【Clubhouse アプリグロース徹底解剖】 Part2:Clubhouseの高バイラル性とコミュニティグロースに伴う懸念
■ はじめに
こんにちは!Repro Growth Marketerの稲田宙人(@HirotoInada)です!
前回から引き続き全3回に渡って、急速なユーザー数の拡大をしている話題の音声SNS「Clubhouse」に関して掘り下げます。
第1回「Part.1:Clubhouseに人は何故時間を溶かしてしまうのか?〜Hookedモデルを用いたハマる理由の考察〜」はこちらからどうぞ!
第2回目にあたる今回は、「Clubhouse」の急速なユーザー規模の背景にあるバイラル設計に関して考察します。
また、今後さらにコミュニティが拡大していくにつれて顕在化しえる、音声コミュニティ特有の懸念とその対策方法に関しても考えます。
尚、本noteの元ネタは僕と伊藤直樹さん(@n_11o)でやっているポッドキャスト番組「Mobile Update // モバイルアップデート」で収録した第57回「Clubhouseアプリグロース徹底解剖 Part2:Clubhouseの高バイラル性とコミュニティグロースに伴う懸念」なので、そちらも併せてお聴き頂くと理解が深まると思いますので是非!
ハッシュタグ 「 #モバアプ 」でご意見ご感想もお待ちしてます!
1. Clubhouseのバイラル性は何故高いのか?
数あるSNS・音声チャットアプリの中でもClubhouseの話題性とユーザー規模の拡大のスピードは圧倒的なものでした。
Source:ソーシャルオーディオアプリClubhouseが800万ダウンロード超え、2021年2月前半に急増
本章ではその強力なバイラル性の背景にある、Clubhouseのバイラル設計を考察していきます。
Clubhouseのバイラル性の厳選としては以下の3つの仕組みが存在すると考えます。それぞれ詳しく見ていきます。
■ Clubhouseのバイラル性の源泉
①招待させてやるスタンス
②善行 = ユーザー体験価値の向上
③有名人からのトップダウン構造
①:招待させてやるスタンス
まずはユーザー招待設計のスタンスです。
サービス初期段階で利用できるユーザー数を制限するのは、サービス安定性の確認の面や、サービス対象地域の制限などで一般的に取られる手法です。
Facebook・Tinderは特定の大学の学生のみを対象に最初はサービスを開始したことで有名です。
また、普通「リファラルマーケティング」は、ユーザーにインセンティブを渡すことでユーザー規模を拡大させる施策で、謂わばそのスタンスは「招待してください」と言えます。
Clubhouseも上に挙げたサービスと同じく初期の利用ユーザーを制限したのですが、違ったのが、その方法が「招待させてやる」というスタンスであった点です。
招待枠に制限を設けることで希少性を生み出し、招待されることが一種のステータスになるように設計したのが非常に上手いところです。
その希少性を後押してしているのが、Clubhouseの「アーカイブが残らない」というサービス設計です。
上記2つの設計により、Clubhouseへの参加権は非常に価値の高いものに変容し、結果として招待を持っていないユーザー以外もWaiting Listに殺到し、先行指標であるDL数が跳ね上がったのは周知の通りです。
②:善行 = ユーザー体験価値の向上
続いて、招待枠増加とユーザー体験価値の仕組みです。
Clubhouseには招待枠の制限があるのは前述の通りですが、この招待枠はアプリコミュニティに一定以上の貢献を行うと増えていく仕組みになっています。
ここで前回、第1回の「Part.1:Clubhouseに人は何故時間を溶かしてしまうのか?〜Hookedモデルを用いたハマる理由の考察〜」で取り上げたユーザーがサービスにハマってしまう理由を説明する「Hookedモデル」を引用します。
Source:フックモデル
Clubhouseの設計が凄いところは、コミュニティにとっての善行が、ユーザーにとっての体験価値に直結する点です。
つまり、コミュニティにとっての善行を積まないと招待券ができないので、 コミュニティにとっての善行はユーザーのハマり度合いになることを表しており、故にバイラル性も非常に高くなると考えられます。
バイラル性は以下のように数式化できます。
バイラル性 = ペイロード × コンバージョン率 × 頻度
※ペイロード:一度に送信される招待の数
このうち、ペイロードは基本的にそのユーザーが持っている招待枠最大値に近くなることが予想されます。ここには、招待枠の希少性・ステータス的価値が影響しているのは前述の通りです。
