営業戦略の起点となるICP(Ideal Customer Profile|理想的な顧客プロファイル)とは? ICPを定義する4ステップとBDR組織における活用方法を解説
こんにちは。山梨(@device0462)です。
最近は、「毎月のインバウンドリードにばらつきがあるため商談数が安定しない」、「営業が受け身でありインサイドセールスの商談供給に依存している」といった内容の相談を多くいただきます。
プロダクトをリリースしたタイミングや、マーケティング投資を行うタイミングでは、インバウンドによるリード獲得や売上創出が可能です。しかし、インバウンドのみのアプローチは永続的に持続するわけではありません。リード供給が途切れた際に、これをカバーできる営業体制が必要です。そのため、単に「問い合わせを待つ」という受動的な営業ではなく、リソースを優先度の高い領域に集中し、能動的に新たなリードを発掘する営業の重要性が高まっています。
今回は、インバウンドに依存せず、自ら積極的にリードを創出する仕組みを構築する起点となるICP(Ideal Customer Profile|理想的な顧客プロファイル)について解説します。
インサイドセールスライフサイクル
インサイドセールス組織は、プロダクトライフサイクルに合わせて、立ち上げから導入、成長、成熟、衰退の5つのフェーズを経ます。特に、BDR(Business Development Representative)組織の立ち上げに注力している企業では、成長フェーズにおける「キャズム」を超えるための施策として、「インバウンドに依存した組織体制からの脱却」を目指すケースが多い印象です。
こうした企業は、プロダクトやマーケティングへの投資に加え、イノベーター・アーリーフェーズの顧客層を獲得した後の次なる営業戦略として、BDR組織を構築しアーリーマジョリティーフェーズの顧客層にリーチします。BDR組織による能動的なリソース、より大きな市場セグメントへの拡張を図り、持続的な成長を実現しようとしています。
BDR立ち上げは「誰に、何を、どうやって」の3要素に集約される
BDR立ち上げ時の顧客戦略は、「誰に(WHO)、何を(WHAT)、どうやって(HOW)」の3つの要素に集約されます。特に、立ち上げ時に最も重要なのは、まず「誰に(WHO)」を明確に定義することです。
多くの企業がインバウンドで流入したリードの中で受注率が高い顧客にリソースを集中しがちですが、それでは企業の成長を支える持続可能なリード供給が得られにくく、特に市場が成熟してきた段階で新しい顧客を獲得する難易度が高くなります。
そこで、「理想的な顧客プロファイル」、いわゆる企業および人物ペルソナを定義し、能動的に営業リソースを投下するアプローチが重要です。ゴールから逆算し、自社と親和性の高い顧客属性を明確にすることで、ターゲット企業を特定し、最終的には売上やLTV(顧客生涯価値)を最大化することが可能になります。
戦略の起点となるICP(Ideal Customer Profile)を定義
従来の「The Model」のように、インサイドセールスがリードを獲得し、営業が対応するというオペレーションでは、受動的な対応となりがちです。しかし、BDR組織は、戦略的にリソースを投下する領域を見極め、少数精鋭の営業チームでも市場開拓を加速する強力な手段となります。なかでも、エンタープライズ企業開拓の加速を目指してBDR組織を立ち上げるケースは非常に多いです。
そのため、「売りやすい顧客」ではなく、より戦略的に「誰に」自社の製品やサービスを提案すべきかを考えます。自社の製品・サービスの価値を最大限に評価してもらえるターゲット層を見極め、その顧客層でACV(年間契約金額)やLTV(顧客生涯価値)が高くなる可能性があるかを基準に定義するのが、ICP(Ideal Customer Profile|理想的な顧客プロファイル)です。
特にスタートアップや少数精鋭の組織では、広い市場を無差別に狙うのではなく、リソースを集中的に投下するべきターゲットを明確にし、自社のサービスや製品に最も適した顧客条件を深掘りすることが求められます。
ICPを明確に定義することで、営業戦略にもとづくリソース投下や提案活動を適切におこない、持続的な成長を実現するための基盤が整います。
ICPを定義する3つのステップ
ICPを定義する際は、以下の3つのステップを踏んでいきます。
ステップ①|定量・定性データを組み合わせた対象企業リスト作成
ICPの定義には、まずSalesforceなどのCRMに格納されている過去の商談情報をエクスポートし、ACV(年間契約金額)やLTV(顧客生涯価値)などの定量データと合わせて整理します。さらに、業界内のリーディングカンパニーとの取引実績や子会社・グループ会社への拡大可能性、営業組織の専門性や人脈といった定性的な情報も活用して、ターゲット対象となる企業リストを作成します。
リスト作成後は全体を見渡し、「最も優良な理想的な顧客」を特定します。このフェーズでは、顧客全体の傾向値やセグメントなどのマスで特定するのではなく、最も親和性の高い顧客にバイネームでフォーカスします。
ステップ②|ICPになり得る要素・特徴などの共通項を抽出
ターゲット対象となる企業リストを作成した後、1社あたりACVやLTVが高い(/契約期間が長い)企業の共通項を分析します。その際に考慮すべきポイントは以下の5つです。
