ツアー車両をインロックして絶望した話
ガイドとして働きはじめて1ヶ月が経った頃、ジャスパー国立公園にあるコロンビア大氷原行のツアーを行っていた最中に血の気が引くような出来事があった。
インロックである。
インロックとは、車の鍵を車内に置いたままにしてドアを閉めることによって、ドアを開けらない状態にしてしまうことをいう。
まさにツアー車両の鍵を車内に置きっぱなしのままでドアを閉めてしまったのである。
何がマズいのかというと、文字通り車内に入れないため、車を動かせないということ。そして、車を停めているところでは電波が全く通っていないため、助けを呼ぶこともガイドの同期に連絡を取ることもできないのだ。
この時のことを今でも鮮明に覚えている。
加えて、スペアキーも車内に置いていることを知った時の絶望感は形容し難い苦しさがあった。
今でも思い出しただけでゾッとする。
ゲストの方々に謝罪をし、頭をフル回転させて解決策を考えた。
電波もない、車も使えない。
そうなると、あれしかない。
そう、ヒッチハイクだ。
幸いなことに車を停車した場所から車で20分ほどの場所にコロンビアアイスフィールドという施設があり、そこにはガイドの同期も来ていることは知っていたのでこれしか打つ手はないと思った。
道路に出て、必死に手を振り、助けを求めた。
駐車場に止まっている車に順番に回って事情を説明して送ってほしいと伝えた。
嫌そうな顔もされた。
そりゃわざわざ観光に来てるのに往復40分もかけてよく分からない男のために運転して連れて行くなんて考えられない。
ほとんどの車に声をかけてしまい、いよいよ終わったと思ったその時、ボロボロのセダンが僕の前に停車した。そこに乗っている男の子二人に事情を説明すると、「もちろんいいよ!」と快諾さてくれた。
後部座席には荷物がパンパンに詰まられており、どこに乗せてもらえるのか心配になったが、助席に乗っていたフランス人のナイスガイが「僕は降りてここで待っているから行ってきなよ!」と席を譲ってくれたのだ。
内心感動で叫びそうになったが、ゲストの方々もいるため、ありがとうと何度も言ってお礼を伝えた。
運転席に乗っていたタイ人の彼もナイスガイで、文句一つ言わずに、気さくに話しながら僕を連れていってくれた。
どうやらこの二人は大学を卒業したばかりの23歳の友人同士で、エドモントンの街からからロードトリップでバンフに向かっていたそう。
そんな旅路を邪魔してしまったことが申し訳なく思い、僕は思わず、邪魔してごめん、なんでここまで親切にしてくれるの?と聞いた。
すると彼はただ一言「当たり前だよ」とだけ答え、理由を聞いた自分が恥ずかしくなった。
道中は、彼がこれから登る山のハイキングの話、仕事を決めずに卒業したため、これからしたい仕事の話など、色々な話をした。同世代という共通点もあり、話は盛り上がった。
「インロックの話は災難だったね。でも、僕らと同い年くらいでガイドをしているなんてすごよ。」と傷心気味の僕を慰めてくれたりもした。
コロンビアアイスフィールドセンターで同期から鍵を受け取って戻るまでも彼は駐車場で時間を潰して待っていてくれた。
インロックした車がある駐車場に戻って来た時には、申し訳なさと感謝の気持ちからチップを渡そうとしたが、「Bro,そんなのいいからまた連絡してくれ。バンフでキャンプをするから良かったら来てくれ。」と最後の最後まで優しさで一杯の言葉をくれた。
インロックをした時は絶望を感じたが、彼らの親切心に触れたことで心が温かくなった。