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なぜ「安いニッポン」なのか直視しよう(無料記事)

きょうはコンパクトにこちらを。

ビッグマック指数の時給版。
「外食で1時間働くとビッグマックがいくつ買えるか」を国際比較した記事です。元のビッグマック指数は物価をくらべる英Economistの名物ですね。
記事の内容はとても面白いので一読をオススメします。
この文章では、元日経記者として、ちょっと嫌らしい視線で解説を。

著作権を尊重して図表は割愛しますが、おもな国の時給版ビッグマック指数はこんな感じです。

日本 2.18個
韓国 1.79個
米国 2.52個
英国 2.56個
豪州 3.95個

皆さん、どう思われますか。私は「そうそう、あまり差がないんだよね、実は」とあらためて思いました。オーストラリアは別にして。
このデータで、

「スマイル」安いニッポン

という見出しをつけるのは、無理があるのでは。
見出しでありきで記事を作ったのかなー。できあがった紙面をみた偉いオジサンが「そんな違わなくない?」と突っ込んだところが目に浮かぶ(完全に妄想です)。

ロンドンに住んでいたころは、「1ポンドは100円」と自分に暗示をかけていました。当時のレートは1ポンド130~150円くらい。今は190円台です。
現地に住んでると、1ポンド100円だと思わないと、何も買えないんです。
たとえばラーメン。7年前の駐在当時1杯12ポンドとかで、今は13~14ポンドくらいでしょうか。素ラーメンです。
単純な円換算だと2000円余裕で超えます。家族5人で1万数千円。でも、1ポンド100円なら千数百円なわけです。「ロンドンでラーメン」なんだから、そんなもんだろう、と。観光地とかリゾートなら日本でもそれくらい取るでしょう。

賃上げのペースが世界より日本の方が鈍いのは確かです。でも、物価上昇率も日本の方が低いから、バランスを著しく欠いているわけでもない。
だから、1時間働いたら、ビッグマックが2個買える。そんなに食えないだろう、というのは別にして。

ドメスティックな賃金の体感は「欧米と大して変わらない」わけで、問題は記事の2つ目のグラフで比較しているドル建て賃金でしょう。
日本は19年に8.6ドルだったのに、24年に7ドルになっている。

ほとんどの国はこの5年でドル建てでも時給はしっかり上がっている。対ドルでは通貨は下落している国が多いのでは、と思うので、現地通貨建てでも賃上げがしっかりあったはず、ではある。

それにしても、日本の大幅なドル建て時給の低下は異常です。
これは、異例の金融緩和と超円安の副作用ですよね。1ドル110円から150円まで円安になったんだから、そりゃドル建てでは下がるだろう、と。
時給ベースの購買力平価はパッと数字が出ないのですが、物価ベースの購買力平価だと適性レートは1ドル100円くらいのはずです。いろいろ推計に幅があるのでピッタリと「正解」はないけれど、賃金・物価の国際比較で見て、円は3~5割は「安売り」されている。良い悪いは別にして。私は「悪い」と思っていますが。

日経の記事に戻ると、電子版では労働分配率まで盛り込んで、もっと賃上げしようよ、というトーンになっています。
円という現地通貨建てで見ても遅れているのは確かなので、指摘はごもっともだし、グラフは見やすいし、価値のある記事です。

でも、円安という要因は「円安もあって」の一言なのは、どうかな、と。
経済が苦手な人はクリアに全体像が見えないでしょうし、詳しい人からしたら「これ、円安でほとんど説明できるじゃん」となるような。

ここからは再び妄想。
なんとなく分かるんです、記者の苦労は。
円安にしっかり言及すると「安いニッポン」は賃金のせい、というロジックが弱まるから、今回はこっちにフォーカスしよう、と。
今朝、紙の紙面を先に見た時には、「電子版では分量を割いて補ってるのかなー」と思ったのですが、この投稿のために読んでみたら、一言だけでした。「1コマくらいは『押さえ』で入れた方が親切なのに」と思った次第。
でも、偉い人に突っ込まれるリスクを考えると、こっちの方が無難なのかなー(笑)
大きなお世話ですね。

円安と日本人の豊かさについては、こちらもどうぞ。

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