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執行役員2年を経て
※私的な振り返り記事です。
現在Mutureは、DXを通じて丸井グループのインパクトを最大化することを目指しています。そのために、現場チームに根ざしながら会社の構造(システム)を変革するとともに、その変革を体現する現場プロダクトチームの開発を支援しています。
私自身、丸井グループ在籍時にMutureの立ち上げに参画しました。そして、会社設立後はMutureに出向し、執行役員として会社経営および事業推進の一部を担っています。新卒で丸井グループに入社した立場からすると、29~30歳という年齢でこのような役割に挑戦できるとは全く想像しておらず、大変ありがたい機会をいただきました。
しかし、当然ながら会社経営の経験は皆無であり、他のメンバーと異なり専門性も持ち合わせていません。そのため、葛藤や苦悩を人一倍抱えながら、この2年間を歩んできました。この経験を無駄にしないためにも、主に感情面での気づきを振り返り、現時点での記録として残したいと考えています。
会社はどうか?
Mutureは、立ち上げ当初わずか5名でスタートした会社でしたが、2024年12月時点で17名へと成長しました。事業は「丸井グループのDX」をメインテーマに始まりました。当初はプロダクトにおける「デザイン」に関する依頼が中心でしたが、徐々にプロダクトチームの組成やデジタル戦略の策定支援へと活動範囲を拡大し、組織の上下の壁を越えた幅広い取り組みを展開しています。
執行役員としての役割
会社として、より大きなチャレンジができるようになった今、私はそこで何をしているのか。私の役割は、コーポレート(経営企画・財務経理・人事労務・総務法務)をはじめ、丸井グループにおけるDX事業のプロジェクト参画(プロジェクトマネージャーやストラテジストとして)やDX事業の外部展開など、攻守両面にわたる業務を担っています。
Mutureに来る前は、丸井グループでスタートアップ投資部門や新規事業の立ち上げといった「立ち上げ業務」を中心に取り組んでいました。しかし、Mutureでの業務では初めて挑戦することが多く、戸惑うこともしばしばあります。そして、この戸惑いは立ち上げ当初より現在(第3期)の方がさらに大きくなっています。
立ち上げ当初は5名でスタートし、過去に培った「ストーリーテリング」「事業計画の作成」「プロジェクト推進」の経験を活かし、一定の価値を発揮できていると感じました。しかし、会社が5名から17名へと成長する過程で、自分に問われるのは「自分より優秀なメンバーが加わった際、経営陣としての自分の価値とは何か」という問いです。
担当者ではなく、責任と権限を持つ執行役員として、私は継続して価値を生み出せるのか。このプレッシャーが常に私につきまとっています。そのなかで、自分なりに気づいた「担当者ではなく、経営陣として求められる姿勢」は、
①自己変容型への移行
②事勿れ主義の脱却
③会社という生命体を捉える
の3点になります。
①自己変容型への挑戦
自分よりも優秀で、かつ専門性を持ったメンバーが増えていくことは、企業が成長し、その存在意義を果たし続けるために不可欠です。
初めて採用を「する」立場となって読んだ『How Google works』のGoogleの採用の掟は衝撃で、マインドセットを変えないといけないと思ったことを覚えています。
- 自分より優秀で博識な人物を採用せよ。学ぶもののない、あるいは手強いと感じない人物を採用してはならない。
- プロダクトと企業文化に付加価値をもたらしそうな人物を採用せよ。両方に貢献が見込めない人物は採用してはならない。
- 仕事を成し遂げる人物を採用せよ。問題について考えるだけの人物を採用してはならない。
- 熱意があり、自発的で、情熱的な人物を採用せよ。仕事が欲しいだけの人物は採用してはならない。
- 周囲に刺激を与え、協力できる人物を採用せよ。ひとりで仕事をしたがる人物は採用してはならない。
- チームや会社とともに成長しそうな人物を採用せよ。スキルセットや興味の幅が狭い人物は採用してはならない。
