見出し画像

スタバのマシュマロドリームバー

昨晩から長男夫婦が遅めの夏休みを取ってアメリカ西海岸に遊びに出かけました。社交辞令で長男が、「何か買って来て欲しいものある?」と訊くものですから、咄嗟に口を突いて出たのが、

「スタバのマシュマロドリームバー!」

でありました。長男は僕に似て忘れっぽいものですから、飛行機が現地に到着する頃合いを見計らって、現物写真もLINEしておきました。コロナが流行り出す何年か前に、マンハッタン・アッパーイーストサイドのスタバでなんとはなしに撮影したものでしたが、このようなかたちで役に立つとは。

マシュマロドリームバーは、スタバ固有の呼称かもしれませんが、ほぼ同様の食べ物は、例えば、カナダ・アルバータ州の地方都市レスブリッジの地元カフェにも常備されていることは体験的に知っています。少なくとも北米ではポビュラーなソウルフード、あるいは日本の駄菓子的な位置付けなのかもしれません。

現地の友人によれば、家庭で作るのもやってできないことはない、用意するのも、ライスポップスとマシュマロとバターだけ、とのこと。「ライスポップス」は、いわばお米版のボップコーンでして、日本で言うところのポン菓子そのものです。「北米の駄菓子?」を疑う所以です。

僕は2009年9月からの1年間、ニューヨークの大学に滞在しましたが、当初の数ヶ月こそ、同じ時期に当地に留学していた長男と2人暮らしでしたが、その後、長男が独り立ちをしてからの残りの期間は、大学の用事がない限りは、マンハッタン中のスターバックスかルパン・コティディアンを転々としながら、人生何度目かの小説を日がな一日書いていました。

コーヒーの飲めない僕は、紅茶か抹茶ラテのいずれかと一緒に、ルパンでならメレンゲ(その大きさは大きなコッペパンほどで、フォークとナイフ付き!)、スタバでなら、もちろん、マシュマロドリームバーを頼むのがお決まりでした。きっとそれぞれのお店で陰では、「メレンゲ野郎」とか、「マシュマロ野郎」ないしは「ドリームバー野郎」と呼ばれていたに違いありません。

さて、自称小説家の当時の僕にとって、マシュマロドリームバーは文字通り「夢のマシュマロスイーツ」でした。そもそもマシュマロ自体のやさしい甘さが大好物ですし、1ケ=1ドルほどの安価で、しかも全体容積に占める一番のものは空気ですからカロリーも控えめ(?)。そして、何よりもルパン・コティディアンのデカ・メレンゲは食べるとそこら中がメレンゲの粉だらけになりますが、マシュマロドリームバーなら、あらかじめポン菓子が溶かしマシュマロに絡め取られていますから、いっさい散らかりませんし、ビニール袋を半分だけ剥がせば清潔かつパソコンを打つ指もネバネバする不都合からまぬかれます。

ところで、僕のマシュマロ好きの原点は那辺にありやと自問すれば、それはもう、地元・博多の銘菓「鶴乃子」(つるのこ:石村萬盛堂)以外思い当たりません。黄身餡を卵形のマシュマロで包んだその形状は、まさにツルの卵を模しているに違いありませんが、残念ながらホンモノのツルの卵は一度も見たことがありません。

鶴乃子


ただ、鶴乃子のマシュマロ部分の食感は独特で、噛まずとも舌に載せるだけで体温で溶け出すのではないかと思うほどやわらかく、儚げです。実は、今日の今日まで鶴乃子の「マシュマロ部分」はホンモノのマシュマロとは似て非なるものではないか。具体的には、製造にあたって日本ならではの材料や秘伝の製法を駆使しているのではないかと信じていました。

ただ、製法はともかく、こと材料に関しては主たる材料の卵白やゼラチンはもとより、細かいものに至るまでとり立てて違いはないようで、鶴乃子のマシュマロ状のものは、まさにマシュマロそのものと考えて差し支えなさそうです。おそらくは、ゼラチンなどの分量を工夫して、和菓子独特の繊細な「儚さ」を演出しているのでありましょう。

ただ、改めて「鶴乃子」とググってみて驚いたことも。明治38年(1905年)創業の石村萬盛堂は、鶴乃子に先んじて、同じく銘菓「鶏卵素麺」(けいらんそうめん)をつくっていたというのですが、鶏卵素麺の製造工程で、大量の卵の白身が余剰品として廃棄されるのを見かねた創業者・石村善太郎が、卵白部分を活かす製品として、新たに鶴乃子を考案したのだとか。つまりは、鶴乃子を産んだのはツルではなく、あの鶏卵素麺だったのでした!

ちなみに、鶏卵素麺は南蛮渡来のお菓子としてつとに有名ですが、実際、ポルトガル・リスボンでデンタル・インプラン術の修行をした歯科医の友人(長崎出身)が、「リスボンの街角にあの鶏卵素麺が売っていた!」「食べたらまさしく鶏卵素麺だった!」と驚愕のリポートをくれたことがありました。

ポルトガル由来の鶏卵素麺のスピンオフとして誕生した鶴乃子。その鶴乃子を幼少期からこよなく愛した僕。僕の「マシュマロ好き」はそうやって育まれ、DNAレベルに刻印されたはず。いまはただ、

「マシュマロドリームバー、食べてみたら、あれ、病みつきだね!」

という長男からのLINEをただただ待ち侘びています(あるいは、「あれ、ただのジャンクだね笑」やもしれませんが)。

追記: アメリカの長男からのLINEがこれ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?