鬱になって文学の良さに目覚める
わたしの鬱を救ってくれた 文学の話をします 最後までお付き合いください わたしは 今28歳のOLです 三流大学の社会学部卒 東京では仕事が見つからなくて 地元の長野に戻り 水商売をしているママのコネで オフィス機器を扱う商社に勤めていました 入社して5年目に 移動した部署の上司は本社で一番評判の悪いミスターハラスメントでした
この3年で部下5人を鬱(適応障害かも)で辞めさせたらしいのです なぜ 彼を会社がクビにできないかって
彼 オーナーの甥っ子なんです オーナーはバリバリの昭和スタイル鬱になるようなやわな社員はいらないと
労働基準監督署でも豪語するソシオパス 以下は私がいかに 鬱(適応障害)になり それを乗り越えたかについて 拙い内容ですが 誰かの役に立てばいいなと
思い 記録を残すことにしました
私は新部署の 初日のイニシエーションで まんまと
やられてしまい 何も考えられない状態で 息苦しく
ただただ不安でした 彼は
「母子家庭にありがちな被害妄想は そろそろやめて仕事に適応するか 身を引くか考える時期だな」
「まあ 君は結婚にも不適応っぽいから 先々不安なのはわかるけどな」
とまで言うのです こっちがまだ一言も言ってないのに
人事から資料を取り寄せたのでしょう 確かに前の部署の 主任のハラスメントを 人事の窓口に 相談したことがありました 会社としては それが うとましく はやく辞めさせろとでも 言われたのかもしれません 彼は細かいことを いろいろ知っていました それを時系列でチクチクやるのですから こっちはたまったものではありません 彼の部署で生き残っている女性社員は 彼のこのいびつで攻撃的な生態系に 適応できるタイプなので その性格の悪さは言わずもがなです 理不尽に攻撃される私を見て なんと
「くっ くっ くっ」と嘲笑うものだから
上司は調子に乗って 手を替え品を替え 静かな罵詈雑言が続きます 人をいじめることは一体どんな快感を もたらすのでしょうか 私には分かりません わからないから いじめられるのでしょう
私は 部署移動して1週間で 全く眠れなくなり、
いつも不安と心配事に支配され 生きていることが辛くなってきました いわゆる適応障害の症状が顕著になったのです 10日目で 仕事中に目の前が真っ暗になり、動悸が激しくなり、油汗がダラダラ出て 息は荒くなり、とても働ける状態ではなくなりました それを観た同じ部署の悪魔たちは へらへら笑っていたのです
月に一度来る カウンセラーに 心療内科を紹介されたので 会社には体調不良と伝え 病院に通うことにしました しばらくして 上司から携帯に電話がありましたが 病院には行くな と言われるのはわかりきっていたので 5回くらいしつこいコールがありましたが 全部スルーしました 彼は 人事で住所を調べて 家に来るなと 直感したので 電気を全部消し、布団の中に潜って 震えていました 案の定呼び鈴がなり ドアをゲンコツで叩く音 そしてドアを蹴る音 10分で上司は 諦めました
次の日からさらに 眠れない日が続きました 友達からリスミーという睡眠薬をもらって 最初の2日は 2時間くらいは眠れたのですが すぐに効かなくなってしまいました 睡眠薬の量が増えて その薬はあっという間に尽きてしまい 薬がないと 寝れない不安で さらに眠れなくなるという悪循環が続きました 飲まず食わず寝れずの 3日が過ぎました トイレに行くのも億劫で 簡易型の 尿器をAmazonで買いました 糞便は 止まってしまいました 1週間たって 仕事関係や友達とのいくつかの約束を 完全に忘れてしまい 友達には絶縁され 取引先には嫌味を言わられ さらに暗く落ち込んで しまいには 会社のことや友達の記憶がすっかり抜けてしまっていることに気づきました ほんものの記憶喪失です こうして私は 正真正銘の鬱になりました こんな状態が1ヶ月間続きました 何もしていないので 日にちの感覚がありません ひねもすただボーとしています
紹介されたクリニックの診察日がやっときました 最近は クリニックがすごく混んでいて 紹介された病院も 初診だと 一ヶ月後でした 担当のお医者様は とても温和で 優しい雰囲気の方で 私は 感じていることを 正直に話しました 話しているうちに 幼い頃にいかに 大人から嫌われたかを思い出して ぞーとしました 特に 私の母は たまに恐ろしくヒステリーになって 私に対し