- 多彩で、ユニークな興味や才能を持っている人物を採用せよ。仕事しか脳がない人物は採用してはならない。
- 倫理観があり、率直に意思を伝える人物を採用せよ。駆け引きしたり、他人を操ろうとする人物を採用してはいけない。
- 最高の候補者を見つけた場合のみに採用せよ。一切の妥協は許されない。
とはいえ、経営陣の中では自分が最も経験が浅く、専門性もありません。社員が増え、事業が進む中で、時には自分の存在意義がわからなくなり、迷ってしまうことも度々ありました(今でもそう感じる時があるかもしれません)。
後から来るメンバーにとっては、「この人は創業メンバーだから役員なんだな」「親会社から来ているからこの立場にいるんだな」と思うこともあるでしょうし、それは事実です。しかし、その現実を嘆いても仕方がありません。
自分がいかに凡庸で価値がないかを正直に見つめ、そこから謙虚に成長し続けるしか道はないのです。そんな時に思い出したのが「自己変革型リーダー」という考え方でした。
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引用元はこちら
実は、毎月気づいたことや感じたことをメモしているのですが、過去のメモにこんな言葉を記していました。
アジェンダを待つのではなく、アジェンダをつくろう。
これはまさに、問題解決志向ではなく、問題発見志向である必要に気づいた瞬間があったことだと認識しています。
担当者という立場であれば、上司が言ったこと・社長が指示したことをベースに仕事を進めることで価値を創出できるシーンも多いと思います。しかし、経営陣という立場はそれではいけません。ミッション実現のために、「何が問題なのか?」 、 「会社にとっての課題は何か?」 、 「今の課題は何か、未来の課題は何か?」をいち早く発見し、優秀な仲間と一緒に解決に動かないといけません。
問題を発見するには、新しい視点や考え方を常に身につけ続けることが必要です。それは単に本を読むだけでなく、新しい人と会い、話すという、私にとってあまり得意ではないことも含まれます。まだ十分にできているとは言えません。ただ自ら機会を創り、与えられた機会には飛び込むしかありません。
少しでもMutureの可能性を広げられる存在であり続けること。それが経営陣として求められる姿勢だと感じています。
(こんなことを書きながら、尊敬する経営者が「同じ人とばかり話していてはいけない」と以前おっしゃってたことをふと思い出したりしました)。
②事勿れ主義の脱却
次に、私が直面したのは「事勿れ主義」では価値を生み出せないという現実です。
もともと丸井グループでは、プロジェクト推進者として方針や進行計画の策定、関係者との議論を通じて共通認識を積み上げ、プロジェクトのゴールを実現する役割を担っていました。そこで大事にしていた価値観は、「摩擦(フリクション)をなくすこと」です。事前のネゴシエーションや場回しに注力し、関係者を巻き込み、円滑にプロジェクトを進行させることを意識していました。しかし、この姿勢だけでは不十分だと感じるようになりました。自社の企業価値向上を優先するのであれば、関係性を優先する「事勿れ主義」では成果を生み出せないのです。
このことを実感したタイミングは主に2つあります。
1つ目は、社員とプロジェクトの方針や進め方について議論する場面です。もちろん、社員は私とは異なる人間であり、その思考や行動から学ぶことも多いです。しかし、関係性を優先して何か違和感があるのにフィードバックをしないことは、完全に責任を放棄することになります。Mutureとしての成果を最大化するために、考え方や進め方が異なれば、しっかりと話し合う。社員の顔色を伺うのではなく、本質的にやるべきことをやりきらなければなりません。この点が徹底できていない限り、経営陣としての責務は果たせていません。
2つ目は、監査役との議論の際です。経営陣としての責務を自覚させてくれる貴重な機会になっています。例えば、Mutureの今後の戦略を実現するための重要なルール策定を進めていた際、リスクについて議論をしていた時のことです。その時、「あなたはMutureの経営陣でしょう。誰のために仕事をしているのか」とフィードバックをいただきました。衝突を避け、中途半端な合意点を探るのではなく、経営陣としてMutureの成果を最大化するために、時には衝突を乗り越え、全員の合意と納得を作り上げなければなりません。自分の身を守り、嫌なことから逃げている限り、経営陣としては不適格だと感じました。
