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【台湾建築雑観】建築計画/工事の常識の違い(その一)

台湾で建築の仕事をしていると、様々な面で日本の常識が全く逆になっているという場面に遭遇します。日本の考え方が通用しないわけです。そして、それには台湾ならではの理由があります。

まず日本の常識を掲げて、それは台湾では必ずしもそうではないということをいくつか説明してみます。
(これは、専ら集合住宅の場合を考えた場合の考察です。)

建築計画

「駐車場は地下に設けるとコストアップになるので、できるだけ地上で計画する。」

日本で集合住宅を計画する場合に、コストをかけない様にするための重要なポイントは、地下の構造体を大規模に作らないと言うことです。タワーマンションなどで戸数が多い場合、必然的に地下空間も大きくなり、駐車場を地下に配置するケースはありますが、中規模、小規模の案件だと、何とかして地上で駐車場を処理することを考えます。その為に機械式駐車施設を一階に設けるとか、一階を駐車スペースにして住宅を2階より上に配置するなど考えます。

しかし、台湾の集合住宅では1階に駐車スペースを設けるとか、機械式駐車場を設けることをほとんどしません。これには複合的な要因があります。
まず考えられるのは、台湾では日本の住居専用地域の様な建蔽率を抑え、外部空間を比較的ゆったり取るような地域計画になっていないことです。台湾の都市空間は住宅と商業がミックスされた状態になっており、戸建て住宅が建つような場所は余程の高級住宅街か田舎で、普通の街中で計画する様な集合住宅の敷地では、伝統的な建物は敷地いっぱいに建っています。
そして、最近よく見られる、都市に開放空間を設けて、より生活に潤いのあるランドスケープを作ろうといった場合、そのために容積率の割り増しを受けられるのですが、その様な開放空間は人間のためのスペースで、駐車場としてしまっては開放空間とは認められないので、必然的に駐車場は設けられません。

この様に伝統的な都市空間も、新しい開放空間も何れも地上面での駐車場を許容していないので、それが計画の一般常識となっています。台湾では普通に計画すると地上に駐車場を設けず、地下に計画することになります。

「駐車場を設ける時には、スペースを有効利用するために機械式駐車場を検討する」

日本では、地下室に設けるにしろ、1階に設けるにしろ、スペースの有効活用のために、機械式駐車場を検討することが一般的です。タワー形式、平面のパレット形式、簡単な2段式など、日本では様々なパターンの機械式駐車場を採用しています。

しかし、台湾では平面自走式の駐車形式にとてもこだわります。台湾では法規で一住戸あたり一台以上の駐車場の設置が義務付けられており、200戸、300戸などとなると、とても大規模な地下駐車場を設けることになります。そのため、小さな規模の集合住宅でも地下2階程度、大規模なものになると、地下4階から5階もの地下室を設けることが普通にあります。
この、平面自走式へのこだわりは、日本よりもかなり強いものです。そのために地下を深く掘る工事が一般的になっています。

構造

「耐震壁を設ける」

日本のRC造の構造設計では、基本をラーメン構造として柱と梁を組み、その上で地震耐力を負担する耐震壁を設ける設計が一般的です。この耐震壁をバランスよく配置することで、柱の負担する地震耐力を少なくするわけです。
その様な耐震壁は、例えばエレベーターシャフトとか階段室に沿って設け、できるだけまとまった壁長を設ける様に考えます。建築計画の際に、まず柱の配置を決めて、それに沿ってバランスよく耐震壁を設けることで、合理的な構造計画とします。

しかし、台湾ではこの様な耐震壁を設けるという考え方を基本的にとらないのです。日本で構造計画をすると、耐震壁とその他の雑壁は構造記号でも壁の厚さでも、配筋の仕様も異なり明らかに違うものです。しかし、台湾では外壁はほぼ全てが厚さ15cmで計画されており、日本で言うところの雑壁でしかありません。ということは、構造的な地震耐力は柱のみが負担すると考えられているのでしょう

このことについては、深く研究したわけではないのですが、地震に対する構造的な検討と言うのは、やはり日本の方が進んでおり、合理的な構造計画がなされているのだと考えています。
その理由としては、台湾の建築の構造的な考え方は日本のものをベースにしているのではなく、第二次世界大戦後に、アメリカが台湾に持ち込んだ建築の技術と思想が基礎になっていることが理由なのだと想像しています
そして、結果としては、台湾のRC造における柱や梁の配筋の様子は、日本のそれよりも遥かに数が多くて、施工が困難なものになっています。それだけ柱と梁に大きな負担がかかっている構造の考え方なのでしょう。

この耐震壁を設けると言うことに関して、台湾でも一部の構造設計者はそれを検討して、実際に建物を設計し建てています。しかし、その様な考えを持っている構造設計者は少数派なため、それが全体に普及しているわけではありません。

