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カラスの親指 読書感想 ネタバレあり

道尾秀介著『カラスの親指』を読んだので、感想を書いていきたいと思います。途中からネタバレありなので(該当箇所に記載あり)、未読の方は注意してください。


あらすじ

成り行きから、悲しい過去を持つプロの詐欺師とコンビを組むことになった初老の男。ある日2人が共に暮らす家に、街で偶然知り合った少女が舞い込む。やがて同居人は増え、5人と1匹に。そして5人は、家族のような奇妙で温かな共同生活を紡いでいくことになる。

感想

結論から言うと、買ってよかったです。新しい騙され方、新感覚が味わえます。

他のミステリー小説と同様、伏線やフラグは沢山張り巡らされており、それらは全て回収されます。

道尾秀介さんは家族の絆、宿命を描くのがうまいと感じました。そしてそれはまた同著者の作品、『ラットマン』を彷彿とさせました。

笑いあり、感動ありの良作でした。

※以下重要なネタバレを含みます

テツさん=まひろ達の父親説は、頭の中にありました。

ただ残念ながらそれを裏付ける根拠はなく、カンでした。

また、テツさんじゃなかったとしたら、登場人物の誰かがまひろ達の父親なのではないか、少なくともなんらかの形で父親が登場してくると予想していたのは僕だけじゃないはず。

理由はまひろたちの父親のメモと、武沢がその筆跡に見覚えがあったという箇所や、少女の名前をましろではなくまひろにした理由が不明瞭なまま物語が進んだ点です。

しかし、最後の大作戦だけでなく、最初から最後まで全てテツさんが企てていた壮大な計画だったとは。完全に騙されました。

感動した場面は、まひろの名前の由来です。

「この世の中は、真っ白な心を持った人間が生きていけるような場所じゃない。だから『まひろ』にしたんですよ。白い心より、広い心の方がいくらかいいでしょ。」

このセリフには共感しました。たしかにそうです。真っ白な心でも生きていけるなら良いんですけどね。

まして今の世の中、この小説以上に殺伐としてますからね。真っ白な心が希少価値を持つくらい。

また、人間は人間を信頼しないと生きていけない、それを利用して飯を食う詐欺師は人間のクズ、闇金と同類、と言うテツさんのセリフも印象深く、自分のしてきたことを悪だときちんと受け止めている潔さが分かる言動でしたね。

テツさんの人柄ですが、
彼は武沢の境遇を知って、奥さんが亡くなったのはすべて詐欺の道を選んだ自分の責任だと感じています。

恨む矛先が取り立てをした武沢に向かってもいいところを。そこに、『親指』としての役割をもつテツの懐の深さが凝縮されていると感じました。

そしてラストのラストでは、沙代の名前が出てきて感動。

基本的に面白いところが多かったのですが、
反対に肩透かしを食らったところは、トサカのくだりと闇金のくだりです。

トサカの擬似死亡シーンはえげつないくらいリアルで泣きましたし、そのトサカが実は生きていた、しかもそれはテツさんの仕込みだったというのは少しやりすぎ感。

しかもまひろ達は本当にトサカがグロテスクに死んだと思ったまま物語終わってませんかね…?

そして闇金のくだりは、テツさんが実は既にヒグチにやり返していて終わり、と言う形なのですが、どうも釈然としません。なぜならこの本の本題は、5人と一匹による復讐劇だと思っていたからです。正直もっと闇金グループに一杯食わせるところが見たかったです笑 そこも含めて作者にしてやられた、というところなんでしょうが、ヒグチ単体を絶対悪に仕立て上げるエンドはスッキリはしませんでした。

しかし、悪いところを並べましたが、詐欺やマジックに対する筆者の考え方と姿勢をただ客観的に目視するだけでなく、この本を通じて自分が体験することができたり、上記に書いたもの以外にも沢山の名言があった為、総じて良い本でした。

この本が気に入った方は、

こちらもおすすめです。未読の方は是非。

最後までご覧いただきありがとうございました。



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