【台湾建築雑観】ペーパーホルダー
日本の住宅の設計においては、トイレの便器とペーパーホルダーの関係が平面的に厳密に決まっています。便器に座った際に手の届く壁面に設置する様に計画します。
この基準を台湾でどうするかが議論になりました。
日本の設計基準
日本のマンションディベロッパーの仕事をしていると、設計標準というものがあり、このペーパーフォルダーの設置位置を厳密に定めています。便器に座った際、すぐに手の届く位置にこれは置かれます。
この位置は各ディベロッパーや、衛生器具メーカーによって基準が定められ、それに沿って設計がなされ、各住戸の平面図と展開図にそれが記載されます。工事はこの設計図書によって行われることになります。
おおよそ上記の展開図のような位置ですね。ポイントは便器の前に置くということです。そして各社の基準で推奨値が定められています。
しかし、この基準が、台湾の住宅案件ではこのようにいかないのです。理由は、便器の側面に壁がないことが多いからです。
台湾のバス・トイレの計画
台湾のバス・トイレの計画では、バスルームの中に便器を置いて、バスとトイレを一体に計画するのが一般的です。最近では、"乾濕分離"と言って、トイレとバスを別に計画する平面レイアウトも見ることがありますが、これはまだ少数派です。
そして、その場合の一般的な配置は、入口の位置に洗面台、その次に便器、最も奥まった位置にシャワー或いはバスユニットといった具合になります。下記の写真/平面図の様ですね。
そして、こうなると、便器の両側面に壁がないことになります。ですので、この様な平面計画の場合にペーパーフォルダーをどこに置くのかが問題になりました。
さて、皆さんならどの様に処理しますか?
解決案は、ブレーンストーミングで、日本人と台湾人皆で話し合いました。
第一案
ペーパーフォルダーを、便器の向かいの壁面に置く。
しかし、この様にすると、シャワールームに行くのに邪魔だろうということになり、不採用になりました。
第二案
写真の様な洗面台のカウンターの側面に、ペーパーフォルダーを設置する様工夫する。
この案は、動線的には問題はありませんが、出来上がったものがあまり美しくない。また、既製品の人工大理石のカウンターを加工するのに、メーカーが対応してくれないなどの意見が出て、今一つ良くないと考えられました。
第三案
商業施設でたまに見る様な、自立式のペーパーフォルダーを使う。
これは、狭いトイレのスペースで邪魔になるだろうし、一台あたりのコストも大幅に増えるので、却下となりました。
いずれの案もうまい具合にはいかないので、台湾では一般的にどの様に処理されているのかを台湾人スタッフにヒアリングしてみました。
すると、ペーパーフォルダーを使わないという意見が多かったのです。そもそも、台湾では巻取り式のトイレットペーパーを使わないことが多い。一般の家庭では、抜き取り式のトイレットペーパーを使い、それを任意の場所に置いておくというのです。それは、便器のタンクの上であるとか、洗面カウンターの上などです。
この傾向はスーパーマーケットに行って、トイレットペーパーのコーナーを見ても明らかでした。大体8割から9割の商品が、抜き取り式のトイレットペーパーなのです。
第四案
このヒアリングの結果により、ペーパーフォルダーは取り付けないという結論になりました。
しかし、商品企画上ペーパーフォルダーを設置するとうたっているため、物自体は顧客に引き渡します。それを顧客が使うか使わないかは、相手に任せる。不自然な位置に無理やり設置するよりは、その方が良いだろうという結論になりました。
そして、今後のトイレ・バスルームの計画には、ペーパーフォルダーは必須とはしない。状況によって判断するということになりました。
そして、この事例から以降、商品企画の際、諸々の問題をあらかじめ台湾での実情をヒアリングして、確認する様になりました。まず、台湾での状況を把握する。その上で日本の基準をモディファイする。日本の常識を直接持ってきて議論しても、実情に合わないことがたくさんあります。
その様な実例の一つとして、ペーパーフォルダーの例を紹介してみました。