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劇団ノーミーツ旗揚げ1年。葛藤と2年目の覚悟。

劇団ノーミーツを旗揚げして、1年が経った。1年前、コロナ禍で仕事がなくなったなか、なんとか自宅から出来ることを必死に探し、Zoomを使えば自宅でも演劇が出来そう!とアイディアを林健太郎に話したのが4/5。その日のうちに小御門優一郎と初めてZoomで出会い、まず1本作ろうと今では劇団ノーミーツの所属俳優でもあるオツハタ、上谷とも一緒にZoom演劇作品を初めてつくり、公開した4/9が僕たちの旗揚げ日となった。

※このnoteは劇団ノーミーツ1周年記念企画「劇団員24人全員がnote書く」のひとつです。劇団ノーミーツ 主宰・ 企画プロデュース 広屋佑規 が書いています。その他の劇団員のnoteはこちら

公開する1時間前に、小御門が「劇団ノーミツより劇団ノーミーツの方が良かったりしませんか?」と提案してくれたファインプレイのおかげで今があるかもしれないと思い返すとよく思う。

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あの日から1年。3人で始めたオンライン劇団も、今では24人にまで増えた。長編のオンライン演劇公演は1年を通じて3回も上演したし、サンリオピューロランドさんやHKT48さんなど、企業とのコラボレーションも多く実現できた。それまでの道のりは前回のnoteに詳しく書いたのでこちらをぜひ読んでほしい。

ただ、今回は劇団ノーミーツ1周年企画。テーマは「わたしと、一年目の劇団ノーミーツ」。普段は“劇団の主宰”という立場で話を聞かれることが多く、どうしてもノーミーツを主語に話すことが増えてしまうけど、せっかくの機会なので今回くらいは等身大に、赤裸々に、この1年感じていたことをさらけ出してみようと思う。僕にとって、この1年間で最も大きな変化、そして悩みとなったのは、間違いなく株式会社Meetsの代表となったことだ。代表になってからこのnoteを書いている今日この日まで、この1年は結果的に常に自分の情けなさと向き合う日々となった…。こんなことを書こうとしていること自体が不甲斐ない気もするが、こういった機会でもないと振り返ることもできないので、このまま書き続けようと思う。

好きと出会う

劇団ノーミーツがなぜMeetsをつくったか

まず、なぜ会社を立ち上げたのか。理由は大きく分けると2つ。

1.興行公演や案件受注などで利益ができたため、管理する必要があった
2.劇団ノーミーツとしての活動を、緊急事態宣言以降も続けたかった

劇団ノーミーツの旗揚げ公演「門外不出モラトリアム」。

一度目の緊急事態宣言の渦中で発表していた短編Zoom演劇作品が有り難いことに話題になっていたなか、次の挑戦として位置づけたオンライン演劇での長編公演。結果は様々なところで発表しているが、5000名の方々に有料チケットながら観劇頂いた。前述したnoteでも書いた通り、その5000名の興行成功にリアル以上にオンラインでの演劇の可能性を感じた僕らは、思いの外残すことができたお金をしっかりと管理するため、そして何より、緊急事態宣言が終わっても集まった13名の仲間達と劇団ノーミーツを続けたくて、会社を作る決心をした。

主宰3名の中で誰が会社の代表になるか。様々な議論をした上で、最終的には林と小御門は会社員であったこと、そして僕自身がコロナ禍になる前に活動していた「Out Of Theater」という没入型ライブエンタメカンパニーを法人化する準備をしており、そこで代表になる予定だったことを尊重してもらい、株式会社Meetsの代表となった。旗揚げから3ヶ月後のことである。

プレイヤーとしてみんなと切磋琢磨したかった

代表となっても当時は経営をしようだなんて意識は正直持ててなかったと思う。それよりも、同世代でこれだけ物事の価値観があい、お互いに正面から意見をぶつけ合いながら切磋琢磨して作品を作れるという環境が本当に嬉しかった。今まではOut Of Theaterをともにプロデュースしていた菅波と日夜議論して、新たなエンタメを創ろうと邁進していたけど、僕と菅波は好きなエンタメも一緒だし、目指したい世界も一緒。ノーミーツの場合、業界も業種も異なるメンバーが集まっているからこそ、自分が出した1つのアイディアがすぐに100まで膨れ上がるし、異なるタイプの人間が1つの作品を作り上げるグルーブ感もたまらなかった。そして、みんながお互いのことを尊重して、無邪気に出した案に対して一切否定せず、よりよいものにしようとギリギリまで粘って作品づくりに没頭していることがとても心地よかった。

一方、戸惑いもあった。何しろノーミーツに集まってくれたメンバーは同世代ながら各業界の第一線で活躍し始めている人たちばかりで、全員才能に溢れている。今までは良くも悪くもすべて自分ができる範囲でものづくりをしてきたなかで、自分よりも優秀な人達が集まっている場で出来ることは何か、自問自答する時間が増えた。ただその悩みもあくまでプレイヤーとしてのもの。「どんな企画をしたらみんな面白がってくれるか」「もっと自分がプロデュースしたい」そんなことばかり考えてしまい、会社の代表としての視点や考えは完全に抜け落ちてしまっていたと思う。

