【台湾の面白い建物】蘭陽博物館
宜蘭の蘭陽平原の地質的な成り立ちと地元の自然を紹介する、新しい博物館です。龜山島などに見られる、斜めの地形が現れる大地の形状を建物の外観デザインに採用し、斜めの断面を積極的に使って、大胆に内部空間を計画しています。ディテールも破綻のない、シャープでダイナミックな空間ができています。
姚仁喜建築師の会心の作でしょう。
コンセプト
外から見ても全体像がよく分からないですが、模型で見ると構成が明らかです。巨大な直方体が斜めに地中に埋まっているといった様相を示しています。
そして、このコンセプトが内外の空間を貫いており、非常に明快で力強い空間が立ち上がっています。
外観の特徴は屋根面ですね。普通に屋根を作ると、防水を作ってそれにパラペットがつくのですが、この建物は屋根面もデザイン上重要な部分なのでフラットに作られ、外壁と同じ石材が用いられています。詳しくは分かりませんが、いったん屋根を仕上げた後に、表面に石を使って仕上げているように見えます。
蘭陽平原のまさにこの真下で、フィリピン海プレートがユーラシアプレートに潜り込んでいます。そのために台湾の東海岸には地震が非常に多い訳ですが、この龜山島の形も同じ理由でこのようになっています。フィリピン海プレートが潜り込むために陸塊が上に持ち上げられてしまった、ユーラシアプレートの一部がこのように斜めになっているわけです。
そして、その形を蘭陽博物館という、地質学的な展示をする建物のコンセプトとしているわけです。コンセプトワークとしても秀逸ですね。
外部空間
アプローチ空間にも、斜めのデザイン要素を反復して使っています。それが嫌味にならないのはセンスがよいからでしょうね。
外構計画の要素にも、外観デザインと同じ形を使っています。これは少し饒舌な気がします。ランドスケープデザイナーが建築師におもねった感じがしますね。
普通。建物の形が斜めになるといっても、それはX軸かY軸のどちらかに対してだけで、もう片方の軸は水平/垂直を保っていることが多いのですが、この建物はX/Y軸、共に斜めになっています。このアングルから見るとそのことがよく分かります。
外観の要素も非常にシンプルですね。石によるヴォリュームとガラス面。外観が非常に印象的なので、素材はかえってシンプルに使われています。面の作り方もシンプルです。
この屋根の表現が秀逸です。普通の屋根には見えません。このディテールを実現するにはだいぶ苦労したでしょう。
内部空間
外観の斜めの構成を、内部空間にも巧みに使っています。斜めの外壁とカーテンウォール、エスカレーター、それに対して水平なはずのブリッジが逆にインパクトを持って挿入されています。構成の妙ですね。
建物の主要な壁面が斜めになっているのに対し、エスカレーターや、カーテンウォールも斜めに配置されています。そのために水平垂直のラインも違和感を持ってきます。
斜めの壁にエスカレーターが取り付いている様子です。エスカレーターの傾斜度は決まっているので、よほど上手く壁の水平垂直の傾斜をすり合わせたのですね。立体的な検討をしないと上手くいきません。
斜めのカーテンウォールと垂直の風除室の取り合い部です。上手いこと整理されています。
室内での見え方も斜めになった壁ばかりで構成されています。
展示ホールの吹抜け空間にも斜めの屋根面が見えています。
このトップライトを支えるトラスが斜めに入っている意味はよく分かりません。支点間の距離が長くなり、あまり合理的ではないように思います。
ディテール
たまたま、屋根の石材の一部を修理していました。この様子を見ると、コンクリートに直接石を張っている様です。とするとコンクリートに塗布防水をしていてその上に石を留めているのでしょう。写真では側面しか分かりませんが、上面でも同じ様であれば、防水には少し不安が残ります。
この斜めの構造要素が低い位置にくるととてもインパクトがあります。
ガラスカーテンウォールの要素が非常にシンプルになっていて、石の壁にガラスという構成が明確です。
エントランスホールのブリッジを上から見下ろしています。たくさんの斜めの要素で空間が埋め尽くされています。
ブリッジが水平に見えると、なんとなく安心感があります。
姚仁喜
姚仁喜は僕の印象では、台湾では李祖源に次いで台湾ではリーディングポジションにいる建築師です。作品は公共建築とオフィスが多いですね。李祖源が中華の香りのする土着的なデザインヴォキャブラリーを多用するのに比して、彼のデザインは専らモダンなスタイルのものです。しかし、この蘭陽博物館の様に、その土地に根ざしたデザインコンセプトを持っているので、その土地に相応しい建物になっていると思います。
個人的には彼のデザインした建物はとても好みです。日本に持ってきても通用する様な普遍的なデザインという気がします。
僕は、この人物には二度会ったことがあります。一度はコンペのライバルとして、一度は設計を発注するクライアントとして。どちらの時も非常にカリスマ性を感じる押し出しでした。そういうオーラはデザイナーとして必要なのでしょうね。