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「おカネの教室」ができるまで③深夜の閃き

設定は「パクリ」

家庭内連載を始める時点で、「お金と経済」というテーマ以外に決まっていたことがあった。「おカネの教室」というタイトルと、男の子と女の子の二人を相手におかしな講師が講義をするという設定だ。
これは、野矢茂樹さんの「無限論の教室」から拝借した。無限という概念に関する見解と超わかりやすいゲーデルの不完全性定理の解説を展開する同書は、繰り返し読んだ愛読書だ。家庭内連載だったから、ためらいなくパクってしまった…。

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小学生でもわかるように書く

当時、唯一の読者だった長女は五年生だったので、感情移入しやすいように登場人物の少年少女も同学年にした。読者ニーズとして、また物語内の必然性として、「小学生でもわかる言葉で書く」ことも決まった。(書籍版では二人は中学生に設定した。「こんな賢い小学生、いるはずない!」という声にお答えした。ごもっとも)
小学生にもわかるように、というのは、言うは易し、というやつで、果たしてどんなストーリー運びにすれば、面白く、先が気になって、登場人物に共感できるような読み物になるのか、なかなか見えてこなかった。「無限論の教室」を再読したり、他の小説をパラパラ読んだりして、しばらく構想を練った。

その過程で、これは外せない、という要素がいくつか固まっていった。

まず、「かせぐ」に当たる、付加価値の創造と経済成長というテーマ。ここには「お父ちゃんが稼いでいるから、君はご飯を食べてかわいい服を着てお小遣いももらえるのだよ」と理解させたいという、かなり利己的(?)な動機があったのは否めない。

お金はトリッキーで付き合い方は難しい、特に借金という行為は要注意だということも知ってほしかった。これは私の骨がらみのテーマで、子供時代、親の借金で貧乏暮らしをした経験が色濃く出ている。その延長線上にある、貧富の格差といった問題も盛り込みたいと思った。

むろん、こんな説教臭い内容を並べても、娘は読んでくれないし、書いていて楽しくもない。お金の不思議さ、面白さ、お金って何なんだろうという問いを、どう楽しく、わかりやすく伝えるか。

ある夜のヒラメキ

頭の中でとりとめもない大風呂敷が広がっていたころ。仕事を終えて深夜に帰宅したある日、いつものように缶ビールを一本飲んで布団に入り、習慣になっていた寝る前の一人企画会議で、「『かせぐ』とか『ぬすむ』といた和語の動詞で経済活動を分類すれば、小学生でもとっつきやすいんじゃないか」というアイデアが浮かんだ。そして、「お金を手に入れる方法って、そんな感じで表すといくつあるのかな」と数えてみた。

すぐに思いつくのは、上記の2つに「もらう」「かりる」「ふやす」を加えた5つ。そして、ちょっと考えて、6つ目の方法も思い浮かんだ(肝の部分なのでネタバレは避けます。気になる方は本をご覧ください)

その後30分ほど、いろいろな経済活動を点検してみて、この6つでほぼすべてが説明可能だと確信した。しかも、6つ目はお金の本質を握る意外な方法で、娘はそうそう気づきそうにない。「これで引っ張れば、最後まで読まざるを得ない、面白いモノになるぞ」と興奮して、その夜はなかなか寝付けなかった。

舞台設定とストーリー展開の軸は固まった。あとは3人の魅力的なキャラクターを配置すれば、なんとでもなるだろう。「これは面白い連載になる」という予感を抱きながら、人物の造形に取り掛かった。

次回は、「3人組誕生」です。お楽しみに。

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