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【台湾建築雑観】建築と内装の工事区分

台湾と日本で建築設計の実務をやっていて、設計に対するスタンスの違いを感じる部分があります。それは、台湾の建築師はインテリアデザインの細かいところまでは配慮しないということです。建築の設計者は建物の構造と外壁についてはデザインをするが、内装のデザインについては大部分がインテリアデザイナーに任され、建築師は関与しないという場合が多い。建物規模が小さい場合は、建築師がインテリアデザインを行ってしまう場合もありますが、そうでない場合はインテリアデザイナーに任されます。

台湾でよくされた質問

僕が台湾の建築設計事務所で働いている時によくされた質問があります。

「設計の専門は建築ですか?それともインテリアですか?」

というものです。当初この質問にはとても違和感を感じていました。日本の建築設計事務所では、設計の中に普通に全ての部屋の展開図を含んでいて、インテリア設計も行うからです。日本でインテリアデザイナーが入って設計をするのは、店舗設計とかホテルなど、特殊なインテリアを密度高くする場合であって、普通のインテリア設計は建築設計事務所でも行います。

その様な意識から、当初は自分は建築士で建築設計を行うが、インテリアの設計も行うと返事をしていました。

日本での設計業務

僕は日本の設計事務所で設計業務をずっとしてきましたが、基本的に日本の設計の場合は、内装設計を全て含むものでした。住宅であろうが、公共のホールであろうが、全ての部屋の展開図を隅々まで書いて、詳細を確認する。基本的に1/50程度のスケールで描き、必要な場合はもっとスケールを大きくして1/30などというスケールの展開図を書いたこともあります。空間が大きくなった場合、全体をA1サイズの中に納めるように、小さなスケールで書くこともあります。
いずれにしろ、建築デザイナーが全ての空間を把握し、図面にする。必要な場合は部分詳細図を書いて、どの様に納まるかを検討します。

僕が携わった仕事では、建物の設計の際にインテリアデザイナーが加わったことはありませんでした。唯一、丹下事務所でホテルの設計を他のチームがやっていた時に、インテリアデザイナーが参加していました。それを傍に見ながら、そういう仕事もあるのだなと理解したという程度です。

ですので、建築設計というのは基本的にインテリアデザインも含み、全ての展開図を描くものだというのが僕の理解でした。

台湾での設計業務

この日本での常識は、台湾ではちょっと様子が異なりました。例えば、僕が担当した大規模な集合住宅では、エントランスホールやエレベーターホールは、建築設計と密接に関わるので建築師が設計するのですが、それ以外の共用部の設計についてはインテリアデザイナーを起用して彼らに設計を依頼します。我々は日本のディベロッパーですので、特に日本のインテリアデザイナーに発注して、日本テイストの設計となるようにし、それを販売時のセールスポイントにしていました。

面積規模は基準階一層分程度で、部屋数も10室ないくらいです。これくらいの共用部の設計であれば、日本では建築士が自ら行ってしまうでしょう。しかし、台湾ではこの程度の規模のインテリアであっても、建築師の他にインテリアデザイナーを参加させるのが通常のようです。
これは、一方で売り物としての宣伝文句を増やす意図もあるでしょう。しかし、公共案件で大会議場のインテリアを別発注としインテリアデザイナーを起用したという例も知っています。

このディベロッパーではホテル案件もありますので、ホテルについてはインテリアデザイナーが当初から選定され、客室と共用部、大浴場に関する全てのデザインを行っていました。

台湾の建築実務上の問題

台湾ではこの様に建築師の業務とインテリアデザイナーの業務が分かれており、それぞれ専門の領域があるのが通常です。
そして、その様な棲み分けがされているために、建築デザインとインテリアデザインの間の調整がとても難しくなっています。建築の工事として建築設計が先行し、インテリア工事は建築工事が終わってから着工するというのが普通だからです。

例えば、常開の防火扉の納まりです。日本では、防火扉が開いた状態できちんと壁面内に納まる様に考えます。しかし、先行する建築工事がこの様なことに無頓着で、その様な壁面に納まるという様な仕様にしていないことがよく見られます。
他にも、附室に設ける排煙ガラリなども意匠性に関係なく付けられていることが多いです。

台湾では、建築工事が終わってからインテリア工事に着手するというケースが多いので、インテリア側の要請が建築工事に反映されないことが普通です。そもそも、建築工事が終わっている時点で、インテリアデザインが発注されていないとか、発注されていても完成していないとかいうケースがままあります。

我々の関わっているホテルは、当初からマスターリースとしての入居が決まっており、そのため建築設計に合わせてインテリア設計も進んでおり、インテリア側の要望を建築工事側に伝えて調整を依頼しています。しかし、普通の台湾における建築設計業務がインテリアデザインに配慮しないものなので、この調整はとても難しい。我々の意匠的要望を伝えても、それを聞き入れてくれる確率は80%くらいでしょうか。建築工事側の論理で物事が決定されるケースも少なくないです。

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