共通項としては、まずは企業特性や業界、従業員規模、導入テクノロジーなどの企業の属性情報がシンプルで洗い出しやすいです。一方、属性情報はあくまで相関関係にすぎないことが多く、必ずしも売上に直結するとは限りません。自社の売上に因果的に結びつく要素に着目し、それを基にしたICPの定義を行うこともあります。
例えば、CRMのSalesforceの場合は、利用ユーザー(契約するライセンスの数)によって料金が変動します。その場合、インサイドセールスや営業、カスタマーサクセスの人数が契約ライセンスの数とほぼ等しくになるため、レベニューチームの人数や毎年の採用人数増加率などがICPの要素になります。
ステップ③|ICP適合度をインデックス化
ICPを定義した後は、そのプロファイルに基づいて企業属性との適合度を評価し、定量的に表現します。企業特性や業界、従業員規模といった定性情報だけでは、営業担当者ごとに解釈に差が生じる可能性があります。そのため、客観的に理解できるインデックス(指標)として数値化することで、顧客戦略にアラインしたリソース投下と実行による検証を加速できます。
具体的には、マーケティングオートメーションのスコアリングのように、獲得したリードの属性情報とICPとの適合度を計測するロジックを設計します。フォーム経由で入力された企業名、部署・役職、3rdPartyのデータベースから収集した業界や従業員規模などのデータを基にスコアリングを行い、それぞれのリードや企業がICPにどれだけ適合しているかを可視化できます。
ICP適合度をインデックス化することで、定量的な指標として客観的な評価ができ、適切な優先順位を付けた生産性が高いアプローチを実現します。
ICPは属性による適合度だけではない
前述したように、ICP(理想的な顧客プロファイル)の条件は必ずしも企業の属性情報だけに限られるわけではありません。属性情報は、あくまで自社との親和性を相関的に表現したペルソナであり、因果的に売上に貢献する指標ではないです。
そのため、製品やサービスのプライシングを起点に、料金(売上)に直接つながる定量的なパラメータが重要な要素となるケースが多くあります。例えば、マーケティングオートメーションの場合、「Webサイトの訪問者数」や「アプリのMAU(Monthly Active Users)」が売上に直結する指標となる場合があります。また、請求書管理サービスにおいては、「発行される請求書や領収書のトランザクション数」などが売上に直結するパラメーターとなり得ます。
ICPを定義する際に注意すべき点は、「リスト作成の条件」に縛られずに考えることです。最終的には、ターゲットにすべき企業はリストとしてアウトプットされますが、初めからリストありきで考えると、ICPの要素やアイデアが出づらくなります。まずは、自社の製品・サービスにとって「売上増加に直結するパラメータは何か?」という問いを考えることです。この思考プロセスにより、より本質的なターゲットの条件を見出すことができます。
その上で、可能な限りの要素を抽出し、適切なツールを活用してデータ収集とリスト抽出を進めます。例えば、ウェブサイトの訪問者数を調べる際には「Similarweb」、アプリのMAUを把握するためには「Apptopia」など、各パラメータのデータ収集に適したツールを選定し、ターゲットとなる企業を精査することで、ICP条件を満たすリストの抽出が可能になります。
ターゲット市場とICPの違い
ICPは製品やサービスを購入する可能性のある企業を表すときによく使用される「ターゲット市場」とは明確に異なります。ターゲット市場は、潜在的な市場におけるターゲット企業の含有数・率の推定値であるSAM(ある事業が獲得しうる最大の市場規模)のことを表します。
また、定義したICPの中でも、優先度をつけてることで適切なリソース配分や活動内容を定義することができます。優先順位を決定する際には、単に現在の顧客価値(CLTV)だけでなく、将来の成長性や市場の変化量も考慮することが不可欠です。具体的には、現在の売上ポテンシャルに加えて、将来的にどれだけ売上が伸びる可能性があるかを評価します。
優先度はTier1〜Tier3などで表現されることが多く、Tierグループの定義を通じて長期的な関係性を築ける企業にリソースを集中する意思決定や体制構築が実現しやすくなります。
例えば、Tier1企業は市場の母数が少ないため、マーケティングの一括的な手法による数パーセントを引き上げる確率論的な施策ではなく、個別具体でアカウントプラン作成と1to1で個別最適化されたアプローチによりアカウント単位の接点創出・拡大・深堀りの長期的な地道な動きが求められます。当然ながら、この対応には時間と工数がかかるため、「そのリソースを割いてでも優先的に開拓していくべき」という意思決定ができるだけのポテンシャルを有しているアカウントである必要があります。
Tier1企業に対しては、リソースをどれだけ投入するか慎重に決定する必要があります。売上のポテンシャルや将来性をしっかり見極めた上で、どの企業にどれだけリソースを投下するかを決定することが重要です。
ICPの精度を高める「一次情報」と「組織展開」
ICPの精度を高めるためには、2つの重要なポイントがあります。