また、台湾の集合住宅の階段やエレベーター周りの平面計画は、複雑に凸凹にさせる場合が多く、そこが耐震壁によって自由にできなくなるということから、意匠設計者から嫌がられると言う面もある様です。

「地中連続壁は仮設工事と考える」

地中連続壁のことは、すでに別の記事でも説明しています。

日本では地下の構造物を地上と同じ様に厳密に施工するために、いったん仮設工事として山留め工事を行った上で、その内側に改めて正規の構造体を施工するという風に考えます

しかし、台湾では、日本においては仮設工事の一部としか考えられない地中連続壁を、正規の構造物の一部と見なしています
具体的にこの地中連続壁工法の様子を説明すると、例えば地下5階の建物とするために、深さ16mの地下空間を作るとします。そうすると、この地下16mの深さにある地中連続壁を地上面から施工することになるわけで、それは通常の型枠を設け、被り厚さを確認し、バイブレーターをかけながら密実なコンクリートを打設するのとは全く異なるわけです。掘削機械で設けた必要な幅の隙間にコンクリートを流し込んで終わりです。

日本においては、その様な品質のコンクリートを構造躯体とするには適切ではないと考え、地中連続壁をそのまま構造体の一部とするという考え方は廃れていきました。あくまでも仮設構造物と考えるわけです。
仮設構造物であるとすると、地中連続壁工法は、他の簡易的な山留め工法と比べると費用があまりにかかり過ぎます。そのため採用されなくなったわけです。

しかし、台湾ではこの地中連続壁を構造体の一部とすることを良しと考えました。理由としては、一つには、敷地いっぱいに構造体を設けることができること。二つ目は、仮設工事を省くことができることです。そのために、コンクリートの品質については目をつぶろうというわけです。
そして、国を上げてこの工法を採用しているので、台湾では地中連続壁による地下構造物の施工は、スタンダードになっています。この工法は、元々イタリアで考案され、日本でも改良が進んだもので、そのための掘削機械も日本で製作されています。しかし、日本ではこの工法はあまり使われなくなり、一方台湾では今でも盛んに用いられています。

「コンクリートの仕様は構造設計者が定める」

日本での構造設計図書には、構造設計者のコンクリートに対する考え方が記されており、圧縮強度の他にスランプ値とか、水セメント比などの記載があります。コンクリートプラントは、この構造設計の記載に沿ってコンクリートの配合をし、強度を確認してコンクリートを現場に納めます。

この日本では当然と考えられていることが、台湾では通用しません。どういうことかと言うと、構造設計者が定めるのは、コンクリートの圧縮強度だけなのです。その他コンクリートの品質に関わる様々な指標はコンクリートプラントに任されています。
このことについての明確な理由は分かりませんが、これまでの現場監理での経験などから、次の様なことではないかと推測しています。

  1. 我々の日系ディベロッパーは、日本に本社を持っている構造設計事務所に構造設計を依頼しています。しかし、彼らでさえ、当初日本の様にコンクリートのスランプ値、水セメント比等を指定して設計図書としていたのだが、どこの現場でも施工者サイドから反発されるので、今は強度指定しかしていないとのことでした。

  2. ですので、台湾の現場ではスランプ等の値を指定されると困る何らかの理由があるのだと考えられます。それは、僕はコンクリートの流動性を高くしたいという現場のニーズなのだと想像しています。スランプ値を低く抑えて密実なコンクリートを打設するというのが、日本でRC造建物を施工する際の基本的なアプローチなのですが、台湾でその様なコンクリートを使うと、打設の際に型枠の中にコンクリートが流れていかない。そのためにできるだけスランプ値の大きなコンクリートにしたいというのが台湾の建築工事現場の普遍的なニーズなのだと思われます。

  3. なぜその様なことになるのかと言うと、台湾のRC造の配筋は日本のそれよりも印象として1.2倍から1.5倍ほども多い。理由は前に書いた様に柱と梁が負担する地震力が大きいためでしょう。そのためにスランプ値の低いコンクリートを使うと、型枠の中で詰まりがちで、ジャンカだらけになってしまう。それを避けたい。

  4. また、台湾は気候が日本よりも暑いので、乾燥するスピードが早い。そのためにスピーディーにコンクリートを流し込まないといけないと言うニーズもあります。

  5. さらに、台湾では現場にかける施工者の人数が日本よりも遥かに少ない。そしてそれなのに、日本よりも広い面積を一気に打設する様なコンクリートの施工計画になっています。そうなると、日本の様な丁寧さで施工することはほとんど無理です。大規模に大雑把に施工しなければいけない。

これが台湾のコンクリート工事の施工の現場の実情です。そして、その様に、ある程度施工者サイドに自由度を持たせておいてもらわないと困ると言うのが、台湾の施工者からの強い要望で、台湾の構造技術者はこの方針を受け入れざるを得ないのだと、その様に考えています。

書き始めたら、ここまでで既に4000字を超えてしまいました。次回、設備計画、施工についても考え方の違いの説明をします。

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