「良い円安」と「悪い円安」
円安は日本経済にとってプラスか、マイナスか。
これって割と議論が盛り上がるテーマですよね。
なぜ盛り上がるかといえば、「どっちとも言える」からでしょう。
どんなジャンルでもそうですが、正解があるなら、片方は「分かっている人」、もう片方は「分かってない人」なだけです。「たとえば」と適切な例を出そうと思いましたが、「分かってない人」に突撃されるのでやめておきます。
正解はない、と予防線を張ったうえで、私の見解を述べますと、今の円安は日本経済にとってマイナスだと思っています。
特にここ最近の円安は、芳しくない展開だな、と心配しています。
なぜなら「こうなったら嫌だな」と想定しているシナリオへと傾いている気配がするからです。
ここからは有料ゾーンにします。
今の円安の震源地は米国の長期金利上昇です。
10年債利回りは、4%台が定着するかな、くらいの動きだったのが、4.5%を目指すかも、という雰囲気になってきた。背景にあるのは米国の利下げがペースダウンするかも、という観測です。
日本の利上げの見通しはそんなに変化がないし、そもそも、上がったとしても米国ほどのダイナミズムがないので、円相場は相変わらず「米国の金利次第」です。
ここまでは常識的な、というか、一般的な見方。
ここからは私のヤマ勘みたいなお話です。
今の米国の金利上昇は「利下げペースが鈍りそう」という材料だけでは説明が難しいのではないか、と私の目には映ります。
ドットチャートが示すように、「ペースは鈍っても、今回のサイクルで3%台前半まで行くでしょ」という見通しに疑念が生じているように見える。
そして、この動きが冒頭に書いた「こうなったら嫌だな」というリスクシナリオと重なっている気がするのです。
リスクシナリオは、ずばりスタグフレーション、景気悪化と物価高の同時進行です。
「利下げペースが緩む」という見立てが増えたのは米国経済がそれほど急減速していないからなので、景気の心配をするのは気が早い。
でも、マーケットはもう「その先」、景気が悪化してもFRBが金利を下げられないジレンマに陥る筋書きを見ているのではないか。
実際、金利と物価高が居座る材料はそろっています。
火元のひとつは財政悪化。超党派で組織する「責任ある連邦予算委員会」はトランプさんが勝ったら10年後までに7・5兆ドルの財政赤字、ハリスさんが勝っても3・5兆ドルの赤字要因になると予想しています。
需要をふかしつつ国債を増発するのだから、ダブルで効きます。
別の火種は関税です。
トランプさんが勝ったら、対中国のみならず、「ディール」のためにあちこちに関税の脅しをかけそう。コストを払うのは米国民なんですけど、どうやらメカニズムをご理解していないご様子。
ここに地政学リスクというテールリスクが絡むと、エネルギー・一次産品がごっそり値上がりするウクライナ・ショックの再燃のような事態があり得る。
これ、全部が重なると、FRBが打つ手がない。下手したら再利上げか、という話になる。
もっと打つ手がないのが日本。焼け石に水の介入にとどまらず、下手したら通貨防衛のための利上げ、なんていう新興国みたいな手段が必要になる恐れもある。
心配しすぎ、かもしれません。
でも、ゴールドの強さが、とても嫌な感じがするんですね。
利下げがトーンダウンして金利が上がっているんだから、ゴールドは売られなきゃ筋が通らない。
なのに逆行高している。
ここに「ろくでもない金利上昇」のにおいがするのです。
やっぱり、金が上がるのはろくでもないのです。
だから、ろくでもない事態に備えて金を持っておくわけです。そのあたりはこちらをご参照ください。
以上のシナリオは「こうなったら嫌だな」であって、メーンの予想ではありません。
最後に「良い円安」「悪い円安」論について少しだけ補足。
現状を「悪い円安」ととらえているのは、ものすごく単純化すると、購買力平価からの乖離が大きすぎるからです。内外物価差が大きすぎる。円が安すぎて、輸入コストや海外でのアクティビティ(個人なら旅行)の負担が重すぎる。
「輸出や企業業績は伸びるし、工場誘致も進むし、株価だって上がる」という理屈は、円の購買力が保たれている範囲内でしか成り立たない。極端な話、日経平均が10万円になったって、円相場が1ドル500円に暴落したら、日本人は貧乏になりますよね。現状はそこまで極端ではないけれど、「そっち方向」の円安だろうと私は思います。
デフレ気質の改善のキックとしては、円安は良いカンフル剤になったけれど、何事にも「ほど」がございます。
ちょっと長くなってしまいました。
「ここ、よく分からない」「このあたり深掘りを」というリクエストがあれば、掲示板までお気軽に。
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