事業においての役員などの、投資判断を行う者はそれが顕著にあらわれる。
しかし、利を追うばかりでは信頼を築けない。信頼は事業の根幹であり、顧客、パートナー、従業員など全てのステークホルダーとの関係を強固にする基盤となる。「義」を貫く姿勢は、相手に対する誠実さや透明性を示し、長期的な信頼関係を育むのだ。
たとえば、製品やサービスに対する顧客の期待が利益の障害になる場合でも、提供価値を優先することで顧客からの信頼を勝ち取ることができる。それがしいては顧客のLTVを高めることに繋がっていく。言い換えるならば、短期的な利の追求は、ブランド・エクイティを積み上げることと相反するのだ。
イノベーションの成功には、多くの人々の支持が必要だ。特に初期顧客や初期パートナーからの支持は必要不可欠である。イノベーションは必ず小さく始めることになる。小さく始めるからこそ、その小さな一歩をステークホルダーとの信頼関係によって加速させなければならない。
短期的な利を捨てて、儲からないことに全力を注ぐ。顧客や社会に対する「義」を選択することで、より広範な支持を得られる。長期的には、その信頼と支持が間違いなく大きな収益へと繋がっていくため、「義」を貫くことは経済的にも合理的であるのだ。
義と義が対立するならば、大義を貫く
イノベーションの歩む道には、多くの選択肢が存在する。時には「利と義」の対立だけにとどまらず、「義と義」が対立することもある。わかりやすい例でいうならば、顧客満足度を優先するか、従業員の働きやすさを重視するかなど、いずれも「正しい」選択肢に見えるようなものだ。
その時、重要なことは「大義」を見極めることだ。それこそが成長と発展を左右することになる。ここで大義とは、事業の最終的な目標や社会的な影響を指す。
イノベーションは、ただ利益を追求するだけでなく、社会に貢献することを視野に入れた使命が求められる。「大義」を基準として組織を一致団結しているからこそ、マイクロマネジメントなくしても、目先の業務に追われることなく、メンバーが正しい判断をすることができる。
大義を貫くためにこそ「グランドデザイン」を描く
判断を簡単に下すことのできない分岐点に直面したり、迷い道に入ってしまった時にこそ、「大義」が必要となる。そしてイノベーションを成し遂げる道すがらには、日々そのような局面が訪れる。だからこそ、今これからイノベーションに挑むというときに、グランドデザインを描くことが求められるのだ。
まずビジョンを明確にする。イノベーションにおいて作るサービスやビジネスが追求すべき「顧客のあるべき理想の姿」を定義する。また、同時にそれをメンバーはもちろん出資者や決裁者、すべてのステークホルダーと議論することで、解像度を上げていき、かつ共感の輪をつくる。
また同時に、それを実現するための戦略を描く。もちろんその過程は仮説検証を通じたときには、多かれ少なかれピボットをすることになるだろう。しかし、一旦その戦略を描くことで、何をどこまで戻るのか、どう変えるのか、どう順番を入れ替えるのかなどを検討することができる。戦略なしでは、仮説検証結果を分析し判断することもままならないのだ。
そして、それによって1st Pinとして最初に何をやるべきかを定め、徹底的に行動していく。行動の結果に基づいて、ビジョンも戦略も、解像度を高め、ブラッシュアップしていく。
ビジョン、戦略、1st Pinを定義することがグランドデザインを描くということだ。また同時に、社内新規事業であれば、そこに「コーポレート・フィット」を考える。我が社でやるべき理由、我が社だからこそできる理由、我が社だからこそシナジーが創れる理由を考えていく。
これらによって「大義」が明確となる。その過程でのステークホルダーとの対話が、組織全体に大義を浸透し意思決定をブレなくさせ、小さな情熱の火に対する共感をマーケット全体を巻き込んだ大きなムーブメントへと共鳴によって引き起こすことに繋がっていく。
リーダーシップとは、大義を守ること
旗振り役としてのリーダーにとっては、大義を守ることこそが重要となる。イノベーションにおいては、チームメンバーはもとより様々なステークホルダーの多様な意見や価値観が交錯する。その全てを取り入れようとすれば、最大公約数をとることとなり、角が取れて丸くなり、「みんなにとってよいものは、みんなにとってどうでもよいもの」となってしまう。
イノベーションでは、リーダーがどのようにして大義を貫くかが与える影響は、想像以上に大きいものなのだ。ある意味独善的に独裁的に、大義に則って決断をしていかねばならない。その決断の積み重ねでイノベーションは成るのだ。
また、リーダーが大義に忠実であり続ける姿を見せることで、メンバーが信頼を寄せることができ、メンバー一人ひとりがリーダーに倣って自らの行動も大義を基準に行うようになる。
イノベーションにおいて、マイクロマネジメントを行い続けることは難しい。大きいものも小さいものも、その場その場でスピーディーに決断して、素早い行動に移すことが求められる。だからこそ、イノベーションにおけるリーダーシップは、単に指示を出すだけでなく、正しい価値観を示す役割となるのだ。
「大義を貫く」からこそ、より良い未来を創ることができる
イノベーションにおいて「大義」を軸にした決断が積み重なれば積み重なるほど、その事業の持続可能性は高まる。単にビジネスとして成功するだけにとどまらず、社会に対してポジティブな影響を与えることができるようになる。
特に大企業においては、社会の公器としての役割も求められる。単なる売上・利益に留まらず、社会にどんな価値を提供するかが問われるのだ。だからこそ、大義を貫くことが、市場からの信頼として返ってくることになる。
目先の利益ではなく、大義に基づいたイノベーションに取り組むことによって、ブランド価値や社会的信頼が大きく向上するのだ。そして、それらが大きくなればなるほど、イノベーションは成功しやすくなる。