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ヒトは些少は詐称する(または、小池百合子さんはどう生きるか)

新学期の初日、前期・隔週で授業を持っている北大に来ている。ついこないだまでは雪に埋もれたその広大なキャンパスも根雪は9割方消えているが、今朝はまた、急に冷え込んだ。東京から着て来た,見た目重視のチェスターコートでは、まだちょっと早過ぎた感は否めない。

さて、ホッカイロ大卒……じゃなくて、「カイロ大卒」の東京都知事が「おい、小池!」とまた叩かれている。月刊文藝春秋が、小池さんの学歴詐称疑惑を暴くべく、「自分は都知事の学歴詐称工作に加担してしまったかもしれない」とする、元側近の寝返り・爆弾告発記事を載せたのだ。詳細は同誌に譲るが、今回ばかりは小池さん、とても逃げおおせそうにない。

それにしても、世の中、なぜかくも「学歴詐称」の話題に満ち満ちているのか。今月は小池百合子さんだが、先月はドジャースの大谷翔平選手の銀行口座から多額の不正送金をしたとして球団を解雇された、同選手の元通訳・水原一平さんが、やはりアメリカの大学卒業は詐称だったことが判明したばかり。そういえば、小池さんもその昔、「アラビア語の通訳」を名乗っておられたようだし、とかく「通訳」という肩書きと「学歴詐称」とは親和性が高いのだろうか(……なことはないだろうけど)。

通訳であるとないとに関わらず、ヒトは大なり小なり、なんらかの詐称をしながら生きている。

例えば、すでに鬼籍に入っている僕の義母はだいぶ高齢になってからも「年齢詐称」の常習犯であった。ただ詰めが甘いので、総合病院の待合室で会計を待っているときなど、駆け寄って来た受付の女性に、

「星野さーん、星野さんは一体全体おいくつですか?」

と問われる始末。あちらこちらの診察科で——例えば、内科、胃腸科と——ビミョーに違う、しかも若干若めの年齢を自己申告し続けた結果、年齢の一貫性がすっかり崩壊してしまった恰好だ。

かくいう僕も、ほんのこないだまでは「身長詐称」をしていたことをここに告白する。長く身長170センチといってきたが、その実、正確には169センチ。たかが1センチ違いながら、相手に与える印象はがらりと変わる。もっとも若い頃から何十年も「身長170センチ」で通してきたのが、近年、年齢とともに上背が縮むのには抗えず……去年だか、一昨年だかの健康診断でもはや168しかない事実が判明、少なからずショックを受けた。で、さすがにこれ以上の身長詐称には無理があると観念。身長を訊かれたような際は、

「170センチあるかないか」

に答え方を改めた。

さて、本題の小池さん、仮にいよいよ「カイロ大卒」を取り下げることを甘受せざるを得ない状況に陥ったときは、その先の人生をどう軌道修正すべきか。老婆心ながらちょっと思索を巡らせてみたい。

というのも、いつの間にか「カイロ大首席卒業」の「首席」の2文字をしれっと引っ込めたときと違い、そもそも卒業そのものがウソ!で決着をみたようなとき、一人の政治家として、これまで小池さんに期待もし、票も投じてきた有権者一人ひとりに納得のいく身の処し方を示す必要がある(幸い、僕は一度とて彼女に投票したことはないが)。

少なくとも「首席」を使わなくなったときのように、説明なしで「カイロ大卒」を取り下げたり、「カイロ大好き」にすげ替えたりでお茶を濁すわけにはいかないのである。

加えて、前回、2020年に『女帝 小池百合子』が出版され、もはや小池さんもこれまでか、と誰もが思ったなか、小池さんは駐日エジプト大使館まで巻き込んで学歴詐称疑惑払拭を計った嫌疑が今回の月刊文藝春秋報道で強まっているわけだ。小池さんは、エジプト政府、さらにはエジプト国民に対してもなんらかの申し開きをする必要が出てこよう。

出直しの一歩は、まずは、事実関係を包み隠さず詳らかにすることから。卒業したのかしていないのかはもとより、仮に卒業していないのであれば、「カイロ大(首席)卒業」を使い始めた目的と経緯とを明らかにして欲しい。あるいは,それは,自分の弱さや性格的・精神的な欠陥と真摯に向き合う辛い作業かもしれない。ただ、真実を語ることなしには、あるいは自らも騙し切っていたかもしれないウソの呪縛から解き放たれることはない。

で、次に具体的な身の処し方であるが、仮に学歴詐称が確定したならば、この7月に予定されている都知事選への出馬断念は致し方ないだろう。ただ、だからといって、小池さんの政治キャリアが完全に断たれたわけでもない、と僕は考える。これは今月末の、東京15区の補選に立候補を予定している乙武さんにもいえることだが、誰しも過ちはあるし、些少の詐称はある! 大切なのは、では、この先、小池さん、乙武さんそれぞれがどう生きるか、である。

そこで、小池さんに強くつよくお勧めしたいのがこれ。いま一度、カイロ大に入学し直して、カイロ大卒業に果敢にチャレンジすること。すなわち、当面はプロフィールを「カイロ大卒」から「カイロ大生」に代えて、この先何年かかってでも、死に物狂いでカイロ大を卒業することである。

年齢が年齢だからちと無理がある? ご心配無用。僕の下で博士論文に挑戦しているNさんは高校校長経験者の70歳。小池さんといくらも違わない。いまどきは、カイロ大もオンライン授業を実装しているとすれば、あるいは東京に居ながらにしてふだんの授業には出席しつつ、時折,現地で対面授業を受けられるやもしれない。詳細は、こんなときこそエジプト大使館のツテを使って、直接カイロ大学に問い合わせしてみたらいい。

悪い冗談? いえいえ、多くの日本人が息をするように詐称を繰り返す多くの政治家の言動に憤り、その怒りはいまや沸点に達しているのだ。

ここは後付けでも構わないから、粉飾の履歴と現実の達成との平仄(ひょうそく)を合わせよう。まさに、待てばカイロの日和あり。朝、Yahoo!ニュースでついにその日が来たことを知ることをいまから楽しみにしている。

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