三上 涼風(Suzuka Mikami)
読むと創作したくなるノート
綴り方
オリジナル曲
曲を作ったり小説を書いたりする人。 例えばこんな曲を作ってます。 HP(小説)/HP(音楽)/YouTube/ニコニコ動画 何があっても作り手でありたい。
運命を知りながら受容しなければならないときの心はかくも平静なものだろうかと思う。 それは例えば娘の場合。娘がこの食卓の一人挟んだ向こう側についたときから運命は決していた。突如として娘は宙に吊るされる。それはクレーンゲームが景品を持ちあげるごときさりげなさであった。娘の母親は何の疑問も差し挟むことなく目の前に並べられた皿から食べ物をつまみあげる。私は刹那の後に耳を劈くであろう娘の母親の悲鳴を予期しながらも平常を装うより他はなかった。刹那。娘の腹を日本刀が貫き空中から鮮血が迸る
常に同じ表情しか見せないものたちにおまえの大切な気持ちを晒すな。表情をもつように見えてその実仮面のように冷え切った鉄の塊でしかない彼らのためにおまえの大切な感情を切り売りするな。痛みをこらえて切り取った肉の欠片は彼らに反射すれば単なる同質の有機物になり果てるだろう。おまえの有限の魂は物言わぬ表情なき捕手のために存在するのではない。いいかよく聞いておけ。お前が彼らに渡せるものなどただの一つもないのだ。 最終電車と反転世界最終電車に揺られて漆黒の中に視線を彷徨わせる日々がかつて
自由を叫べば叫ぶほど深く昏い穴に囚われて抜け出すこともできず泥まみれになって朽ちていくだけならば一体自由とは何なのだろう。心を見つめれば見つめるほど偽りで飾り立てた虚構の美しさが際立つのならばこの双眸をどこへ置けというのだろう。全ての言説はわたしをどこかへ放つと見せかけながらその実鞏固に縛り付ける建前だと気づいたところで記憶を消しでもしない限り逃れられはしないのだからなんと恐ろしい世界なのだろう。その不可逆的性質を鑑みるに知る行為というものは必ずしも善い行いとは限らない。だれ
変わってしまう関係性ならば初めから築かなければいいのに。永遠なんて存在しないと解っているはずなのにどうしてその時だけはもしかしたらあるかもしれないと期待してしまうのだろう。理性を上回る何かの力が働いて結果的にそれで傷つくのであるなら何のためにそんな力が備わっているというのだろう。一つ一つは時計の針が秒を刻むように微量な変化だから瞬間的には気付かないけれど、ふと空を見上げたときに青から紺に移り変わっているのがわかるのだ。せめて痛みを感じないほどの鈍感さが同時に備わっていればいい
あなたは美しい。銀フレームの丸眼鏡の奥から透き通ったまなざしで見渡せばたちまち世界は虚構と汚染にまみれた真実の姿をさらけだしてしまう。あなたは美しい。長い指先で紡いだ文字のしなやかで流れるようなフォルムは見る者を魅了して空想の世界に誘う。あなたは文句のつけようもないほど美しくいつでもさらりさらりと風に吹かれている。あなたは本当に美しい。 わたしの知らない世界知らない世界のことを存在しない世界なのだと認識できるメンタリティを持ち合わせていたらどれだけ幸せだっただろう。知らない
あんな風に飛んでいきたかった。 あなたが見ていてくれるからこそあなたが見ていてくれると思えばわたしの手はどれだけだって文字を紡ぐことができる。あなたの目の前でならわたしはどれだけの音でも重ねられる。あなたがいればわたしは万年筆のインクのようにどこまでもほとばしることができる。あなたがいれば。あなたさえ見てくれたら。わたしにはあなただけがいればいい。あなたはわたしだけ見ていればいい。 決して裏切りなんかじゃない。単なる火遊びだ。 砂埃から逃げ出してローレンスは平和な町だ。
