【台湾のジャズライブ】羅妍婷&林華勁&非/密閉空間
これはヴォーカル&ギター×2&サックスで構成された、特別なライブです。初めてのコラボレーションで、一体どんな音楽になるのか興味津々で出かけたところ、想像の斜め上をいくパフォーマンスを見せてくれました。
非/密閉空間
このプロジェクトのコアは非/密閉空間の2人、謝明諺と鄭各均です。2人でのパフォーマンスを聴きに行ったこともあります。鄭各均がギターの他にコンピューターを操って、アンビエント音楽のような音を出したり、ビジュアルエフェクトを駆使したバックグラウンドの環境を作ります。そんな中で、謝明諺のサックスが自由自在に暴れ回るといった構成で演奏が繰り広げられます。テーマはありますが、全体としては即興性の高い、その場のイメージから発せられるフリージャズといった趣の演奏です。
羅妍婷と林華勁
このプロジェクトに羅妍婷と林華勁が加わるというのは前代未聞です。
林華勁は爵症Tri-polar Syndromeというアルバムで独自のリズム感とハーモニーで、非常にスタイリッシュな音楽を演奏しています。
羅妍婷も葉片之上Epiphyllumというオリジリティーに溢れる作品で金音獎を2年連続で受賞し、台湾のジャズ界に新風を吹き込んでいる新鋭です。
女巫店
このような4人がコラボレーションしたら一体何が起こるのか、全く想像がつかない。そんなライブは見逃すわけにはいかないと、女巫店に向かいました。
この女巫店はミュージシャンのオリジナリティに重きを置くライブハウスで、出演するにはそれが条件になっているそうです。とは言え、こんな何が起こるかわからないプログラムというのはこのお店でも珍しいのではないでしょうか。何しろ、本人たち自身が何が起こるか自分達で分からないと言っていたのです。
羅妍婷&林華勁&非/密閉空間
初めは羅妍婷が1人ステージに立ち、ループマシンのベースパターンを鳴らし始めました。そのリズムに合わせ、彼女が音を重ねていきます。低音のパート、スキャット、それにアドリブのフレーズと音が重なっていきます。
このループマシンを使った演奏というのは、ギタリストが伴奏を録音して、その上にアドリブを加えるという形で見たことはありますが、このような多重録音のようなことまでできるとは初めて知りました。
また、これを一人で即興で行う羅妍婷には、まったく驚きました。8小節のパターンを繰り返すということなんでしょうけど、それを破綻なく即興で作り上げるのは並大抵のことではありません。
この一人重唱をもう一曲行った後、ギタリスト林華勁が同じようにループマシンを使った一人重奏を行いました。ギタリストの場合、リズムを機械に任せるのではなく、全て自分で作り上げていました。ギターの場合エフェクターを多用に使うことができます。複数のエフェクターの演奏を組み合わせて、彼も一人きりで独自の世界を組み立てていきました。
この後、非/密閉空間の二人を組み合わせて羅妍婷が、突拍子もないゲームを始めました。コンピューターグラフィックで多角形と色を提示して、それに沿って即興演奏を行うというのです。ここで多角形は拍子を、色は情感を示すとのこと。色と情感の関係は下記の通りです。形状には円形もあり、これはフリーの拍子になるそうです。
赤:Aggressive/青緑:Cheerful/黄:冷静/紫:悲しみ
このルールで即興演奏を12分にわたって繰り広げました。日本で全くルールのないフリージャズというのは聞きたことがありますが、このような縛りを作ってアドリブで演奏するというのはなかなか面白いアイデアです。しかしそれを演奏できるミュージシャンも限られているのではないでしょうか。
4つめのプロジェクトは説明なしで始まりました。謝明諺が横笛で音を鳴らし始めると、それに合わせてそれぞれの奏者が音を加えていきます。環境音楽のような音の組み合わせが、エフェクター、ループマシンと、録画と現場の様々な映像を組み合わせる形で繰り広げられます。これには羅妍婷のパートナーが撮影者として加わり、スクリーンには奏者を様々な方向から見た映像が映ります。
最後は時間が余ったそうで、羅妍婷が突然客席に本はないかと問いかけました。その本にインスピレーションを得て即興をしようというのです。客席から声が上がりマメ本『針言別冊』が提供されました。羅妍婷はひどくこの本を気に入ったようで朗読を始め、それが音楽に展開していきました。
たまたま友人の財哥がこのライブの一部始終を録画していましたので、ここでこの非常に興味深いライブを紹介できます。
台湾のジャズミュージシャンは、若くてアメリカとヨーロッパで様々な音楽のアイデアを持って帰ってきています。例えば今回のメンバーでは謝明諺はベルギーで、羅妍婷はオランダでジャズを学んでいます。林華勁はニューヨークのジャズに深く傾倒しています。
そのような若いミュージシャンがこのような面白いジャズを演奏する。ライブハウスもそのようなオリジナリティーを尊重して、彼らに演奏の機会を与える。そんな台湾の自由な雰囲気が僕は大好きです。
台湾ジャズ指南
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