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「リスクを取らないリスク」について 2人の賢者の言葉(無料記事)

本を漁っていると、何年かに一度「座右の書」に出会う。
一番最近の例が『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』(以下、『ラヴィカント』)だ。2023年の春、日経新聞に辞表を出す直前に読んだ。

『ラヴィカント』は、私にとっては、目から鱗がポロポロ、というタイプの本ではなかった。どちらかと言えば「考えていたことを言語化してくれてありがとう」という方向の本だ。
資本市場、市場経済、人生観、知識と読書についての考え方、健康法の一部まで、自分の考えにとてもよく似ている。
私より物言いが率直なので、「自分で言うと感じが悪いな」というテーマを引用の形で示せて、大変重宝している。
とても読みやすい本なので、未読ならぜひ。文章の歯切れがよく、どこからでも入りやすい&読みやすい本だ。10代後半から20代でこの本に出会えれば、多くの人に有益だろし、1%くらいの人は人生が大きく変わるのでは。

ラヴィカントの言葉

全文引用(それは剽窃)したいような本なのだが、今回はリスクについて言及した金言を引用する。

説明責任を引き受け、君の名のもとに事業リスクを取れ。社会はその見返りとして君に責任、エクイティ、レバレッジを与えてくれる。

『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』

「リッチになるには、レバレッジが絶対に欠かせない」というのが本書の柱で、レバレッジは3種類あると説く。労働(人)、金(資本)、コードとメディアの3つだ。3つ目がピンと来ないかもしれないが、そこは読んでのお楽しみ。

先ほどの金言の補足説明の中で、ラヴィカントは「自分の名のもとに失敗するリスクを張れる人が、莫大な力を得る」と説く。リスクとは「君が自己資金を回収する順番がおそらく最後になるということだ。君が自分の時間に対する報酬を得る順番が最後になるということだ。君が会社に費やした時間と、費やした資金--それを失うリスクがあるということだ」だという。
これらは起業家を指しているが、「エクイティを持て」「そうでなければアップサイドはない」「少額株主でも良い」とリスクテークの重要性を重ねて強調している。

山崎元の言葉

先日、亡くなった山崎元さんの『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』を読んだ。正確に言うと、買ってすぐパラパラめくった後、積読になっていたのを通読した。
こちらも私の価値観に近く、「言いにくいことを代わりに断言してくれる」と感じる1冊だった。こちらも未読ならぜひ。

しっかり読んでみて、『ラヴィカント』との共通点の多さに気付いた。
まったく違うキャリアのふたりだが、突き詰めて考えるとこうなる、ということだろう。進化の「収斂」みたいなものだ。
キャリア形成とリスクについて、印象深い部分を引く。

適切なリスクを取り続けること、他人とちがう労働力になる工夫が必要なのだ。「リスクを取らずに、他人と同じように働きたい」という希望を持つと、不利な側へ、不利な側へと経済的な「重力」が働く。
経済の世界は、リスクを取ってもいいと思う人が、リスクを取りたくない人から、利益を吸い上げるようにできている。このことが、今はよりはっきり現れつつあり、現在、その気づきの効果が大きい。

『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』

この後、「ではどうしたら良いか」という具体的アドバイスが続く。
いずれも的確な助言で、こちらも「若いうちに読んでいれば人生変わるだろう」と思える本だ。

誰もがリスクを取っている

リスクをとってエクイティを持たなければ、大きなリターンはない。
「コツコツ働く人が報われない社会はおかしい」という反論が聞こえてきそうだが、リスクを取っている人がコツコツと努力していないわけがない。
起業なんてしたら、コツコツどころの騒ぎではない。報われないリスクを取った上でゴリゴリやっている。
「コツコツ」の報酬は労働時間とスキルに比例し、「リスク+ゴリゴリ」の報酬にはレバレッジがかかる(可能性がある)。
そして、経済成長を生み出すのは、後者のような営みだ。
死屍累々の恩恵を「コツコツ」の人も受けている。詳しくはこちらを。

リスク無くしてリターンなし。市場経済は、そういうゲームだ。
2人の賢者はそう口をそろえる。私もそう思う。
身も蓋もないけれど、「投資なんてギャンブルだ」という言説よりは現実的で、誠実だと私は思う。
一歩引いて考えると、こうした言説自体が「『投資で損をした』と責められるリスク」を取っている。

「投資なんてやめておけ」と言っておけば、信じた人の名目ベースの元本は守られる。言う方もノーリスクに見えるが、実際には「物価変動や円安で購買力を失うリスクを取れ」と勧めている。

生きている限り、リスクは避けられない。
適切なリスクを、適切に取る。これが狭い意味なら金融リテラシー、広い意味なら人生のリスクマネジメントの要諦だろう。
きょう挙げた賢者2人の本は、そのヒントを与えてくれる。

なお「投資や金儲けのことばかり考えてどうする」と思う方こそ、読んでみてほしい。この2冊の視野は「その先」を見ていることにある。短く引用する。

とうとう富を手に入れたとき、君の求めていたものが富でなかったことに気づくだろう。

『シリコンバレー最重要思想家ナヴァル・ラヴィカント』

人生の幸福感はほとんど100%が「自分が承認されているという感覚」(「自己承認感」としておこう)ででてきている。
(中略)
「豊かさ・お金」が少々必要かもしれないが、要素としては些末だ。

『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』

最後に拙著から蛇足の引用、カイシュウ先生の言葉を付け足して終わりとする。

「たかがお金、しかし、されどお金です」

『おカネの教室』

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