(1). 一次情報を収集すること
まず重要なのは、「一次情報」を積極的に収集することです。初期のICPは多くの場合仮説に基づいており、実際のマーケットとのギャップが存在することがほとんどです。従って、最初に定義したICPが適切かどうかを確認するためには、ターゲット企業と積極的に接触し、仮説を検証することが不可欠です。営業活動を通じて得た顧客の反応やフィードバックは、ICPの改善に欠かせない要素です。このプロセスを繰り返し行うことで、ターゲット市場に最も適したリードを効率的に絞り込み、営業活動の精度と成果を向上させることが可能になります。
(2). 得られた情報を組織全体に展開すること
次に重要なのは、「得られた一次情報をBDRチーム内だけに留めるのではなく、マーケティングや営業チームに展開すること」です。マーケティングチームがICPに適合するリードを獲得し、その後、インサイドセールスチームが適切なメッセージを顧客に伝えることで、組織全体で一貫性のある提案活動を行うことができます。
同じターゲット企業であったとしても、課題や訴求するユースケース/事例、また営業チャネルなど、アプローチ方針が全く異なる複数の顧客が混在する可能性があります。
部門間で情報を分断せずに、共通のターゲットに向けて一貫性のあるアプローチを取ることで、顧客が抱えているペインを的確に捉え、「顧客にとっての価値は何か」を磨き込み、提案内容を洗練することができます。
ICPを定義する組織とそうでない組織の違い
ICP(Ideal Customer Profile)を活用する組織と、活用しない組織では、3つの重要な観点で違いが現れます。
(1). 成長スピードの違い
最初に顕著に現れる違いは、成長スピードです。新しいプロダクトやサービスを立ち上げたばかりの段階では、マーケティングやプロダクトに投資することでリードを集め、その後に売上が発生する流れが一般的です。しかし、このプロセスは長期的には持続できません。成長の次のフェーズに進むためには、営業活動の効率化が不可欠です。
この段階で、戦略の策定から実行までを適切に進められるかどうかが、組織の成長スピードに大きな影響を与えます。ICPを活用することで、適切なターゲットに向けてリソースを効率よく配置でき、成長の加速が実現できます。
(2). 生産性の違い
次に、生産性に大きな差が出ます。特にスタートアップ企業では、少数精鋭で事業を展開するため、限られたリソースをどう効率よく使うかが非常に重要です。市場全体に無駄にリソースを投下するのではなく、自社のプロダクトやサービスと相性の良い、高いポテンシャルを持つ顧客セグメントにリソースを集中する必要があります。
ICPを明確に定義することで、どの企業に優先的にリソースを投下すべきか、どの企業が最も重要かが一目瞭然となり、無駄なくリソースを活用できるようになります。これにより、生産性が向上し、限られた時間と予算を最大限に活用することが可能になります。
(3). 提案内容の違い
最後に、提案内容の質が向上します。ICPを活用することで、広い 市場の中から自社にとって最も相性の良い顧客セグメントを絞り込みます。このセグメントに焦点を当てることで、顧客が抱える課題やニーズをより深く理解でき、顧客解像度が向上します。その結果、単に一律のメッセージを送るのではなく、顧客が求めている情報や解決策を的確に届けることができます。これにより、提案するコンテンツやメッセージの価値が高まり、顧客にとってより有益なアプローチが可能となります。
このように、ICPを活用することで成長スピード、生産性、提案内容の質が飛躍的に向上し、組織全体の営業活動が一貫性を持ちより成果に繋がるようになります。
インサイドセールスは独立遊軍として営業組織全体を牽引
「ICP(理想的な顧客プロファイル)」は、「営業部門ではなくマーケティング部門が担当するもの」と考えている方が多いと思います。しかし実際には、顧客解像度が最も高いのは営業チーム、特にインサイドセールスです。
インサイドセールスは、顧客との最初の接点を持つ重要な役割を担っています。営業戦略や仮説が正しいかどうかを検証する位置にあり、市場のニーズをいち早くキャッチする役割も果たします。この段階で、「マーケティングが担当するべきだ」といった認識ではなく、インサイドセールス自身が積極的に一次情報を収集し、精度の高いICP条件をもとに営業リソースをどこに投下すべきかを判断することが重要です。
ICP(理想的な顧客プロファイル)をインサイドセールスが起点となり、営業チームやマーケティングチームと共有することが不可欠です。チーム全体で共通の営業戦略を策定し、インサイドセールスはその戦略を迅速に実行に移し、結果を検証していきます。インサイドセールスは、単なる戦略の実行者ではなく、戦略を実行しながらもその効果を検証し、最適化していく「独立遊軍」のような存在です。
つまり、インサイドセールスは営業組織全体を牽引する役割を担っており、戦略策定から実行・検証に至るまで、幅広い責任を持つポジションです。指示だけを行う単なる「司令塔」ではなく、戦略の起点とした圧倒的な実行力で組織やプロジェクトを推進する存在になります。
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