すのこづくりも家づくりのうち?
お風呂のすのこの取り替え問題と格闘しています。本来は大工さんにお願いすれば半日仕事で、出来上がりもさぞや見目麗しいことと思いますが、その費用が5万なのか10万なのか……そこをケチるところからスタートした話です。加えて、その構造たるや、2本の角材の上に板材を等間隔で載せるだけのいたって単純なもの。中学の「技術」の時間に作った本立てで先生にエラく褒められた過去の成功体験もあって、ちょっと軽く考え過ぎていました。4枚作るべきすのこの内、まだ2枚しか完成をみていませんが、すでに費用・不器用問題の厚い壁に突き当たっています。
まずは費用問題。「4枚の内2枚」しかできていないこの段階で、プロの大工にお願いしていれば、4枚ともきれいに仕上がった上に、余った木材で「お風呂の椅子」も新調されたかもしれないほどの費用をすでに突っ込んでいます。
そもそも桧(ヒノキ)の香りに包まれて入浴、というテーマ設定から始まったこと。ネット上で良さげな材木屋さんを見繕って、寸法に合わせてカッティングから表面の磨き仕上げまでお願いしたのですが、桧の無垢材そのものが値がはる上に、「素人相手に付加価値で儲ける」のビジネススキームの完全なカモに成り下った感は否めません。材料費だけでけっこうな金額になる上、Amazonでインパクトドライバーなる工具まで買ってしまっています。
さらには不器用問題。もっとも、もとは「技術の時間の本立てで教師にさんざん褒められた」口ですから、これまでの人生、どちらかと言えば器用な部類の人間と自認してきました。ここで言う「不器用」とは、ですので、緑内障による見えづらさに由来するもの。
例えば、すのこの板材と板材を並べたときにできる隙間の丁度いい塩梅を決めるのにさえなかなか難儀する始末。言ってみれば、先天性ではない、後天性の「ぽっと出の不器用」ですから、自分が不器用であること自体に未だ慣れません。
もっとも、いまは一度全体をスマホで撮って、親指と人差し指で画像をつまんだり拡げたりを繰り返しながら全体のバランスを見ることもできます。つくづく良い時代に目を悪くしたものだ、と思います。
また、「インパクトドライバー」も(そもそも名称にインパクトがありますから)高速回転モードの一択かと思いきや、スイッチの押し込み具合で超スロー回転モードから、それこそインパクトモードまで無段階に調整できる(=無断変速機能がある)ことを使いながら学びました。木ネジの垂直具合を見るのも、添えた左手の指で刺さり具合を確かめながら右手でインパクトドライバーをそっと回していけばなんとかなります。もっとも、そんなこととつゆとも知らず、通り掛かりの家内が、
「きゃーっ! やめてやめて! 指が千切れるっ」
と大声を上げることも。確かに遠目には、案件をしくじったチンピラヤクザが、電動ドリルかなにかで自らの指を詰めさせられる光景に見て見えなくもありません。
「指詰めでも腹切りでもないのだよ。切った自腹がなかなかに痛むだけ」
もちろん、そんな自虐の冗談も言えないほどの取り込み様なのでした。
さて、我が家を設計した守田昌利先生は建築のキャリアを大工からスタートしています。後に、あの山口百恵さんの住まいとして一躍有名になったペアシティルネッサンス高輪を含む高級マンションやオフィスビルなど数多くの作品を手掛けた建築家が、実は木材そのものの扱いにも習熟していることは有り難いことなのだとか。守田先生は晩年、我が家の隣りの空き地に、平屋の終の住処を建てるのだ、と繰り返し夢を語っていました。事実、詳細な図面もすでに引かれていましたし、その日の愉しみにと(?)我が家との境界線上に大きな桜の木も植えられました。が、図面は日の目を見ることなく守田先生は鬼籍に入られました。大胆な曲面を多用したそのデザインを見た馴染みの大工さんは後退りしたとかしなかったとか。そんな大工に守田先生は、
「大丈夫。心配ないって。まずは僕がやって見せるから」
と、ケラケラと笑いながらおっしゃったそうです。そんな守田先生が生きていたとして、僕のすのこを見てなんとおっしゃったことか。失笑を禁じ得ないながらもきっと、もっともっと好きにやってみたら良い、とおっしゃったような気がします。僕が担っているのは、せいぜい1メートル×2メートルの洗い場限りのことではありますが、それでも守田先生が起案した全体設計の一部には違いありません。守田プロジェクトを継承することの喜びと責任を噛み締めながら、心して残る2枚のすのこづくりと向き合いたいと思います。
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