こうした立場に立つ前は、意見が違っても「この人とはまた同じ会社で働くかもしれない」という思いから、程よい妥協点を見出し、真剣に成果に向き合えていない自分がいたようにも今は感じています。しかし、Mutureの生死に関わる立場になったことで、その姿勢を改める必要があることを常に意識するようになりました。
生死というと、『良い戦略 悪い戦略』の冒頭にこんなことが書いていました。
戦略策定の肝は、つねに同じである。直面する状況の中から死活的に重要な要素を見つける。そして、企業であればそこに経営資源、すなわちヒトモノカネそして行動を集中させる方法を考えることである。
経営側の立場の違いを意識できるようになってからは、常に生存危機に瀕しているように感じています。生き抜くためにやるべきこと・考えるべきこと・大事にすることを履き違えないようにしていきます。
③会社という生命体を捉える
最後に、視点が変わった点は、会社を「生命体」として考えるようになったことです。自分自身もその所属者の一人でありながら、「今、この生命体に呼びかけたら返事があるだろうか?今、この生命体はどんなコンディションなのか?」といった視点でも会社を見るようになりました。
例えば、今年度からMutureでは「Spot」という仕組みを導入し、会社全体のアジェンダに対して上位下達ではなく、自己組織化を促進する新しい組織運営の形を試みています。この取り組みについては、代表取締役のじゃみさんがnoteでも触れています。
仮に、全員が呼びかけに応えなくても、それはその時点での状態だということです。経営陣として、その事実から目を背けてしまうことは責任放棄に他なりません。経営戦略を実行に移すためにも、常に組織の状態を意識し続ける必要があります。
そのために重要なのは、組織が戦略にフィットしているかどうか、そしてモメンタムの2つの要素です。まず、前者については、その組織に流れる文化、価値観、仕事の進め方が戦略と一致しているかという視点です。これは、『両利きの経営』で紹介されているコングルエンスモデルの考え方に基づいています。
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引用元はこちら
後者の「モメンタム」ですが、組織が新しい挑戦を行うにも、課題意識・戦略理解・自己効力感・ラストマンシップなどの「熱」が流れている必要があると考えています。
フィットとモメンタム。この二つの視点で、組織全体の力を最大化できるように個人・チーム・環境といった組織の要素にアプローチをし続ける必要があるのだと今は考えています。
これが実現できれば、上位下達のトップ頼りの状態ではなく、衆知経営として全員の力で会社の価値を拡張していくことができると信じています。そんな経営を目指していきたいと思っています。
「最高の経営は衆知による経営である」
引用元はこちら
https://holdings.panasonic/jp/corporate/about/philosophy/9.html
さいごに
まだまだできていないことばかり。自分自身の至らなさに嫌になることばかりです。
逃げたくなる瞬間も多くあります。しかし、圧倒的に不足している自分が責務を果たし・企業価値に貢献するならば、こうした逃げたくなる瞬間をどれだけ歯を食いしばって立ち向かえたか?次第なのだと思い、まだ頑張りたいと思います。
最後に、大好きな曲のCreepy Nuts×Ayase×幾田りらの『ばかまじめ』から
やっとここまできたんだよ
ここじゃ終われないんだよ
辛いきついもいつかは
笑い話にできると信じているんだほら
まだ3期目。Mutureはこれからの会社です。
いまは社会に対しても小さいインパクトしか作れていないです。
ただ夢見ている未来は、身の程知らずに壮大なものを考えています。
それを作れるかは我々次第です。
25年もひたむきに頑張りたいと思います。