耐用年数の本質と問題点について建築的視点で解説してみた。
6月後半に入り一気に気温も上昇してきました。不動産価格は相変わらず高値水準で推移していますが、そんなことはお構い無しに取引は順調に進んでいます。
一度売りに出した物件がどんどん買い上がるので一旦売止めにして価格を設定し直すといった物件もあるようです。まあこれはそもそもの査定金額がミスっていたのだと思いますが…
さて今回は耐用年数について建築的視点で解説していきます。
一般的に建物は木造、鉄骨造(S造)、鉄筋コンクリート造(RC造)の3種類に分けることができます。これは構造上重要となる部位(主に柱や梁)がどのような素材でできているかで決まります。
それぞれ居住性や構造的な特徴、コストなど様々な違いがあるのですが、収益物件で言うと何と言っても耐用年数が重要なポイントとなります。
耐用年数とは、購入した固定資産を減価償却する際に用いる数値です。木造の場合は22年、S造は34年、RC造は47年と決まっています。つまり税務上で定められたもので、建物が実際に使用できる年数では無いということはご理解ください。
ではなぜこの耐用年数が重要かと言うと、この耐用年数が基本的には融資期間と連動してくるからです。(もちろん例外もあります)
例えば新築の木造アパートであればローン期間が22年、中古の場合は「耐用年数ー経過年数」となります。築5年であれば17年という計算になります。
つまり築年数がより新しく、木造→S造→RC造の順に融資期間が伸びるということになります。特に都市銀行や信用金庫などはこの傾向が強いです。
この考え方の問題点は、耐用年数を超えてしまった物件に対する融資の期間が全く伸びないという点です。
もちろん建物は放っておけば朽ちていくものですが、しっかりとメンテナンスをしていれば耐用年数を超えても十分に機能します。日本の伝統的な寺社仏閣建築を見ればこの考えに異論は無いかと思います。
耐用年数はあくまでも国税庁が定めた税務上の減価償却期間であって、実際の建物の耐久性とは何ら関係ありません。
建築に関わってきた人間としては建物それぞれの個別性を加味して判断すべきではと思っています。しかし便宜上、金融機関は、融資期間=耐用年数の期間として融資の判断をしているのです。
もちろん、中古物件にニーズがなければそれはそれでいいのですが、実は築古物件には多くの魅力があるんですね。例えば利回りの高さや減価償却による節税効果などです。つまりこのような物件を買いたいというニーズはかなり多いのです。
そこに目をつけたのが、一部の地方銀行やノンバンクです。耐用年数を超えていても一定の条件をクリアしていればある程度の期間の融資を出してくれます。
例えば某地方銀行ではS造、RC造で60年ー経過年数、木造で50年ー経過年数の期間で融資を出す方針をとっています。
またインスペクション(建物調査)を実施して問題がなければ融資期間をプラス10年とするノンバンクもあります。
このような金融機関があるおかげで、弊社でも耐用年数を超えた物件も取引きをさせてもらっています。
ただ、まだまだ収益物件の領域ではこういった金融機関が少なく、中古住宅市場の活性化は国の施策でもありますので、もっと増えて欲しいものです。
繰り返しとなりますが、建物の耐用年数はあくまでも税務上定められたものです。RC造であれば47年となりますが、これは1998年の税制改正で定められたものです。
当時のRC共同住宅の平均寿命が40〜50年ぐらいだったことからこの47年という数値が定められました。
ちょうど昭和初期〜中期頃に建てられたものが中心となるのですが、その頃の配管(給排水)は亜鉛メッキ鋼管でした。いわゆる鉄なので錆びやすかったのです。
錆びれば交換すれば良いのですが当時の配管はコンクリートにそのまま埋設する形でしたので交換しようにもできなかったのです。そこでどうすることもできず解体&新築という流れになるケースが多かったのですね。
つまりコンクリートの寿命とは全く別の要因でこの47年は決まっていたということになります。
ちなみに現在はスケルトン・インフィルといって構造と設備は完全に分離されていて、給排水の埋設配管はしません。よって通常のメンテナンスをしていれば100年は機能します。
世界最古のコンクリート建物である「サン=ジャン ド モンマルトル教会」は1904年竣工で健在ですし、日本最古のコンクリート建物である「三井物産横浜ビル」は1911年竣工で現在も事務所として機能しています。
収益不動産業界ではバブル期に建てられた賃貸マンションの流通は非常に多いです。時期でいうと1986年〜1991年頃です。
この頃に建てられたマンションがあと数年で40年を迎えようとしています。つまり残耐用年数がかなり少なくなってきているのです。
私が危惧するのはこういったマンションが今後5〜10年以内に全く融資がつかなくなって流通がストップしてしまうのではないかということです。
建物として機能が全く問題が無くても融資がつかないため売れない、買えない、このままだとおそらくそうなります。特に土地の価値が低い地方においてはその傾向が強くなります。
そうならないためにも、現代建築の耐久性が加味されていない耐用年数をベースとした、融資期間の評価方法を見直すべきだと考えます。
本日は以上となります。