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盲点だった「商品にする」発想 おカネの教室ができるまで⑲
「できるまで」その3商業出版編の第4回です。総集編その1とその2のリンクはこちらから。面倒な方は文末の超ダイジェストをご覧下さい。
「小学生では無理がある」で同意
ミシマ社とインプレスの共同レーベル「しごとのわ」からの出版が決まった2017年6月の時点で、私はロンドンに住んでいた。編集アライとのやりとりは基本メール、たまに電話、またはLINEの動画通話。根が昭和なオジサンには、少々落ち着かないインターネッツな共同作業だった。
商業出版に際して「おカネの教室」Kindle版を全面リライトすることは決めていた。編集アライに送ったメールを見返すと、最初にこんな提案をしている。
・中学2年生という設定に変える。
・章をまとめるなら4月から8月までの5章、プラス、エピローグ
・寄り道の薀蓄をどこまで削るべきか。
・キャラや場面のイラストを入れるなら、「りんごかもしれない」のヨシタケシンスケさんのようなシンプルな線画がいいかもしれない
「主人公2人を中学生にする」というのは、すでにそれまでのメールのやり取りで合意していた。
7年の家庭内連載のうちに読者=長女は10歳から16歳まで成長していった。「おカネの教室」が後半からややレベルの高い内容になっていくのはこのためで、「こんな賢い小学生は非現実的」という指摘は多かったし、書いているときも「ちょっと無理があるな」と感じていた。
2番目の構成、3番目の「削り」については後々、リライトや本づくりの過程で、高井・アライ間でかなり熱い議論が持ち上がる。見返して、「ああ、『バトル』の火種は初めからあったのだな」と感慨深いものがある。
結局、章立てと構成は最初の私の提案に着地したわけだが、本づくり全体を通じて、最も熱かった争点は以下の2つだった。
①どこまでビジネス書寄りの作りにするか
②タイトルを変更するか、しないか
この辺りは、今後の連載で取り上げたい。
大幅圧縮の舞台裏
今回は「削り」の経緯だけ詳しくまとめておこう。
家庭連載版の初稿とKindle版、商業出版に向けたリライトのバージョン1~4までの文字数・ページ数は以下の通りだ。
ご覧のように、家庭内連載版と比べればほぼ半分、Kindle版と比べても3割もの削りを入れている。
Kindle版へのリライトについては、「削って、削って、削る!」の回を参照願いたい。
そこからリライト1へは、6%カットとマイルドなスリム化だ。これは、「主人公たちと読み手が小学生」という前提を取っ払って語彙の説明や表現を整理するだけで減った、いわば「自然減」だった。中学生設定にしてみると、心理描写や講義の進行もとても自然になり、快適に書き直せた。実際、着手して1週間ほどでリライトは終わった。
問題はバージョン1からバージョン2への2割弱、そして最終バージョンにかけての1割強の圧縮だった。
「圧縮大作戦」は、編集アライからの1本のメールから始まった。
1ページを39字×15行づめにすると380ページoverという状態でして、読み物ビジネス書だと、ページ数がいっても240ページかな…というところなので、けっこうざっくり、カットする必要がありそうです。
サクっと書いているが、これは「4割削り」という意味だ。
「それは、ない!」
私はすかさずと反論メールを送った。
手元の愛読書を例に引いて、400ページぐらいの本はソフトカバーでゴロゴロしてるし、「変な本」としての独自性が損なわれるといった主張を展開し、削り路線に徹底抗戦する構えつもりだった。テイストと質を変えないで削れるのは1割程度が限界だと具体的な逆提案もした。
しかし、私は、編集アライからの次の返信をもらって、自論を撤回して大幅な圧縮に合意した。それは、2つのポイントから、削りの必要性をズバリと指摘するものだった。
①「経済初心者」には、400ページはハードルが高い
②価格を1500~1600円にしたい。400ページでは1800円程度になる
恥ずかしながら、2点とも、私には盲点だった。
私は「本の虫」で、面白い本なら分厚い方が嬉しいという人間だ。
しかし、「おカネの教室」は、「経済書など読まないヒト」をターゲットとする本なのだから、気軽に手にとれるボリュームにするのは必須だった。
それ以上に私が「参りました」と思ったのは、価格だった。1800円だと税込みで2000円近くなる。
「それは、ない…」
つまるところ、私には「本を商品として仕上げる」という思考が欠けていたのだ。
Kindle版はほぼノーコストで出版できて、価格も自由に決められた。無料キャンペーンなどという、商業出版ではありえない手法も使えた。
「モノとしての本を買ってもらう」のは、全く別の世界なのだった。
編集アライの、単に安くしたいのではなく、翻訳ものなどと競合するその辺りの価格帯では「この本の良さが生きない」という言葉には、グッと来るものがあった。
最終的に「おカネの教室」は270ページ、税抜き1600円で発売される。
削りに合意した私に、編集アライからは「ひとまず2割減でやってみましょう」という妥協案(?)が来た。
腹を固めて削りに着手してみてすぐ、私はそれが非常に良い選択だと確信した。明らかにコンテンツとしての質が上がっていったからだ。結局、7年もかけて書いた作品への愛着が「できるだけ手を入れたくない」という執着心になっていたのだった。
蛇足ながら、最終局面で編集アライから再度、「1500円にしたいからもう1割削れませんか」という提案があり、私が「それは、ない!」と拒絶する一幕があったのを付記しておきたい。
私としては、その段階でリライトをやり切った手ごたえがあった。現状は、「おカネの教室」という作品のテイストを味わってもらえる「最短・最良」の形に仕上がっていると自負している。
次回は、どうやってコンテンツが練られていったかを詳しく紹介したい。
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「おカネの教室」ができるまで、ご愛読ありがとうございます。
最終編のシリーズ3の商業出版編、ボチボチと書いていきますので、ごゆるりとお付き合いください。
「お金の教室」のわらしべ長者チャート
娘に「軽い経済読み物」の家庭内連載を開始
↓
作中人物が独走をはじめ、「小説」になってしまう
↓
出版の予定もないし、好き勝手に執筆続行
↓
連載開始から7年(!)経って、赴任先のロンドンで完成
↓
配った知人に好評だったので、電子書籍Kindleで個人出版
↓
1万ダウンロードを超える大ヒット。出版社に売り込み開始
↓
ミシマ社×インプレスのレーベル「しごとのわ」から出版決定←いまここ
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