そうしていると、問題が起こってしまった。第二回公演「むこうのくに」は興行結果だけでみると7000名の方に観劇頂いた作品となったのだが、全メンバーが身体的にも精神的にもギリギリのなかで上演された。公演の制作体制として、人も時間も足りてなく、あと一歩どこかでミスやエラーが起きてしまったら幕開けに間に合わなかったかもしれないような状態だった。致命的なのは、僕自身がメンバーが発してくれたアラートが出るまで、そういった状況になっていたことに気づかず、対策を取れなかったことだ。一番全体を見なければいけない立場なのに、目の前の事象に没入してしまい、広く捉えることができていなかった。ノーミーツが安心して創作活動ができる場所ではなくなってしまったという事実がメンバーのみんなに対して申し訳なかった…。客観的にみれば遅すぎると言われてしまうかもしれないが、この時初めて「劇団ノーミーツを続けるために、もっと組織のあり方や活動方針を考えなければ」と個人ではなく全体をみる意識を強く持つようになったと思う。

必要に駆られて集まったからこそ、ビジョンを統一する難しさ

改めて組織について考え始めたとき、「むこうのくに」以降のノーミーツの活動を支えるためには新たなビジョンが必要だと感じた。まずビジョンが先にあり、それを実現するための組織体制であり、創作するアウトプットの方向や質も数も変化してくる。そう思って取り掛かったのだが、このビジョン策定が当初は本当に難しかった。というのも、劇団ノーミーツはコロナ禍で制約のあるなか表現できる方法を探して旗揚げされた劇団であり、その活動に共感してくれた人が集まってできたチームだ。なので、“厳しい状況の中でも新たな挑戦を面白がることができる”といった価値観の部分は共通することが多いのだが、「どういったものを作っていきたいか」「どういう世界を実現したいか」という未来へのビジョンはバラけてしまう。僕がビジョンを考えるにあたって、もっとみんなが何を考えているか知りたいと1on1を実施したが、価値観や考え方はあうけどやりたいことは見事にバラバラで、今思うとそのこと自体が個性でノーミーツの良い部分なのだが、当時はまとめることができるのかと不安になっていた。

また、僕自身がノーミーツの活動前に思い描いていたビジョンも当然採用することはできず、その難しさもあった。前述した「Out Of Theater」では“誰しもが表現に寛容な社会を創る”ことがビジョンで、NYやロンドンのように、街なかや日常にエンタメが溶け込んでいる空間が好きで、その景色を日本でも実現していきたかった。

NYバナナフォン

NYでのエンタメ武者修行時に実施した一人バナナフォン。
見た人がくすっと笑ってくれるのが好きで、原点。
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ただそれが一旦は叶わなくなってしまった世界のなかで、今回のチームは僕の思い描く世界観に共感してくれて集まったのではなく、あくまでノーミーツの活動に共感してくれたメンバー達。だからこそ、ぼくのビジョンもノーミーツとどうすり合わせるかを考えなければいけなかった。1on1も追え、どういう方向にまとめていくか悩むなかで、この状況でも、みんなが更に自由に、のびのびと自分の好きを追求できるような、そんな場にしたいという気持ちが次第に強くなっていった。

そこから様々な議論を経て、株式会社Meetsのメッセージが決まった。

株式会社Meets ステイトメント

好きと出会う。僕たちが「好き」という感情に今までたくさん助けられてきたように、好きと出会うその瞬間を、世界にひとつでも多くつくることができたら、そんなに幸せなことはないと思う。各々実現したいことも違うからこそ、表現する形態はオンラインでの演劇だけに留まらず、様々なジャンルを越境していきながら自由に創作していく。劇団ノーミーツを中心に活動していくし、もしかしたら別のプロジェクトが立ちあがっても良いかもしれない。そんな余白があるチームをエンタメ業界ながらインディペンデントに作り上げていくことができたら、同世代でものづくりしたい人間がどんどん集まってくるのではないか。そんな期待に胸を弾ませながらリリースした。

エンタメ業界のギルド型組織。仕組み化難しい…

会社を立ち上げ、Meetsの方針が決まり、いよいよノーミーツの第二章がスタートするぞという気持ちだったのだが、やはり順風満帆にはいかない。表ではオンライン劇場ZAの設立から始まり、劇団ノーミーツの第三回公演全国学生オンライン演劇祭サンリオピューロランドさんHKT48さんとのコラボ公演、smash.さんでのバラエティ番組制作、その他企業からのプロモーション案件も多数頂くことができ、様々なアウトプットを実現してきた。しかし、正直にお伝えすると、裏側では頭を悩ます事案が多発していた。

