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加古隆の9thの使い方
前回に続いて、もう1人9thを多用する作曲家、加古隆のアレンジを紹介します。
加古隆の場合は、とても多くの曲にアルペジオの形で9thを使っています。しかも、そのアルペジオパターンが全て微妙に異なっている。そこに曲のオリジナリティーが見られます。
【ポエジー】
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加古隆が、ジャズから方向転換をして、多くの人に耳慣れたメロディーを現代音楽のアレンジ手法で編曲した作品です。オリジナルはスコットランド民謡"Green Sleaves"です。
左手のアルペジオは、1/5/9/3+5の音形を繰り返していますね。途中1/5/9/m3+7に変わったりもしますが、この2つのアルペジオを覚えると、曲の3分の2をマスターしたようなものです。
このアルペジオを発見して、この民謡を新しい音楽に作り直したのが、加古隆の新しいスタートだったと聞いています。
このアルペジオのポイントは9thです。ルート音から5度上向を2度繰り返し9thの音を出す。その後に9thと短2度音程になるm3の音を鳴らし、緊張感を持たせる。4つ目の音はm3+5の長3度音程、協和音程で伸ばす。3度音程は短3度になったり、長3度音程になったりしますが、考え方は同じです。このアルペジオを繰り返すことで、曲の主要部分が成立しています。
【秋を告げる使者】
![](https://assets.st-note.com/img/1698036167931-wocNJv5yEK.jpg?width=1200)
この曲のアルペジオは、1/5/9/5/3/5になっています。この場合も、1/3/5の主要和音に9thが1音加わっただけです。初めの5度上向を2度繰り返しというのは同じです。
【未来の想い出】
![](https://assets.st-note.com/img/1698036173323-0d3HhKR6sM.jpg?width=1200)
この曲のアルペジオは、「秋を告げる使者」とほとんど同じです。1/5/9/5/3の音形で、音が頭に16分音符で集中し、後半が付点2分音符で伸ばしているところが違います。基本的アイデアは同じです。
【ジブラルタルの風】
![](https://assets.st-note.com/img/1698036175783-MzFs6ii1ZC.jpg?width=1200)
この曲のアルペジオは、1/5/3/5/9/5/1/5です。この場合も、1/3/5の主要和音に9thが1音加わっただけです。違いは前の3つが後半が上向形になっているのが、3/9/1と下がっている点です。
【黄昏のワルツ】
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この曲では、2小節めの左手に現れるアルペジオを見てみましょう。1/5/9/3/5/7となり、音型の特徴はよく似ています。1/5/9の5度音程の重複、9thと3度音を隣り合わせること。その箇所は一つにとどめること。ルート音は一度しか鳴らさないことなどです。
【白い巨塔】
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この冒頭部では、左手のアルペジオに9thは使われていません。しかしメロディーの1小節目と2小節目に9thの音が使われています。特に2小節めのものは、Top Noteに9thが使われ8度で跳躍しており、とてもインパクトのある9thの使い方てす。
![](https://assets.st-note.com/img/1698036188453-MtuyE9TLxH.jpg?width=1200)
このアルペジオは「ポエジー」とよく似ています。1/5/9/m3+11+5。異なっているのは、4つ目の音で長2度音程を3つ重ねていることです。また、2小節目のパターンは、最後にルート音をおいていることも違っています。
【森と人の約束】
![](https://assets.st-note.com/img/1698036191240-3WVyTUI5WR.jpg?width=1200)
この曲のアルペジオは、1/5/9/3/5/9/3となっています。後半は同じ音型を繰り返しているので、音型の特徴は同じと言えます。
加古隆の9thの使い方
上記見てきたように、これらの曲の左手のアルペジオはとてもよく似たものです。しかし、全く同じものはなく、皆少しづつ異なっている。特徴をまとめると次のようになります。
1/5/9で始まるパターンが多い。5th build、5度音程を重ねる考え方を使って、9thを導き出しています。
9thと3度音は隣り合わせて、あるいは近接させて使っています。これは、この短2度あるいは長2度という不協和音音程を作る意図があるのだと考えています。
7度を使う頻度は少ない。使われているのは、ルート/9th/3rd/5thの4つの音が多いです。
加古隆は、フランスで作曲をオリヴィエ・メシアンから学んでいると聞いています。彼のこの作曲手法がこの先生から来ているのか否かは、定かではありません。
しかし、これらの9thにとてもこだわった音使いは、僕が自分で伴奏する際やアドリブ演奏に、とても参考になっています。
一例を挙げると、僕は9thを軸にした Pivot Triadというアイデアを持っています。Upper Structure Triadの考え方の一つとして、9thを絡ませたTriadを作れば、それは何らかの調和したテンションハーモニーを作れるというものです。例えば次のようなTriadです。
Root+7th/9th/♯11th(Ⅶ♭aug on Ⅰ)
Root+M7/9th/♯11th(Ⅶm on Ⅰ)
Root+13th/9th/♯11th(Ⅱ on Ⅰ)
Root+7th/9th/5th(Ⅴm on Ⅰ)
Root+7th/9th/11th(Ⅶ♭ on Ⅰ)
これらの音の組み合わせを、あまり理屈は考えず、単に9thを絡ませたトライアドを作ろうと工夫するのです。そうすると、期せずして使える良い響きができることがあります。そういう際には、9thをPivotにしたUpper Structure Triadの1つのバージョンと捉えて、演奏のストックとしています。