【台湾建築雑観】湿度の影響
台湾で建築設計の仕事をしていると、日本とは異なった気候条件から、計画の内容を様々に修正しないといけません。そのうち湿度に関わる違いをまとめてみます。
台湾と日本の湿度の比較
前提条件を確認するために、日本と台湾でいくつかの代表的な都市の年間平均湿度を、Excelでグラフにしてみました。
比較して明らかに異なるのは、冬の湿度です。特に東京などは、冬の間極端に湿度が下がります。夏の間はどこも高い湿度になりますね。
それから調べて驚いたのは宜蘭の様子です。ほとんど一年中高い湿度80%前後を維持しています。雨の多い土地であることを如実に示していますね。
この様な気象条件では、建築材料の耐用度が日本とは大分異なります。
木が腐る
台湾にはたくさんの日本時代の木造の建物が保存され、修復されて利用されています。日本人としてこのこと(台湾では老房子運動と言われています。)を喜ばしいと思う反面、台湾のこの地で木造建物を長く保存していくのはかなり難しいことであろうと心配しています。
台湾総統府の前に台北賓館という建物があります。日本統治時代に天皇の来航する際の宿泊施設として計画され、今は迎賓館として外国の施設を接待する建物です。この建物の説明に、次の様なことが書いてありました。
元々この台北賓館は木造で作られたのだそうです。しかし、それが10年も経たずにシロアリに食われ、木造の劣化が許容範囲を超えてしまった。そのために木造な建物は諦め、鉄筋コンクリートのものに造り替えたと言うのです。
このことは台湾のあちこちに見かける、未修復の日本時代の木造家屋を見ると明らかです。観光で見るものは全て綺麗に修復が行われているものですが、そうでない朽ち果てている建物もよく見かけます。それは建物の架構が歪み、屋根面が撓って窪んでいる姿です。
この腐りゆく木の姿は、外部に設けられた手摺やウッドデッキなどを見ると痛々しいほどです。特に湿気の強い山の中で見る、含浸処理を施していないものは悲惨です。腐るというか、溶けるという形容が相応しいほどに痛んでいます。
屋外に木を使う場合には、キチンと含浸処理をするか、腐りにくい南洋材を使って保護処理をするかしないと使えません。しかしそれは手間とコストがかかる。台湾で木材を使うのはそれだけ高価な仕事になるわけです。
木が膨らむ
日本の住宅では床にフローリングを使うのが一般的です。しかし台湾では滅多にみません。デフォルトとして使われるのは圧倒的にタイル、次に石材です。表面が木調に見える場合があっても、塩ビシートであったり、木調のタイルであったりしています。
話を聞くと、これにも湿度が関係しています。台湾のこの気候では、木のパネルのような材料は、経年でゆっくりと膨らんでくるのだそうです。そのため、フローリングの合わせ目が突きつけになっているため、表面に反りが出てくる。そしてそれがだんだん悪化して、フローリングはガタガタになり使い物にならなくなるわけです。このような理由でフローリングの床は、採用するのは非常に慎重に行われます。
石膏ボードがふやける
日本では、軽量鉄骨間仕切りは性能の異なる複数の石膏ボードを組み合わせて作ることが普通です。しかし、台湾ではこと住宅の設計では軽量鉄骨間仕切りに石膏ボードは用いられません。(商業施設では用いられるケースもあります)
これには、複数の要因が絡んでいます。
一つは、台湾では伝統的な壁面構造がレンガ壁にモルタル塗りなため、表面が非常に硬い。そのため表面の柔らかい石膏ボードが好まれないということ。
また、日本と異なりレンガ壁に近いものにするために、ボード内部に軽量モルタルを充填するという工事を行うこと。そうするとボード材料はモルタルの水分を吸ってしまうために宜しくない。
そして、そもそもこの材料を表面に使っていると、表面の紙を通して水分が中の石膏に染み込み、材料自体がフニャフニャになってしまうことです。
そのために、台湾の軽量鉄骨間仕切りは表面をセメント板やケイ酸カルシウム板とすることが多いです。
カビが生える
台湾の建物は比較的色の濃いグレーや茶色がかったものが多いです。これは、メインテナンスをあまりしないために、表面が汚れてもあまり目立たなくする工夫です。白い壁にしてしまうと、汚れが目立ちやすい。
この汚れには、空気の汚れもありますが、カビも大きな要因です。特に年中日陰になっているような面では、外壁表面に湿気が溜まったままになりやすく、黒くカビているものをよく見ます。特に古い建物で、表面がモルタル塗りのままのものはが、黒いカビで覆われている状況をよく見ます。
トイレで扇風機が回っている
これは、台湾の公共トイレでよく見る風景です。常に水分が充満しているトイレでは、ちょっと油断するとすぐに床にカビが生えてしまうのでしょう。床の水分を早く蒸発させるために、多くのトイレで扇風機が回っています。特に半外部空間となっている、駅のトイレなどはほとんど100%そうです。
結露は?
結露は日本と比べると気温が高いため、比較的起こりにくい現象です。しかし、場所によってはやはり起こるそうです。注意しなくてはいけないのは、次のような場所です。
山に近い環境にある場合。山の近くでは特に湿度が高い状態が継続しやすい。四六時中高い湿度にさらされるそうです。そうした環境では結露は起こりやすいそうです。
外壁に面した倉庫/収納など。台湾では建築設計に押入れを作ることはあまりなく、インテリアデザインの方で作ることになります。この場合、外壁に面した面では、室内側に結露が起こる可能性があり、注意が必要です。
クロス貼りよりも塗装
台湾では住宅の室内の仕上げは基本白い塗装です。日本では普通クロスを貼って、ある程度質感のある仕上げが好まれますが、台湾ではそうではありません。
これも、表面が紙や布を素地とする材料は、水分を含んでカビたり、膨らんだりしがちだからでしょう。モルタル下地の塗装仕上げだとそういう心配をする必要がありません。
山は緑に溢れている
上には湿度によって建築材料の選択が異なる例を挙げました。それとは別に、台北周辺のハイキングをしていて強く感じることがあります。それは台湾の山は緑が非常に濃いということです。まだ行ったことはありませんが、標高3,000mもの山に入っても、この緑は健在なのだそうです。これも、台湾の亜熱帯の気候、気温と湿度のなせる技の一つです。
台北からちょっと山の中に入るだけで、そこはジャングルのような緑に覆われ、樹木のトンネルを歩くような場面が沢山あります。
気候条件が明らかに異なる
台湾人の家内は、当初東京に来た折、しきりに乾燥した冬に慣れないと言っていました。皮膚が乾燥しやすいとか、喉がガラガラするとかです。台湾の建築師が日本の環境で設計すると、同じように台湾と異なることをいろいろ感じるのでしょうね。
郷に入れば郷に従え。建築はその置かれる環境によって異なる対応をしなくてはなりません。この湿度の問題は、その違いの最たるものでしょう。
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