【血が漏れ出る?】脾不統血(ひふとうけつ)脾の前提知識⑥
脾不統血(ひふとうけつ)は、脾の機能が低下して血を体内にしっかりと保持する力が不足している状態を指します。これは脾の「気」が不足することで、血液をコントロールする能力が低下し、血が漏れ出てしまう現象です。脾の「気」が血を保持する機能を失うことで、体内でさまざまな出血症状が現れます。
脾不統血とは
脾不統血は、中医学の概念であり、脾が血を統制する力を失った状態を指します。脾は食物から気や血を生成し、体内に血液を留めておく働きがあります。しかし、脾の気が不足すると、血液を血管内に保持する力が弱くなり、血液が漏れやすくなるという病態です。
脾不統血の主な原因
脾気虚の進行: 脾の「気」が不足した状態である脾気虚がさらに悪化し、血を統制する力が完全に弱まることで、脾不統血に至ります。
慢性的な疲労や過労: 長時間の仕事や過度のストレスが脾の気を消耗し、血を保持する力を低下させます。
不適切な食生活: 冷たい飲食物の摂りすぎ、偏った食事、消化の悪い食物などが脾を傷つけ、機能が低下します。
長期にわたる病気: 慢性的な病気や感染症などで体力を消耗することが、脾の機能に悪影響を与えます。
脾不統血の症状
脾不統血の症状は、血液が体内にうまく保持されず、さまざまな出血が起こることによって現れます。具体的な症状は以下の通りです:
皮下出血: 血管が弱くなり、軽い衝撃でもあざができやすくなります。皮膚の下に出血が起こるため、あざが広がることがあります。
鼻血: 鼻の粘膜が弱くなり、頻繁に鼻血が出ることがあります。
血尿: 尿に血が混ざり、赤みを帯びた尿が排出されることがあります。これも血液が漏れている兆候です。
血便: 消化管内で出血が起こり、便に血が混ざることがあります。赤い血が見えることもあれば、黒っぽい便になることもあります(消化されて黒くなるため)。
痔による出血: 肛門周囲の血管が弱くなり、痔から出血することがあります。これは、脾の気の不足によって血管が脆弱化しているためです。
不正性器出血: 女性の場合、不正な性器出血や月経量の異常が見られることがあります。
経血過多: 生理の出血が通常よりも多くなることがあります。これも脾の気が血を統制できないためです。
脾不統血のメカニズム
脾は血液を統制する働きを持ち、血が血管の中を正常に流れ続けるようにしています。この機能が弱まると、血液が血管外に漏れ出し、出血症状が起こります。脾不統血は、特に脾の「固摂(こせつ)」作用(血液や体液を保持する力)が低下している状態といえます。
営気(えいき)と脾不統血(ひふとうけつ)の関係は、中医学において、血液の生成とその統制に深く関わっています。これらの概念を理解するために、それぞれの働きとその関連性について詳しく説明します。
※気には種類があります。その一つが営気といい詳しくは中医基礎理論で解説します。
営気とは
営気は、気の一種であり、栄養分を含んだ気のエネルギーのことです。営気は、飲食物から得られた栄養分を脾が変化させて作り出し、血液とともに体内を循環して各組織に栄養を供給します。営気は主に以下のような役割を担っています。
血液の生成: 営気は血液と密接な関係があり、血を作るための原料として働きます。
栄養供給: 営気は血液に乗って全身に栄養を届け、体の各組織を潤し、健康を維持するためのエネルギーを供給します。
営気と脾不統血の関係
営気と脾不統血は以下の点で関連しています:
血液生成の影響: 営気は血液の生成に重要な役割を果たします。脾は営気を作り出す臓器であり、脾が健康であれば、営気がしっかりと生成され、血液も豊かに作られます。しかし、脾が弱って営気が十分に作られないと、血液の量や質が不足します。その結果、血を保持する力(固摂作用)も低下し、脾不統血の状態に陥りやすくなります。
脾の気と営気の関連: 脾の気は営気の生成を助けるエネルギーでもあります。脾の気が不足すると営気の生成も低下し、体に必要な栄養やエネルギーが供給されなくなります。これにより、血を統制する力が弱まり、出血が生じる可能性が高まります。
固摂作用の低下: 営気が不足すると、脾が血を血管内に保持する力も弱くなります。脾は営気の助けを得て血液を統制していますが、営気が不足することでその機能が低下し、血液が漏れ出しやすくなるのです。
脾不統血の改善に営気の補充が必要
脾不統血を改善するためには、脾の気を補うことが大切です。脾の気が補われると、営気も増え、血液を統制する力が強化されます。具体的には、以下のようなアプローチが取られます。
気を補う漢方薬: 補中益気湯などを用いて脾の気を補い、営気の生成を促進します。これにより、血液の生成が活発になり、血を統制する力が回復します。
栄養を考えた食事: 営気を補うために、消化吸収の良い食事(温かく栄養価の高い食べ物)を摂ることが推奨されます。これにより、脾の機能が強化され、血を保持する力が向上します。
営気と脾不統血は密接に関係しています。営気は血液の生成に不可欠であり、脾が営気を十分に作り出せないと血液の量や質が低下します。その結果、血を統制する力も弱まり、脾不統血の状態が引き起こされます。したがって、脾不統血を改善するためには、脾の気を補い、営気を充実させることが重要です。
改善方法と漢方薬
脾不統血の改善には、脾の「気」を補うことが重要です。以下の漢方薬がよく用いられます:
補中益気湯(ほちゅうえっきとう): 気を補い、脾の機能を高める漢方薬です。脾を強化することで血液を血管内に留める力を回復させます。特に、慢性疲労や体力の低下によって脾の働きが弱くなっている場合に効果的です。
芎帰膠艾湯(きゅうききょうがいとう): 出血を止める効果があり、補中益気湯と併用することでさらに効果が期待できます。不正出血や経血過多に特に有効です。
田七人参(でんしちにんじん): 止血作用が強く、補中益気湯に加えて使用すると効果が高まります。ただし、価格が高めなので、使用する際には予算を考慮する必要があります。※妊娠後とかに使います。
生活習慣でのケア
栄養バランスの取れた食事: 温かく、消化の良い食事を心がけましょう。特に温かいスープや煮物などが脾の働きを助けます。
冷たいものを控える: 冷たい飲み物や生ものは脾を傷つけることがあるので、控えるようにしましょう。
適度な休息: 過労を避け、十分な休息を取ることが脾の回復に役立ちます。
ストレス管理: 精神的なストレスも脾の機能に影響するため、リラックスする時間を設けることが大切です。
適度な運動: 血流を良くするために、軽い運動を習慣にするとよいですが、無理のない範囲で行うことが重要です。
まとめ
脾不統血は、脾の「気」が不足して血液をコントロールできない状態です。これにより、さまざまな出血症状が引き起こされます。脾を強化するために、気を補う漢方薬を使用し、生活習慣を整えることで改善が期待できます。特に、食生活やストレス管理に注意を払い、脾を労わることが大切です。