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【台湾建築雑観】ディベロッパーの役割
台湾の建築師の役割、営造会社の様子は紹介したので、今回はディベロッパーの会社の様子の違いを説明してみます。
僕が設計担当として呼ばれたわけ
別の記事でも書きましたが、僕は現在の会社では当初工事確認を行うという役割を期待されて台湾に派遣されてきました。それが、ある時から設計を主に見てくれという風に頼まれました。僕はそもそも設計事務所勤務が長かったので、それは願ったり叶ったりの依頼でしたが、会社にとってもそれは必要なことでした。
台湾と日本のディベロッパーがJVを組んで業務を行うに際して、同じような不動産開発の業務でも、仕事に臨むスタンスが大きく異なるのです。日本のディベロッパーは不動産をマネージメントすると言う視点で業務を遂行しており、仕事の核となるのは契約やお金の流れの管理を行う人間です。それに比べると、台湾のディベロッパーの中核スタッフは建築の技術者が多い。そもそも建築師の有資格者が董事長や担当窓口だったりします。
そんな場面が多いので、設計の打ち合わせの際に、僕のような中国語が分かり、台湾の事情にも通じている日本の建築士が加わって様々な意見を提供することが求められました。
台湾では技術者主導で事業運営がなされている
これまで台湾のディベロッパーの様子を見て感じたことがあります。それは、台湾ではディベロッパーの最優先課題は、建築工事の品質の確保だということです。というのは、建築師と営造会社に任せていたのでは充分に安全な品質の建物ができないという認識があるのだと思います。
建築師の描く設計図書は充分に現場のことを配慮していない。建築と構造、設備の図面の照合が充分になされていない。工事監理は法定監理しか行わない。
一方営造会社側は,基本的に設計図書の通りに施行するのが業務と認識していて、図面のチェックをおろそかにしがち。日本的な認識で、工事現場は諸々の調整ごとをきちんとするものだろうと考えていては、足元をすくわれてしまいます。
この様な建築工事の状況の中で、最も力を発揮すべき立場にあるのはディベロッパー側です。最も水上で、きちんとした指示が出せるのは、台湾では建設資金を把握しているディベロッパーになります。この立場で指示を出すことができれば、建築師も営造会社もそれに従わせることができます。さもないと、建築師と営造会社はお互いに責任を取らず、中途半端な性能の建物ができてしまいます。
僕の付き合いのある台湾ディベロッパーは、建築師の描く図面は結局現場で彼らが修正指示を出すので、概略予算が分かれば良いぐらいのことを言っています。そして、実際に現場にそのように積極的に関わっていくのが台湾のディベロッパーのスタイルです。トップダウン方式で現場の指導をしていきます。
日本では不動産経営の視点での運営
一方、日本では建築士と建設会社の両者で建物の品質を充分にコントロールしています。基本的にディベロッパー側は全体を大まかに見ていれば大きな問題は起こりません。そのために日本のディベロッパーでは、コンストラクションマネジメントには関わらず、専らプロジェクトマネジメントを主に行うというスタイルになります。具体的にはスケジュール管理、顧客との対応、コスト管理などです。そして、建築の技術的な面は建築士と建設会社で処理するわけです。
そして、不動産開発業務で最前線に立つのは、その様なプロジェクトマネジメントスタッフです。
日台のディベロッパーの業務スタイルの違い
この様な台湾での不動産開発業務の違いから、我々のコンサルタント会社が業務を委託され、台湾にスタッフを派遣しているわけです。
日本のディベロッパーは建物を作った後にどう使うか、どのようにメインテナンスをして、長い間使っていくか。そして長期的にどのように収益を確保していくかという視点が優れているように思います。
台湾のディベロッパーはそのようにはあまり考えません。作ったものは売り抜けば良い。自己の資産として残すのは得策ではない。そして、不十分な建設の品質を改善するために注力するのが業務の本分と考えている。そんな風に考えています。
日本と台湾のディベロッパーが共同でJV事業を推進していくのですから、お互いにその長所を学び、台湾のマーケットに合致した建設事業を進めていかなくてはなりません。僕の能力がその一助になればよいと考えて、日常の業務に臨んでいます。