「おまえは生きる価値がない」
「きっと犯罪者になる」
と、多感な時期の子供が 親から一番言われたくない言葉を使い 私を傷つけるので 私は 小学校の頃 彼女を 本気で殺そうと思っていたことを 思い出してしまって 過呼吸になりました
不眠、不安感、動悸、抑うつ気分、倦怠感、集中力低下、先生は、まず会社を休みなさい 診断書を書くからと 約束してくれました
「上記症状のために労務不能であり 今後の治療の為に本日より令和7年3月31日までの休職及び自宅療養を必要とすることを認める」
わたしは 休職届を 会社に書留で出しました 身体と心が傷みのピークを超えていましたが 診断書のおかげで ずいぶん楽になりました こうして私は自律神経失調症とパニック障害を伴うピカピカの「うつ病エピソード」とあいなりました その後1ヶ月は何もできなかったけど、2ヶ月目になって 本を読むことが できるようになりました 文字を追うのがかったるくて audible を活用しました そのうち YouTubeやTikTokの動画を楽しむこともできるようになりました 読書も動画も 最初のころは 30分くらいで 疲れきってしまったけれど 1週間くらいで 徐々に鑑賞可能時間が伸びていって 3ヶ月経った頃には映画一本を 通しで 見ることができるようになりました 小説は文学部を卒業した 親友に 勧められた 川上未映子と角田光代を8冊 完成年順に 読破しました
『対岸の彼女』
『八日目の蟬』角田
『乳と卵』
『ヘヴン』川上
『紙の月』
『私のなかの彼女』角田
『夏物語』
『黄色い家』川上
『キッドナップ・ツアー』角田
小説は3日に1冊のペースで読んで 動画も毎日3時間ほど見ていました 『ルックバック』というアニメに感動しました 実写版ドラマ『推しの子』も何気によかったです 齋藤飛鳥を再評価しました アイドルについて色々考察しました
それまではファッション コスメにしか興味がなかったの私ですが、急に文学に目覚めてしまい 今では 昭和初期の近代小説を読んでいます
川端康成とか稲垣足穂とか横光利一など 同世代の友達には 変態趣味と言われてます 近代日本文学のレジェンドの書く短編は 本当にヤバい 狂ってます それが私にはたまらなく優しく感じました
「僕らこんなに狂ってる 君なんて なんてことないよ」
と言われているように感じたのです 私は文学の本質的な癒しの力を知りました
それからヤクザ映画にも目覚めてしまって 今は 鶴田浩二と高倉健をほってます 昭和はじめのヤクザは 義理と人情 任侠です 人の道です それを極めるから 極道 なるほどです さて Netflixの連続アニメ『ダンダダン』ご存知ですか 主人公モモが 高倉健が好きで 同姓同名のオタク男子と恋に落ちる 荒唐無稽な 学園物語
発想の過激な飛躍がすご過ぎて つい全話 観てしまいました これ完全に芥川の『河童』を超えてます
あとは近代史とか現代思想とか生きにくい世の中の構造を知りたいと思って読みましたが 私には難し過ぎました
ハイデッガーとデリダは わからないなりに 少し面白かったかな
というわけで いつのまにか 私は鬱を乗り越えていたのです つまり社会復帰したわけなんですが 元の会社には戻りませんでした 転職する勇気に最も効果的だったのは もしかしたら 川上未映子かもしれません フリーダム&インディペンデント
特に「黄色い家」には とても勇気付けられました
主人公の不条理な不幸 どんな時にもポジティブな生き方 裏の道にも同じように人の営みがあって 結局 自分の力を生かすフィールドが見つけられず つまり狡賢くない ダメになっていく 素直で前向きな女の子の不幸が淡々と描かれている 彼女に必要だったのは 成功した大人のアドバイスと 幅広い知識だと思います 能力はあったのだから ロールモデルを見つけられなかったから 日々の努力が 全てマイナス方向に向かっていく なぜ頑張っているのにみんな理解してくれないの 何故良い方向に進まないの? それは主人公が 素直で 誠実で 心が美しいからなのです なんという皮肉でしょう
人の世は複雑です 時には鬼にならないと
なぜだかわからないけど
とにもかくにも 文学は素敵です それがよくよくわかりました 鬱の人におすすめなのは 純文学です
マジで
それは強く主張したいなあ
(つづく)