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【台湾建築雑観】設備工事(その一)

今回は、設備工事のうち排水工事について説明します。
住宅の設計において、日本と台湾の排水設備工事はだいぶ様相が異なります。日本で常識的な工事が、台湾ではほぼ行われていない。その状況に慣れるまでにだいぶ時間がかかりました。

注:ここで説明するのは、専ら住宅における設備配管工事のことです。商業施設やオフィスビルでは、台湾と日本の間で、住宅におけるほどの根本的な考え方の相違はありません。

日本の排水設備工事

基本的な排水設備工事
日本における住戸内排水設備工事は、上下階を貫く縦配管を除いて、基本的に全ての配管をその住戸の躯体範囲内で収める様に考えられています。
この考え方は、スケルトン・インフィルの概念やユニットバスの普及、騒音防止のための高床のフローリング工事など、諸々の技術的条件が整ったことで実現しています。

この考え方を取ることで実務的に得られるメリットとしては、例えば排水管に問題があった場合、下の階に行かずに自分の持ち物の住宅の階で修理ができること、水漏れがあった場合でも下の階に漏水せずに、自分達の階で漏水を感知し対応できることなどがあります。
また、排水管は自分たちの階のコンクリートスラブの上にあるので、騒音の問題も比較的抑えやすくなっています。

その他にも、住宅のリノベーションをしたいと考えた場合にも自らのフロアだけで工事を完結させることができます。工事の際に、下の階に迷惑をかけることはありません。

日本では排水管は床上に配置されます。

ユニットバス工事
日本の浴室は、ほとんどがユニットバス工法を採用しています。この工法では、工場で作られたFRP製のバスユニットを現場で取付ける工事になります。その際、このバスユニットからの排水は、やはりコンクリートのスラブの上に配管されます。そして、ここで横引きされた排水管は、縦方向の各階共通の配管に繋がれることになります。
ここでも、システムの一式はコンクリートスラブの上で処理され、下の階には影響しません。

台湾の設備配管工事

上記に説明した排水配管設備の考え方は、台湾ではほとんど異なります。これは、どれが正しいとか否かと考えても仕方がありません。台湾の工事の習慣ではこう設計されていることを受け入れるしかありません。

基本的な排水設備工事
台湾では日本の様な排水管をスラブの上で処理するという工法を基本的に取りません。普通の住宅では排水管は一旦スラブにスリーブを通し、下の階で横引きして縦配管に繋ぐ様に考えます。表紙の写真の状態ですね。

この様になっているのには理由があります。基本的に、台湾ではタイルや石という硬い床材をコンクリートに直接モルタルで貼る工法を取ります。この様な床仕上げとする際に、排水配管を床の上に施工するのは困難が伴います。というのは、タイルや石などの硬い床材を施工するには、日本でフローリングに使っている様な、高床にしてベニヤ等の木製下地という工法を採れないからです。やるとすると、スラブの上に配管をし、これに軽量コンクリートを敷き詰めるという方法です。これは重量がかさばるし、将来配管を付け替えるとなると、コンクリートを取り除かなくてはならなくなり、大変です。

実は台湾ではこの様な工法をとっている建物はあります。それは、超高級物件でオーナーが自由に水廻りを設計する建物です。この様な案件は、水廻りに想定されるエリア全域の床スラブを、レベルを下げて計画します。そしてスケルトンで部屋を受け取ったオーナーが水廻りを自由に設計することができるわけです。
しかし、この様な設計をするのは超高級案件のみです。それはこの床下げの部分はすべて軽量コンクリートが充填されることになり、その分重量の負担が大きく、躯体のコストが大幅に増えるからです。そのようなニーズと資金力を持っているユーザーは限られているということでしょう。

そのため、通常の住宅案件では、排水配管は一旦スラブを打ち抜き、下の階に現れることになります。
そうなると、いざ排水管にトラブルが起こると、その修理のために下の階に入って配管の状況を確認することになります。日本人的にはこれは避けるべき事態ですが、台湾ではこの様な工事が一般的です。

台湾のバス・トイレ排水工事

上記の様なタイルによる工事というのは、バス・トイレでも同じです。台湾では浴室とトイレを一室にまとめて計画するのが普通ですので、その場合の施工方法ですが、やはりコンクリートのスラブから直接階下に配管を抜いて下のフロアで横引き配管をして縦配管につなぐようになります。

通常バス・トイレの配置位置は上下階で同じなので、騒音等の問題は比較的起こりにくい状況ですが、上下階で異なった配置になる場合には注意が必要です。我々の工事の場合、仮にバス・トイレの真下に寝室がきたりすると、音の問題は許容範囲を超えてしまうので、スラブをその部分では下げて対応するようにしています。台湾のディベロッパーの案件ではそのような場合にこのような対応をするのかは定かではありません。この様な床下げ工事を台湾の建築設計事務所があまりやらないところを見ると、台湾ではあまり行われていない計画の仕方であるように見受けられます。

排水配管設備工事の違い

台湾と日本の排水配管設備工事はこの様に異なっています。日本の設計/施工内容の合理性を知っていると、これが正しいと思いがちですが、僕は必ずしもそうではないと考えています。

キーポイントはユニットバスですね。この工法は、台湾はおろか中国や東南アジア全域でも全く普及していません。台湾には過去ユニットバスを作る会社があり、僕はそれを見学に行ったこともあります。しかしこの社会ではユニットバスは全く受け入れられなかったようで、現在も台湾の住宅でユニットバスを使っている例は寡聞にして聞いたことがありません。
ヨーロッパやアメリカではどうなのでしょう。スケルトン・インフィルの考え方はアメリカが発祥の地ですので、アメリカにはあるのかもしれませんが、Wikipediaで調べるとこの言葉は日本語以外には中国語でしか紹介されていません。しかし、中国でも台湾でも普及していないことを考えると、日本以外では全く一般的な工法ではないのであろうと考えています。

ホテルの浴室の計画

日本でユニットバスが普及したのは、1964年の東京オリンピックの際だったと聞いています。この時に大量の客室を準備することになり、ユニットバスの工法が開発され普及したそうです。それ以降日本のホテル、マンション工事ではユニットバスを使うことが普及し始めました。

しかし、このホテルの浴室の工事を、視点を拡げて世界各地のホテル、日本でもラグジュアリーホテルなどを見ると、ユニットバスを使っている例はほとんどありません。このいずれの場合も、独自の浴室・トイレ計画を持っていて、それも一体型の例が少なくない。そう考えると、日本の様にユニットバスが普及していて、それがスタンダードになっているというのは、かえって世界的にみると異例で特別なことなのだろうと考えています。

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