一番むずかしい点は、僕たちが挑戦している「エンタメ業界のギルド型組織」の実現だ。現在、劇団ノーミーツの劇団員は合計24名いるが、そのうちMeetsの社員は4名で、残りは半数が普段は会社員として働きながら兼業しており、残りの半数はフリーランスとして個人で活躍するメンバー。ただでさえエンタメ業界は多忙なこともあり、IT業界や広告業界のように独立や副業、兼業などの多様な働き方はまだまだ実現しずらい業界だ。その中、3業種が重なり合うような所謂「ギルド型組織」をインディペンデントにエンタメ業界で実現することはとても意味があると思うし、ノーミーツとして挑戦したいことの重要な軸としてある。

ただやはり、現実問題として解決しなければいけない点はたくさん出てくる。例えば労働時間の問題。どうしても兼業やフリーランスのメンバーだと本業や別案件の仕事の時間が出てくるから、時間の分配は会社員メンバーに集中してしまうことがい多い。また、24名いたとしても全員分のフルリソースを使えるわけではないから、プロジェクトを増やせば増やすほど、人手はどんどん足りなくなってきてしまい、本番が迫れば迫るほど、少ないプロジェクトメンバーへの負担が増幅してしまう。違った切り口だと、ノーミーツは無邪気に新しいものごとや挑戦を面白がれるチームだからこそ、企画を広げる人はたくさんいるのだが、広げられた企画を畳んで進行する人が少ない。そういったバランスも調整していかなければいけない。さらにこれは最も大切な問題だが、それぞれのメンバーにどういった報酬設計にするかも慎重に考えていかないと、すぐに不安や不満に繋がってしまう。

ここに少し書き出してみただけでこれだけの問題がでてきてしまうし、組織づくり、経営の経験がないなかで、これらを先回りして対処できるほどの能力は僕自身にまだなく、残念ながらすべて問題が起こってから対応を考えるような後手の動きが多くなってしまった。もっと先回りして対応できるような仕組みづくりをしたり、守りのコーポレート業務だけでなく、攻めのコーポレート業務まで出来るような状態になっていたいし、ノーミーツのメンバーがこのギルド型組織の中でのびのびと働きやすい環境をつくることが、良い作品を継続して作り続けることのできる一番の要因にもなりうる自覚を持ち続け、動いていかないといけない。

できないことを認め、できることを増やすしかない

この1年で感じていたことを赤裸々に書いてきたが、書けば書くほど情けなく感じてくる…。ただそれでも公開しようと思ったのは、自分ができないことを認めていきたかったからだ。まず認めるところから始めていかないと次に進んでいけない。そして何よりノーミーツは、自分より企画も、プロデュースも、脚本も、演出も、芝居も、デザインも、クリエイティブも、宣伝も、広報も、配信も、テクニカルも、プログラミングも、撮影も、コーポレートも、ディレクションも、ものづくりにおいて必要な要素すべての領域においてプロフェッショナルにできる仲間が集っている。みんなが集まってくれたからこそ僕はコロナ禍を経てもまだエンタメづくりができているし、これだけワクワク出来る日々を過ごせている。24名の劇団員には感謝してもしきれないです。この場を借りて、本当にありがとうございます。

ノーミーツはフラットな組織なので、立場など関係なくお互いの領域をどんどん越境していくチームにしていきたいし、僕自身も更に密に創作を共にしていきたいが、2年目を迎えるにあたって、任せる部分はどんどん任せて、現状のぼくの立場でしかできないこと、やれることに注力する努力をしていきたい。ノーミーツで起こる問題はすべて自分の責任であるという自覚をもって、一つずつできることを増やしていきたい。

新たなエンタメを創り続けるカンパニーへ

「Out Of Theater」で実現しようとしていた“表現に寛容な社会”と劇団ノーミーツでの活動は、実は通ずるところがたくさんある。共通するのは「今までなかったエンタメを形にしてお客様に届けることができる」こと。旧態依然としたエンタメ業界のなかで、これだけの仲間が一劇団に集まって、新たなエンタメの形を模索して、時代の本質に向き合いながら創作をできるのは奇跡だとも思う。ジャンルを越境した、時代に適したエンタメを創り続けることができれば、それと出会ってくれたお客さんにとって新たなエンタメの楽しみ方が広がり、結果として寛容さに繋がるのではないか。そんなことも考えている。

劇団ノーミーツは、今年も更に仕掛けていく。リモートである必然はもうなく、オンラインを主軸に演劇表現を開拓していくし、更にその先までを見越して動いている。ドラマや映画はもちろん、ゲームやプロダクト開発だってありえるし、もしかするとノーミーツで場づくりしたって良いかもしれない。時代に適したエンタメを「物語」と「技術」を武器にしながら軽やかにジャンルを超えて創作していく。そしてエンタメ企業の新たな組織のあり方、働き方も整えていく。そんなチームにすることで、同世代のクリエイターやエンタメ好きがどんどんと無邪気に集まってくるような、大きなコミュニティも目指してみたい。

これだけ閉塞感のある時代でも、諦めずに前を向いて歩くことができれば、道は開ける。2周年目も迎えられるよう今日からまた頑張ります。なにかご一緒したいという方、ぜひご連絡ください。一緒に駆け抜けていきましょう!

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広屋佑規 / yuki hiroya
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