蕾状に立ちのぼる火柱。数百メートル先の窓すら震わせる衝撃。逃げ惑う職員。パトカーと救急車のサイレンが辺り一帯にこだまする。速報のテロップ。スマートフォンの通知音。号外を配る新聞社。その瞬間から、世間の視線は狙われたテレビ局に釘付けになった。わたしはその一連の動きを映画を観るように眺めていた。 別にテレビ局を狙ったわけではない。わたしのちょっとした好奇心と冒険心が思わぬ結果を招いてしまっただけだ。 事故として処理してくれないかなと願った。これは不幸な事故で、今後の管理体制に
だけどそれもいいかもしれないなと思う。どうせ真実なんてどこにもないんだから。 都合の良い虚構真実なんて存在しているようでその実どこにも存在していない。虚構を真実だと思いこませようとする人間と虚構を真実だと思いこんだふりをする人間でこの世界は回っている。何もかもは都合よく存在することを求められるのであってありのままの姿を素直にさらけ出すことほど愚かなことはない。 重苦しく開かれた唇も謝罪の言葉もすべては都合よく存在するためのものであって真実などどこにもない。現実世界が少しば
揺れる車窓を眺めながら過去の私に問いかけられる。 稚拙ながら目の前のことだけ考えていて、君に勝つことばかり考えていたあの頃の。稚拙と表現したけれど今ではもう戻れない場所にいたのなら、もっと畏怖するべきなのかもしれない。 初めは確かに前者だったけれどいつしか目的がすり替わってしまっていた。 同義のようでまったく異なるその言葉が痛く突き刺さってくるのは現在の私の苦悩を明確に言い当てているから。 言葉にも聞こえない言葉みたいなやたらと高い叫びは別の誰かに向けるふりをして実は
普段であれば頭上に広がる星々は満月のまばゆい光にかき消されて姿を隠してしまっている。 荒野を支配する月の光はどこか寒々しく、岩と枯草ばかりの表情のない大地をよりいっそう寂しげな色彩に染めあげる。 故郷に置いてきたものはどれも取るに足らないものばかりだったが、こんな夜はなぜだか妙に思い出ばかりが甦る。 大地を蹴る足音と砂をさらっていく微かな風の音以外、耳に入るものは何もない。 静寂の地を旅人は歩く。 遠くに黒々と浮かび上がる市壁から仄かに光が漏れ出している。 都市の夜は眠
頑張れば誰かになれると思って、新しいことをすれば私であることを辞められると思って、だけど結局私は私でしかいられないってことを突き付けられて、だから頑張ることを辞めてしまう。 常に私は私じゃない誰かになりたかった。私の人生から抜け出して他の誰かの人生を歩んでみたかった。私は私のことが嫌いだけれどそれに具体的な理由はなくて、あるとしたらそれは私が私であるからに他ならない。私は私のことが嫌いだから私のために頑張り続けることはできなかった。私が何かを為しえて名声を手に入れるよりも他
職場を抜けて窓から外に出てみた。窓といっても一面が硝子張りの壁のようなもので、開けられないように見えるそれを開ける方法を私だけは知っていた。外に出るとキラキラと風が吹き抜けていく。抹茶色の屋根に横たわる。視界を覆う青空はびっくりするほど青く高く雲が遠慮がちに端の方を流れていく。久しぶりに本物の空を見たような感覚。どこからか潮の匂いがする。さっきまでいた場所、10メートル足らずの壁を隔てた向こう側にいたことが遥か遠い記憶の中の出来事のように錯覚する。そうだったらいいのにと願望を
望んだわけでもないのに勝手に生み落とされて、社会の中で生きていくことを求められる。望んで生まれたわけじゃないのに制度的にも倫理的にもさまざまな義務を課され、違反すれば弾かれる。さらに生まれなんてものもあって、医者の息子に生まれれば医者を継ぐことを求められる。王室に生まれでもしたら一挙手一投足を監視され、相応の振る舞いを期待され、ご自身の立場を弁えろなどと言われる。 望んで生まれてきたわけでもましてや望んでその血筋に生まれてきたわけでもない。勝手に生命ガチャを引かれたから存在