また、コンバージョン率(招待されたユーザーが参加する割合)も非常に高くなることは、ここまでの議論を元に考えると自然です。
さらに、頻度も前述のHookedモデルを考えると高くなることが予想されます。何故なら、招待枠の増加 = ユーザーのサービスへのハマり度合い になるからです。
このようにClubhouseでは、その招待枠を制限するスタンスにより招待枠に希少性・ステータスを持たせ、さらに招待枠が増加する仕組みをユーザーのサービスへのハマり度合いにアラインさせることで、急速なDL数・ユーザー数拡大を達成したと考えられます。
③:有名人からのトップダウン構造
最後にClubhouseの高い話題性に関して深堀りをします。
定性的に今回のClubhouse関連のニュースを見てて思うのは、所謂キャズム理論の中の「アーリーアダプター」の溝を超えるのが圧倒的に早かったなと…
Source:キャズム理論とは?キャズムを超える方法とその事例
実際、最初はIT界隈で話題になっていたかと思うのですが、数日経つとITとは少し離れた界隈でも大きな話題になっていたのを観測しました。
この動きは本国アメリカでも同様に見られ、最初はアーリーアダプターによる所謂「意識高い」話が繰り広げられていた一方で、井戸端会議や雑談にコンテンツが移行していったことからも読み取れるでしょう。
このようにClubhouseは、非IT層にまでサービス認知・利用が広がったのが早かったと思うのですが、ここにはサービス拡散のピラミッド構造が影響していると考えています。
ここで上記のようなピラミッドモデルを用いて考えてみます。
横軸に対象母数をとり、縦軸にインフルエンス(ソーシャル上でのフォロワー・影響力)をとり、ユーザー群を3つに分けてみます。
今や世界最大のSNSとなったFacebookですが、最初は①ハーバード大学の学生のみを対象にサービスを開始し、その後②スタンフォード大学などの他大学にドミノ形式で広がっていきました。これを図式化すると以下のようになります。この構造はTinderも同じです。
上記のボトムアップで広がっていく構造だと、一定の規模に達するまで、もしくはインフルエンスが高い有名人が参画・取りあげてくれるまでは、地道なユーザー基盤の拡大となります。
では、Clubhouseはどうか?
Clubhouseのコンセプトとして特徴的なのが「セレブ・有名人の雑談を盗み聞きする」という体験です。
Clubhouseの場合は、シリコンバレーのアーリーアダプターは勿論ですが、セレブ・有名人を初期ユーザーとして参画させることで、ボトムアップだけでなく、急速なトップダウンでの認知度拡大を実現したのです。
インフルエンスが高いセレブ・有名人のここでしか聞けない話が聞けるという体験が、希少性を大きく高め、急速な認知度形成に貢献したと考えます。
他のサービスでも同様の招待設計を構築すること自体は可能だが、Clubhouseの成功の要因には先に有名人・セレブを囲い込み、それを「ダシ」にしてキャズム以降のユーザーもまとめて巻き込んだ点があると思います。
ちなみに、Clubhouseと同様にセレブを先に囲い込んだマッチングアプリとして「Raya」がありますが、あまり話題には上がりませんが何故でしょうか?
Rayaは参加条件がSNSのフォロワーが5000人以上と言われており、参加できることが自体が一種のステータスになるのはClubhouseと同じです。
ただ、大きく違うのが、そのエクスクルーシブな参加条件故に、そもそものトップダウンのユーザー基盤拡大設計が活かせなかった点です。
且つ、バイラルを生み出すようなUGC投稿なども一切禁止の現代の「イルミナティ」だったので、その対象ユーザー母数、すなわち市場規模の小ささと、低いバイラル性により話題にはなり得なかったと考えます。
以上がClubhouseの急速・強烈なバイラル性を支える強さの源泉の考察です。
新規サービスを立ち上げる上での、招待設計・ユーザーをハマらせる仕組み・初期ユーザーの選定と、非常に学びが多い事例だなと個人的に思います。
2. コミュニティ成長に伴う健全性担保への懸念
さて、ここまで急速に拡大を続けるClubhouseですが、コミュニティサービスという特性上、今後懸念になるのがコミュニティの健全性です。
既に、「ミュート推奨部屋」や「相互フォロー部屋」などコミュニティの健全性を害するようなルームが乱立していますが、今後は以下のような取り組み・意識が運営・ユーザー双方にとって重要になるかと思います。
①フラウド・なりすまし
②アーカイブが残らない故のモラルの欠如
③レピュテーションリスクの確認
①:フラウド・なりすまし
悲しいかな、音声メディアは古来よりフラウド・なりすましと非常に相性が良いです。(これはオレオレ詐欺が頻発していることを考えると納得がいきますよね)
