齊柏林。彼の名前を初めて聞いたのは、担当していたホテル案件での打ち合わせの最中でした。このホテルのウェルカムシーンの装置の一つとして、齊柏林の撮影した映像を用いるというアイデアがある。そのための壁面の処理をどうしたら良いかという相談でした。
台湾人にとっては、とても有名な誰でも知っている人物らしいのですが、僕は初めて聞いた名前で、齊柏林とは何者か、何も知識がない状態でした。
《看見台灣》
齊柏林の名前を聞いたことはありませんでしたが、巷に《看見台灣》というドキュメンタリー映画のDVDが売られていることは知っていました。これは、台湾の大自然を空撮した映像をまとめて、映画として発表したもので、作品がとても好評を博していました。齊柏林は、この映画の監督だったのです。
Wikipediaに齊柏林のスレッドが立っており、彼の事績が詳しく説明されていますので、彼がこのドキュメンタリー映画を作成することになった動機の部分を下に訳出してみます。
「齊柏林は、公務員として20 年以上航空写真の撮影に携わっていました。この間、主に写真撮影を業務としていました。彼は、2008年から空撮の映画化のアイデアを持っていましたが、当初は周りから、登場人物が誰一人おらず空撮シーンばかりでは映画化は無理と言われて、実現不可能と考えていました。 しかし、2009 年8月8日の大水害により、台湾の山と森林が深刻な被害を受けた時のことです、齊柏林はヘリコプターに乗って、1時間その災害の状況をつぶさに見る機会がありました。そして、この被害の状況はドキュメンタリーフイルムとして記録を残さなくてはならないと強く決心しました。平面的な写真だけでは、見る者に台湾のこの危機を実感させるには不充分であり、合わせて台湾にはもっと記録に値する場所がほかにもあると考え、ドキュメンタリー映画「看見台灣」のプロジェクトをスタートさせました。」
《看見台灣》には、たくさんの地滑りを起こした山とか、公害のために色が変わってしまった河などが現れるのですが、この説明によると、元々美しい風景を撮影するのが目的ではなく、傷ついた台湾の自然を記録することが目的だったのですね。
下記に"看見・齊柏林基金會"HPの説明を紹介します。
台湾の美しさを伝える環境教育の努力を続けます
「齊柏林が25年の時間をかけて生命の危険を冒しながら撮影し続けた作品は、多くの人に見てもらわなければなりません。この土地で生活している全ての人に、感動を与え続けなければなりません。」この様な信念のもと、8,052名の協賛者の協力を得て、看見・齊柏林基金會は設立されました。そして、2019年4月22日、「齊柏林空間」は淡水のDouglas Lapraik & Co.オフィスの裏にオープンしました。
60万枚の貴重な映像作品を収蔵した「齊柏林空間」は、異なったテーマに合わせて、台湾の土地の物語を語っています。また、不定期に国内外のエコロジーや環境保護の問題をテーマにしたアーティストと協働しています。この様な交流と対話を通して、我々の土地を大切にし、生命を尊重することを伝えていきます。そのような「台湾の物語」をテーマにした映像の集積地であり、その夢を伝え続けるプラットフォームにしたいと考えています。
淡水の老街に来ることがあれば、是非我々の「齊柏林空間」にも立ち寄ってみてください。そして、改めて空から眺めた台湾がどのような土地かを知っていただき、この作品が伝えたい物語を読み取ってください。
齊柏林基金會
齊柏林空間
会社のホテルチームのスタッフに、淡水に行けば齊柏林の資料館があると教えてもらい、早速行ってみることにしました。
資料館は、"齊柏林空間"という名前でした。MRTの淡水駅から、紅毛城の方向に歩いて15分ほどのところにあります。見たところ、古いレンガ造の倉庫をリノベーションした建物の様に見えます。先の説明によると、手前の建物がイギリスの貿易会社のオフィスで、その倉庫であった建物なのでしょう。
中に入ると、小さなシアター、写真の展示室、齊柏林の事績を説明したコーナーなどがありました。
写真の展示は一年に1回、テーマを変えて作り直すそうです。この年は映河:Reflection of Riversというタイトルで、台湾を流れる河をテーマに、上流から下流にかけての河の様子を、様々な写真で紹介していました。そして、同じテーマの映像も流していました。(この映像はYoutubeの動画がありましたので、下記のリンクをご覧ください。)
この雄大な映像を、幅8m / 高さ2mはあろうかというスクリーンで見るのはかなりの迫力です。これは、映画館で見るととんでもない臨場感になるだろうと思いました。
台湾の河というのは、個人的にもとても関心を持っているテーマですので、隅から隅まで食い入るように写真とその説明を見ました。普通美術の展覧会などに行っても1時間程度でスッと駆け抜けてしまうのですが、この展示はとても興味深く、3時間ほどもこの小さなスペースで過ごしていた様に思います。
齊柏林の事績を紹介したコーナーでは、彼が購入した、ヘリコプターの上でも揺れを感じさせない撮影機材であるとか、彼がヘリコプター事故で無くなった経緯なども説明していました。
この齊柏林空間は、志半ばに亡くなってしまった彼の試みを引き継いで顕彰しつつ、さらに新しい作品を創っていくという目的のために作られているのでしょう。
この場所は淡水の街でも紹介に値する場所だと僕は考えていて、淡水に友達と来ることがあれば連れて行っています。齊柏林の映像作品を常に鑑賞できる、そして台湾の美しい景観を堪能できる、素晴らしい展示スペースです。
公開されている映像
齊柏林空間のYoutubeチャンネルに公開されている動画を下記に紹介します。是非ご覧になってみてください。
《映河》Reflection of Rivers
《見山》View above Mountains
《看見台灣Ⅲ》予告片
カレンダー
僕がとても気に入っている商品に、齊柏林の写真を使ったカレンダーがあります。これは台湾からのお土産としてとても素晴らしいと考えており、毎年日本にいる大切な友人に送っています。一枚一枚の写真に、台湾の特徴ある景観が切り取られています。
下記のHPからもネット販売で購入できます。