【台湾建築雑観】頭の固いインフラ設備関連会社
台湾人に、日本人はよく"頭コンクリー"と馬鹿にされます。融通が利かない、フレキシブルな発想ができないという認識を、多くの台湾人が日本人に対して持っています。
ここでは、逆に日本人が見て台湾の建設システムはここが"頭コンクリー"だと思うことを書いてみます。それは電気会社、ガス会社、水道会社のインフラ設備関連会社に対してです。
機械設備編で書いてきたことと重複しますが、こうまとめてみると、台湾のこれらの公共インフラの会社が共通に持っている課題が見えてきます。
【水道会社】
台湾の給水システムの問題は、給水の計量メーターを最上階にまとめて配置するという設計です。これは、台湾のマンション設計ではどこでも同じですので、共通の設計基準になっています。
このことは、台湾国内ではスタンダードな計画なので問題ない様に台湾の技術者は考えていますが、日本人から見るととても不合理に見えます。その理由をあげてみます。
1. PSがとても大きくなります。例えば、200戸のタワーマンションだと考えてみましょう。塔屋階に受水槽を設けて、屋上に水道メーターを200台設置します。そして、それぞれの水道メーターから一本一本各住戸に給水配管を持っていくのです。200戸あれば200本必要になるわけです。そのため給水配管を通すPSはとても大きくならざるを得ません。
2. その様に計画された給水配管はほとんどメインテナンス不可です。一口に200本と言っても、具体的にこれを配管すると、水平に25本並べても、縦に8段積まないといけません。この様に密度高く積まれた給水配管は、中の方ではほとんど手を触れることもできません。メインテナンス不可の状態になってしまいます。
3. それぞれの配管に減圧弁を設けなくてはなりません。屋上からそれぞれの住戸に給水がなされるので、一定の高さを超えると、それ以上の高低差のある配管の全てに減圧弁を設けなくてはなりません。
日本の場合水道メーターは玄関の脇にあり、そこから先に住戸用の独立した給水配管が設置されるので、PS内に設ける給水配管はとても少なくて済みます。小規模なタワーマンションであったら一本で済むのではないでしょうか。大規模であったとしても、エリアごとに数本で良いはずです。
この様に、給水配管の煩雑さ、メインテナンスのしにくさは日本の比ではありません。この様なシステムが採用されている理由は、恐らく、水道会社がメーターを検診する際に屋上に行けば、全ての住戸のものを確認できるからなのでしょう。水道会社のスタッフの作業の利便性を図るために、建物の給水システムは非常に不合理な計画になっている。その様なことなのだと考えています。
【ガス会社】
ガスの配管についても、給水配管と同じようなシステム計画がなされています。いったんガスのメイン配管を最上階に持っていき、そこから改めて各階にガス配管を下ろしてくるのです。
この様になっている理由は、これも推測ですが、大管径のガス配管を溶接するのには比較的問題が少ないし数も少ない。そして、上からは各住戸に分割して、小管径のガス配管にして下ろしてくる。そうすることで、ガス漏れのリスクを低減する、その様なことなのだと考えています。
ガスの場合は、ガスメーターはそれぞれの住戸の専有部バルコニーに設けられていることが多いです。そのためガス会社はバルコニーに入ることができません。住人が自己申告でガス会社に報告することになっています。
もう一点、ガスの工事は建築本体の設備工事としては行ってはならないというルールになっています。どういうことかというと、ガス配管の工事は、建物本体の工事がほぼ終わった段階で、ガス会社が自ら行うことになっているのです。そして、その配管のメインテナンスもガス会社自らが行う。
この様な、ガス会社による別途工事となるため、ガス配管の設置の制約が多い。基本的に、室内に主要な配管を配置することはできません。必ず外側にガス配管を這わせます。また、そのガス配管をいつでも外部からメインテナンスできる様にしておかなくてはなりません。目隠ししたくても、してはならないのです。目立たないところに配置するのが精一杯です。街中を歩いていると、外壁によく目立つ配管が見えることがあります。それが、ガス会社によって施工されたガス配管です。
そうなると、外壁を伝って各住戸のバルコニーまでガス配管を持ってくる。そして、それを給湯器につなぐ、もう一つは厨房のガスコンロにつなぐ、この2つの配管工事が出てきます。これも後から行う工事なので、上手く隠すことができない。どうにもなりません。
このガス配管の主要部を隠蔽ではなく露出させる。それもできるだけ屋外に露出させるというのは、ガス配管そのものに対する信頼性がとても低いからなのだとも考えています。屋内にガス配管をしてガス漏れが起こるリスクをできるだけなくす。そのために、屋外に配管させているのでしょう。
【電気会社】
電気のメーターは地下に集中配置されています。普通電気の受電室は地下室にあるので、全ての住戸の電気メーターはこれに隣接して設けられます。200戸ある場合は200個のメーターを設けなくてはなりません。これは、住戸数が多い場合は結構な面積が必要になります。
このことも、理由は電気会社のスタッフの検診作業が地下一階のエリアでまとめて行うことができる様にということでしょう。
また、台湾の電気設備計画では、変電室を台湾電力会社が自ら施工することになっています。言ってみれば、ブラックボックスの様な状態になっています。扉の開け閉めもままならない、アンタッチャブルな空間になっているのです。万一、変電設備にトラブルがあった際は、台湾電力を呼んで中を確認してもらわなくてはなりまさん。
また、この変電設備や発電設備は、現在の日本では、洪水対策や安全対策のために、地下に設けず地上に移すケースがよくあります。しかし、この様な提案は台湾では受け入れてもらえません。台湾電力が拒否してしまうのです。この部分についての柔軟な対応というのは、台湾では期待できない様です。
台湾の設備設計制度の問題
これらの台湾の建築設備計画における不自由さには、これらの設備計画が五大幹線計画と言って、建築ライセンス申請に関わる許認可制度となっていることに原因があるのだと考えています。この仕組みを通して、設備インフラ会社の作りたい様にしか、設備計画を作れないという限界を感じます。
この五大幹線というのは、給水、排水、強電、弱電、消防の五つの設備のことです。これらの工事を行う会社は、元々国営だったのでしょう。そのため建物の設備計画に対して、今でも許認可権を持っています。その様な建築の制度になっているので、五大幹線計画の許認可手続きの際に、設計者の自由な提案はできません。彼らの会社の都合の良い様にしかシステム設計をさせないということになってしまっているのだと思います。
ガス工事会社は、この許認可権は持っていませんが、彼らが自ら工事を行うことになっているので、実際は同じ様なことになっています。自由な設計と工事はできません。
台湾でのこの様な状態は、自由化が進む前の、国民党による戒厳令の時代の名残なのではないかという印象を持っています。昔の台湾では、戒厳令の名の下に、全ての企業活動、事業計画に政府の監視の目がひかり、何も自由にできなかったそうです。そう言った時代の許認可制度の仕組みが今もこの様な形で残っており、そのために設備計画のさまざまな面で、非合理的な設計(逆に設備インフラ会社の都合の良い設計)がまかり通っている。その様な印象を持っています。
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