先日ClubhouseがシリーズBの調達をした際にも言及されていましたが、今後Clubhouseはスピーカー向けのマネタイズ手法を開発していく方針です。
ここで懸念されるのが、有名人を騙ったなりすましによる投げ銭乞食です。
Source:モバイルアプリマーケティングのPodcastをはじめて良かったことや発信側にまわってみての所感
上図はStand.fmで永野芽郁さん・浜辺美波さんの2人が突然生配信をした際のスクショですが、蓋を開けてみれば永野芽郁さんは偽物で、大量の投げ銭が偽アカウントに投じられるという事件が既に発生しています。
去る11月23日、Stand.fmでとんでもないLIVE配信が突然始まりました。永野芽郁が浜辺美波とフツーの女の子として話しつつ、グッドパッチの土屋さんなども呼ばれてLIVE配信に参加するというジャパニーズドリーム。
アホな僕は「声かわいい~」とか思いながらまんまと聴いていたわけなのですが、結果的に永野芽郁さんは偽物で、短時間で凄い金額の投げ銭がこの偽物のアカウントに集まっていたのでなかなか「エンタメだったね~あはは」で済まない出来事だったのかなとは思います。
Source:モバイルアプリマーケティングのPodcastをはじめて良かったことや発信側にまわってみての所感
上記はあくまでもエンタメ領域なのでまだ笑い事で済むかもしれませんが、これが政治家・有名人を騙った偽アカウントによる政治的・社会的コミュニティでのなりすましだと思うとゾッとしませんか?
実際既に、反ユダヤ人のコミュニティが存在する点でも批判が出ており、問題は顕在化しつつあります。
炉辺談話で知られるF・ルーズヴェルト米大統領、"アメリカの牧師"と呼ばれるビリー・グラハム牧師は、両名ともラジオを用いて人々を動かしてきた通り、音声が持つ人への影響は計り知れないものがある一方で、そのなりすましのハードルは低いです。
それ故に、コミュニティとして、なりすましを防止するような取り組みが必要になり、現状のClubhouseの電話番号認証だけでは到底足りるとは考えにくいです。
また、Clubhouseのユーザーを狙った犯罪も既に存在します。
情報商材の新たな狩場として開拓されているのも散見されますし、音声ならではの新たな詐欺手法も登場しています。
「IP盗難」はその最たる例で、音楽プロデューサーになりすましたユーザーが、インディーのアーティストにオーディションなどと称して演奏させ、音楽を盗むような詐欺が横行しています。
これは何も音楽に限らず他の芸術領域でも考えられ、アーカイブが残らない故の犯罪の温床になる可能性は秘めており、防止策は必須と言えるでしょう。
②:アーカイブが残らない故のモラルの欠如
こちらも非常に分かりやすいですね。
既に「○区女子の会」が話題になりましたが、アーカイブが残らない故に、他人を傷つけたり、企業秘密を漏洩してしまうなどのモラルの欠如が発生しえます。
Clubhouseアプリ上で、問題になる発言は報告をすることができると既にガイドラインでも規定されていますが、声というメディアの性質上、その検閲は非常に難しいです。特に、ローカル言語への対応がすぐにできるとは考えにくいです。
こういった状況では、利用者一人一人が節度をもってClubhouseを利用することが当然必要ですし、企業としても運用ルールを定めることが推奨されるかもしれません。
③:レピュテーションの確認
Clubhouseのガイドラインでは、招待を起こした人が問題を起こした場合は、招待をした人も連帯責任で処罰を受けると規定されています。
江戸時代の5人組に近い制度ではありますが、この設計はコミュニティの健全性担保の上で非常に有用だと思います。
招待をする人も、招待をしたい人の人となりを判断した上で招待を送ることになるので、結果としてコミュニティ全体の健全性には大きく貢献しそうですよね。(サービス初期にメルカリで出品したり、SNSで知らない人に送ってた人大丈夫ですか?)
①・②の対処ができれば、Clubhouseは健全性を保った状態でコミュニティをグロースできる仕組みがあると思うので、今後も注目です。
■ 最後に
Clubhouseアプリグロース徹底解剖の第2回は、Clubhouseの高いバイラル性の源泉を考察してきました。
また、コミュニティグロースに伴う、音声メディアならではの懸念と対策を掘り下げました。
最終回の第3回は、「Clubhouseのスピーカー・オーディエンスの間の強いエンゲージメント構築設計」に関して考察をしていきますので、そちらもぜひぜひご覧いただけると嬉しいです!
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