【子宮内膜症と西洋医学】中医婦人科学
子宮内膜症についての西洋医学的解説
1. 子宮内膜症とは
子宮内膜症は、子宮内膜またはそれに類似した組織が、子宮内腔以外の異所で発生・発育する疾患です。これらの組織は月経周期に伴いホルモンの影響を受けて増殖と剥離を繰り返しますが、本来の子宮内腔外では経血として排出されることができず、周囲組織に炎症や癒着を引き起こします。子宮内膜症は、エストロゲン依存性疾患であり、特に20~30代の女性に多く、発症のピークは30~34歳とされています。
2. 子宮内膜症の発生要因
西洋医学的要因
月経回数の増加:
現代の女性は出産回数が減少し、月経回数が増えています。昔の女性は複数回の妊娠や授乳期間によって月経の頻度が抑えられていましたが、現代ではエストロゲンの長期的な影響を受けやすくなっています。
経血の逆流:
月経時に経血がうまく排出されず、腹腔内に逆流することが発症の一因と考えられています。これは、タンポンの使用や過度の冷えなどが影響する可能性があります。
ホルモン環境:
エストロゲンが長期間高い状態にあると、子宮内膜症のリスクが上がります。
中医学的要因
瘀血(おけつ):
血流の滞りがある体質が大きく影響します。瘀血の素因があると、月経血がスムーズに排出されず、腹腔内に蓄積して病変を形成します。
気滞(きたい):
ストレスや感情の乱れにより気の流れが滞ることで、瘀血が悪化しやすくなります。
痰湿(たんしつ):
体内の余分な湿気や老廃物が瘀血と結びつき、炎症や癒着を引き起こします。
3. 子宮内膜症の特徴的症状
主な症状
痛み:
月経痛: 約90%の患者に見られ、進行性(年々悪化)であることが特徴。
性交痛: 膣の奥深くに痛みを感じる。
排便痛: 肛門の奥に痛みが出る場合がある。
不妊:
患者の40~50%が不妊症状を持ちます。卵巣や卵管の癒着により、排卵や受精に影響を及ぼします。
その他:
肛門下垂感: 排便時の圧迫感や違和感。
慢性的な疲労感や腹部の不快感。
チェックリスト(セルフ診断)
月経痛が年々ひどくなっている。
性交時に奥深くに痛みを感じる。
排便時に肛門奥に痛みがある。
鎮痛剤を頻繁に使用するが改善しない。
妊活をして2年以上妊娠に至らない。
これらの症状がある場合は、一度婦人科検診を受けることが推奨されます。
4. 子宮内膜症の病態と中医学的解釈
西洋医学的病態
子宮内膜組織が異所で増殖し、剥離できないため炎症を引き起こします。
エストロゲンの過剰な影響により症状が進行。
中医学的病態
瘀血:
血流が滞ることで、痛みや塊、経血の黒ずみが見られる。
「通じざれば痛む(不通則痛)」の原則に基づき、瘀血が痛みの主因。
気滞:
感情の乱れやストレスが気血の流れを妨げる。
月経前の胸脇の張りやイライラ感を伴う。
痰湿:
湿気や老廃物が瘀血と結びつき、炎症や癒着を悪化。
陰虚(いんきょ):
長期化した場合、体内の陰液(潤い)が不足し、ほてりや不眠を伴う。
5. 子宮内膜症に対する中医学的アプローチ
弁証論治(個別対応)
瘀血型(おけつがた)
特徴: 月経痛が強く、経血に暗赤色の塊がある。
治療法: 活血化瘀(かっけつかお)薬で血流を改善。
処方例: 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、冠元顆粒。
気滞型(きたいがた)
特徴: 月経前の胸脇の張り、イライラ感。
治療法: 理気薬で気の巡りを良くする。
処方例: 逍遥散(しょうようさん)、柴胡疏肝散(さいこそかんさん)。
痰湿型(たんしつがた)
特徴: 下腹部の腫れ、体重増加、むくみ。
治療法: 化痰薬で湿気を取り除く。
処方例: 平胃散(へいいさん)、二陳湯(にちんとう)。
陰虚型(いんきょがた)
特徴: 長期化した痛み、ほてり、不眠。
治療法: 補陰薬で体内の潤いを補充。
処方例: 六味地黄丸(ろくみじおうがん)、知柏地黄丸(ちばくじおうがん)。
養生法(中医学的推奨)
食事: 温かい食べ物を摂取し、冷たい飲食物を避ける。
黒い食品(黒豆、黒ごま)、木の実類を積極的に摂る。
甘いもの、脂っこいものを控える。
運動: 気血の巡りを促進する適度な運動(ウォーキング、ヨガ)。
冷え対策: 腰や下腹部を冷やさないようにする(腹巻きや温灸)。
ストレス管理: 瞑想、深呼吸、趣味を活用して心を安定させる。
6. 子宮内膜症と子宮筋腫の共通点と違い
特徴子宮内膜症子宮筋腫主な原因瘀血、気滞、痰湿瘀血、痰湿、気滞主な症状月経痛、不妊、性交痛月経過多、下腹部の圧迫感エストロゲン依存性ありあり中医学的治療法活血化瘀、理気、化痰、補陰活血化瘀、化痰、補気
結論
子宮内膜症は、瘀血や気滞、痰湿といった中医学的要因が複雑に絡み合う疾患です。活血化瘀や理気などの漢方治療により症状の緩和が期待でき、適切な養生法を組み合わせることで長期的な改善を目指します。西洋医学の治療と併用する場合でも、漢方薬を体質に応じて取り入れることが効果的です。定期的な検診と早期の対応が重要であるため、症状に該当する場合は医師や漢方専門家に相談することをお勧めします。