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【ポエトリーノベル】パンタゴンとドラゴン

小説「パンタゴンとドラゴン」

南暦 3666年 俺たちはみんな8歳で、35人同じ施設(刑務所)にいた。それは、五角形をしていて、それが刑務所であるかどうか定かではないが、北の3階の閲覧室の資料によれば、中央監視システムの原形は 地球の20世紀に「prison刑務所」と呼ばれていたと説明があった。

「パンタゴン」

俺たちの俗語ではそこはそう呼ばれていた。俺たちは皆8歳で、この場所に送り込まれ、永遠の8歳を生きることを定められていた。あらゆる人種がそこにいた。『あらゆる人種』という資料が閲覧室にあり、そこで分類されたタイプは全部いた。

黒、白、赤、黄、青
灰、桃、橙、緑、蒼
茶、藍、紺、紫、水

俺たちは何か知りたいことがあると、その閲覧室で、目をつぶって、知りたいことについて考えることを推奨された。すると本人が知りたい知識が、勝手にインストールされるのだ。


2000年代のパンタゴン

かと言って、それが刑務所であろうと、人種という概念が存在しようとしまいと何が変わるというわけでもなかったから、俺たちは次第に調べることをしなくなった。

俺はgâteauと呼ばれていた。どうやら
アジア系(黄)フランス人(白)の設定だったらしい。パリのリュクサンブール公園で拉致された。

世界はパンタゴンを中心に、それを囲む無限の五角形の壁によって囲まれている。俺たちは、最初の教育で、そのイメージを叩き込まれた。教育といっても、教師がいるわけではなく、何か液体のようなものが挿入される感覚である。

そう、浣腸のような。記憶の定着まで1ヶ月かかる。前世(俺たちはそう呼んでいた)の強固なイメージが残っている場合いつのまにか処分された。どこかにいなくなってしまうのだ。

僕らの教わっているのは、パンタゴンの相似の壁が、外に無限に続いていていくイメージこそが世界であり、その先には何もないというものだった。パンタゴンとそれをとりまくパンタゴンの間に何があるのかは教えてもらえなかった。それを信じないと、世界は消滅すると言われ、頭の中で響く声によって、脅されたりした。


増幅する五角形 そして

世界は、消滅しなかったが、5人が消えた。おそらくパンタゴンの隙間ににあるのは、【スピリッツエーテル】のようなものだろうと言われていた。エーテルドラゴンを見たと、ある虚言癖の青い目が言ったが、誰も相手にしなかったし、その子も次の日にはいなくなった。

スピリッツやエーテルといってもすべて、俺たちの造語であり、別に何か特定のものを指しているわけではなかった。気とか量子とかナイス!とか元気?と同じものだ。なにも意味しないことを、話し続けていいのはヤーべだけであると、教え込まれていたから、本当は禁忌を犯していたのだが。

ヤーべがどこにいるかなど誰も知らない。閲覧室で知識をインストールする時、血の底を這うように 響く声が時々聞こえたが、あれがヤーベにちがいないと、誰かが話していた。

俺たちは永遠の8歳なので、成長することはできない。そもそも成長の概念もない。知識もある一定レベルからは増えない。全部忘れてしまうか、前の知識が抜けてしまうかだ。深く考えることは一切禁じられていて、同じことを長く考えている子供は、病気になり、隔離させられてしまう。

筋力も運動神経も8歳以上に発達することができないので、その壁をよじ登って次の場所に行こう、というような考えに至ることはなかった。僕らはなにも変わらないまま、永遠の8歳でい続けるしかなかったのだ。

その代わり、俺たちは、ある遊びに熱中していた。それは「ゲーム・オブ・ヘキソグラム」と言われていて、なんらかの手段で地面に五角形、六角形を描くゲームだ。


ペンタゴンと双頭のドラゴン

パンタゴンの西には、低い山のようなものがあり、(それもおそらく何か靄のようなものに山が映されていた)そこからモニターの月が昇るのだが、その月が東のけやきの木にあたって長い影を作る。
東には監視塔がある。

監視塔の影と月の影が重なる瞬間からその日のゲームは始まる。6本のけやきの影の頂点は常に変化する 。初めは正六角形であっても、月が移動すれば、三角形にも、菱形にもなる。その頂点に合わせて、ヘキサゴンの形も変わり、そこを全身白い服を着た子供達が、7人ずつ移動し、そこに六角形を描き続けた。

彼らの持っている絵を描くための道具は、それぞれ異なっていて 絵筆のものもいれば ナイフのものもいる。スプレーのものもいれば、ローラーのものもいる。とにかく彼らは忙しそうに描いている。あるいは溝を掘っている。

月は西山から登り東山に落ちる。
その間影のその頂点は変化しつづける。それを追い続けるゲームに夢中だった。月が東の山に沈んだ後 屋上から眺めるのは実に愉快だった。

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ある日を境に、月の数が増えていた。
どうやら月は 増えたり 減ったりしているようだった 月の数が増えることについて、北棟の閲覧室で調べたが、なにも答えは見つからなかった。司書ロボットのロバーツはもしかしたら地下にあらかもと 地下の資料室の存在を示唆した。

流石に月が三つになった時から、担当分けがはじまった。チームによる 無意識の競争が始まった。五芒星の数を競うのである いつのまにか それをカウントする専門の係まで生まれた。

月の数は増えつづけ、どんどん人手が足りなくなり 両手、両足、口を使って同時に3種類の五芒星を描くテクニックが発達し、生産性は5倍になった。統計は精緻になり、予測もきめ細かくなった。
子供たちの動きも目まぐるしく速くなり、彼らの手も足もほとんど目視できない状態になってきた。子供達も自分たちが今なにをしているのか全く認識できていなかった。体が動いている、直線を引いている。何かの図形に関わっている。


月が増幅する

無駄口はなくなり 極めて効率的に まるで次の変化を予測するかごとく、忙しなく動いていた。一人一人の区別もつかなくなり、まるで、溶けた金色のバターのような状態になっていった。思い出すと、その均質な労働者の美しさにため息が出る。

それは、まるで俺たちが住んでいる刑務所、そしてそれを取り巻く世界の設計図のようだった。それがバターのように溶けて流れていく。それは月の川ムーンリバーまで流れてつく。俺はそれを【ティファニー】と呼んだ。ティファーナはメキシコの街 アニーは俺の好きな女の子の名前だ。恋愛禁止のこの星ではかなり危険なことだった。

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30人(消された子供5人)の記憶は、以前のものはほぼ失われていた。ただ最後にどこかで「お前の人生は8歳で終わる」「永遠に8歳か死ぬかどちらか選べ」と言われて8歳を選んだ。まあ誰でもそうする。

俺が最後に見たのは、東山の大文字ってやつで、綺麗な川が流れていて、古い寺があり、山に文字の形の火が燃え、輝いていた。鮨詰めの橋の上で俺は黒い影に攫われた。

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