階級意識 2025年2月6日
一人の人間が一定時間の労働で生み出せる価値はおおよそ誰もが同じだろう。何倍も違うということは実感としてはないだろう。だとしたら収入もおおよそ同じになるに違いない。
江戸時代、庄屋は小作人を使って多くの米を収穫し米俵を米倉に保管した。庄屋一人でこの価値を作り出したのではもちろんない。また貧農に高利で金を貸して稼いだ。いつまでも貧しい農民は庄屋との暮らしの違いを較べて、自分の利益をかすめ取られたと理解した。故に打ちこわしはまず庄屋が狙われたのである。
工場制機械工業が導入されたとき、劣悪な労働条件で働いていた工場労働者つまり農家の娘は、金回りの良い工場主を見て、搾取されたと感じただろう。
現代、町工場で働いている労働者も、工場の社長が外車に乗っていればそう感じるかもしれない。
これらの判断はすべて、一人の人間が作り出す価値はおおよそ同じだろう、という実感に基づいている。
さて、アマゾンの集配倉庫で働いている労働者は、ジェフ・ベゾスの資産を知ったとき、ベゾスに搾取されたと感じるのだろうか。
テスラやスターリンク、スペースXで働く労働者は、イーロン・マスクの資産を知ったとき、マスクに搾取されたと感じるのだろうか。
問題は2つあると思う。
1 企業が大きくなって、労働者から役員の暮らしが見えにくくなっていること。トヨタの組み立て工場で働くアルバイトは取締役がどんな暮らしをしているか見当もつかないだろう。これでは搾取感も持てない。
2 こちらがより重大だと思うが、製造業で作り出す価値と金融・投資で作り出す価値は全く別物である。ビットコインは10年程前は1ビットコインが1万円ほどであった。乱高下しているが今は1500万円である。この暗号通貨はそれだけの価値を作り出しているのだろうか。
問題は製造業のお金と金融のお金が同じ価値として流通していることにある。金融のお金が増大して、製造業の生み出す価値を相対的に小さくしている。
テスラやスペースXは金融業ではないが、マスクがかかわる優良な投資先として見られて高い株価を維持している。マスクの巨額の資産はこの株価に関係している。故にテスラの労働者は株によって富豪になったマスクに搾取されている感を抱きにくいと思う。
以上のことから私は以下のように考える。
このような社会では、搾取された感を抱きにくく、故に階級闘争が起こりにくい。
例えば自由主義を推し進めた小泉純一郎首相(当時)を下層の人たちが応援したのは、一つの理由にこれがあると思う。
日本に限らず先進国では相対的に貧しい人が増えているが、彼らが反富裕層ではなく、極右や愛国主義や面白いことを言う独裁的な指導者を支持する理由の一つにこれ、つまり搾取感の喪失があると思う。
このような状況になっている最も大きな理由は、孤立した個人が鬱憤晴らしに威勢の良い言説を支持してしまう、ことだけれど。