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「おカネの教室」ができるまで⑦ロンドン!
まさかのBREXIT
2016年3月末、私は本業の新聞編集の関係で、ロンドンに赴任した。
英語がそう得意でない身にとって、初めての海外生活はなかなかの難行だ。
日々の買い物や食事、散髪(トルコ人の床屋でバリカンの「番手」を聞かれて呆然となった)、銀行口座開設から家探し、子供の学校探し、自家用車の購入に公共サービスの契約などなど、一つ一つがちょっとしたミッションで、5月の家族の合流までに生活を軌道に乗せるので精いっぱいだった。
幸い、理解のある上司で、「仕事は焦らず、向こう半年は慣れることを優先せよ」と寛容な指示をいただき、私もそのつもりでマイペースを保っていた。
あの、運命の6月23日までは。
2016年6月23日、イギリス国民は大方の予想を裏切って、国民投票で欧州連合からの離脱、いわゆる「Brexit」を決めた。
詳細は省くが、そこからは怒涛の日々が始まった。とてもじゃないが、「おカネの教室」に割く余力は無かった。
(日本を立つときに長女がプレゼントしてくれたイラスト。右上から時計回りに奥さん、長女、三女、次女)
のだが、人間とは不思議なものだ。
忙しくなるほど、「何か仕事以外で発散したい」という思いが強くなった。
ロンドンでの私の役回りは、「海外駐在記者の仕切り役」だった。自分で記事を書くことはほぼない。Brexit騒動が少し落ち着くと、むやみに趣味のLEGOブロックの作品を多産してみたりしたが、創作意欲を発散するには不十分だった。
(憂さ晴らしに作ったオリジナルLEGO作品の1つ。作者もカイシュウ先生やサッチョウさんと同じく元バスケ小僧)
今書かなければ、一生書けない
ちょうどそのころ、雑談のはずみに、ロンドンのオフィスで仲良くなった3人のベテラン女性記者に「子供向けにこんなもの書いているんですよ」と「おカネの教室」を見せる機会があった。長女と次女以外の読者に読んでもらうのは初めてだった。
クールなYさんからは「いいんじゃないですか」とクールな反応が返ってきたが、あとの二人、良い人オーラあふれるOさんと、ちょっと毒舌のAさんからは「面白いし、気になるから、早く続き書いて」とリクエストされた。
家庭内連載バージョンは、家族の内輪ネタも多く、寄り道だらけの読み物だった。それでも楽しんでもらえて、「あ、これ、大人が読んでも面白いんだな」と、かなり嬉しかったものだ。
同じころ、中一になり、じっくり読んだ次女から「続き、書かないの?」と催促されるようになった。長女は「続き、書けばいいのに」ぐらいのテンションだったが。
こうしたリクエストとは別に、私のなかで「時間がとれるロンドンにいる間に、何とか1つか2つ、小説を書き上げたい」という気持ちが強まっていた。若いころから小説好きで、いつかは、と思い続け、その時も2~3の構想を温めていた。この時点では「おカネの教室」は、あくまで「その前に片付ける私的読み物」でしかなかった。
ロンドンは東京の新聞製作との時差が絶妙で、仕事はそれなりに忙しいものの、勤務時間はきわめて「ホワイト」だった。
「今、書けなかったら、自分は一生、小説を書きあげることはできないだろうな」。そんな思いが、執筆中断に伴う「苦役」に立ち向かう力をくれた。
再び動き出した物語世界
意を決して、「まずはこれを片付けよう」と、もう一度、「おカネの教室」を丹念に読み返した。
久しぶりの再読で新鮮味があったのがよかったのか、のんきにも「これ、面白いじゃないか」と自分で感心してしまい、同時に「続きが気になる。最後はどうなるのだろう」という興味がよみがえった。
こうなると、手ぐすね引いてまっていた3人組が頭の中に復活するのにも時間はかからなかった。
凍り付いていた物語が、再び動き出した。
次回は、ついに完結、です。お楽しみに。
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