【台湾のジャズライブ】曾增譯&黃偉駿デュオ
曾增譯(Mike Tseng)は、現在台湾で最も活躍しているジャズピアニストの一人です。ブリュッセル王立音楽院(Koninklijk Conservatorium Brussel Jazz Performance)に学び、台湾に戻ってからは金曲奨の最優秀アルバム賞や最優秀作曲賞などを複数回受賞しています。非常にたくさんのジャズミュージシャンとのコラボレーションをしていて、いずれも台湾のトップクラスのミュージシャンとの共演です。
彼のピアノの特徴は変幻自在にスタイルを変化させることのできる、演奏スタイルの豊かさと、アドリブをする際の様々なカラーを感じさせるセクシーな音の選択にあるように思います。この魅力的なアドリブは、共演者が誰であっても曾增譯のものだと感じさせる個性的なもので、僕は毎回この彼のアドリブを聞いて素晴らしいと感動しています。
バイオリニスト黃偉駿(Wei-Jun Huang)も曾增譯と同じくブリュッセル王立音楽院でジャズを学んでいます。彼は弦楽四重奏によるジャズカルテット《玩弦四度》を結成していて、このプロジェクトで金曲奨のノミネートを受けています。
黃偉駿の演奏は玩弦四度で何度か聞いたことがあります。メロディーとアドリブ、オブリガートに入った際ののびのびとした音、そのどれもが弦楽器の艶やかな音色で奏でられます。ストリングスによるジャズという領域を独自の解釈で切り開いている研究者といった趣です。
二人は、ともにベルギーでジャズを学び年齢も同じくらいで、留学中から交流が始まっているそうです。そして、台湾に戻ってもジャズを台湾に広めるために戦っている戦友、或いは共に高いレベルでジャズのパフォーマンスを繰り広げられる同士といった風に僕には感じられます。
また彼ら二人は、共に大学では音楽とは異なった専攻を学んでいるというところも似ています。曾增譯は美術を、黃偉駿は哲学を、台湾大学で学んでいます。この世代の台湾のジャズミュージシャンには、彼らの様に大学では別のことを学んでいたが、已むに已まれずジャズという音楽を学び直したという人が少なからずいます。
この様な二人のデュオは、継続的に活動していることもあって、非常にクオリティの高い演奏を毎回聞かせてくれます。僕は過去2回彼らの演奏を聞いています。
1度目は2019年11月に、台湾大学の雅頌坊藝文中心で聞きました。この演奏会場は、もともとアメリカ軍が台湾に進駐していた際、兵士のために作られた礼拝堂だったそうです。これを改修して藝文中心(アートセンター)として使用しています。そのために、デュオの演奏はジャズで即興の要素はふんだんにありますが、音楽としてはクラシックの室内楽のような、残響音に配慮した、ゆったりとした響きでした。
二度目に聞いたのは齊格飛藝術中心(ジークフリートアートセンター)での演奏です。ここは、小さな練習スタジオのようなライブハウスです。この時はリスナーも20人足らず。まるでホームパーティのような感覚で、素晴らしい音楽を楽しむことができました。
彼らのデュオの場合、MCは主に黃偉駿が行っています。彼の語りは哲学学科出身だからか非常に高尚な内容と、それに加えるちょっとしたユーモアが聞いていて非常に面白いものです。印象として日本の落語の様な笑いのセンスを感じます。曾增譯はマイクを振られると、ちょっとはにかんだ風情で人をはぐらかすような話をするのが常です。それなので、二人のどちらが話をしても音楽の合間にくすくす笑いが絶えません。
下に紹介している演奏のデータは、雅痞書店で演奏された、中国語で《陪伴》とタイトルがつけられているものです。バイオリンを学ぶ子供が成長していく過程を音楽で表現しています。故意につたない音を出すバイオリンの表現、それはピアノも呼応していて、ジャズの型にはまらない新しい音楽表現になっています。
何よりこの音楽を聞いたときに、子供の音楽の成長を音で表現することで、子供の側の両親に対する感謝、両親の側の子供を見守る風景などが目に浮かんできて、思わず目が潤ってしまいました。
台湾ジャズ指南
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